MENU CLOSE

話題

ボランティアで「ライブ招待」は不純?仕掛け人の答えが斜め上だった

参加者と一緒にボランティア活動をする高橋みなみさん
参加者と一緒にボランティア活動をする高橋みなみさん 出典: RockCorps supported by JT 実行委員会

目次

 4時間以上のボランティア活動をすれば、有名アーティストのライブに行ける。そんな仕組みのイベントをご存じですか。「RockCorps(ロックコープス)」プロジェクトは、2005年にアメリカで始まり、現在、日本を含めた世界10カ国に広がっています。「ライブに行きたいからボランティアをやるって不純じゃないの?」。プロジェクト創設者に思い切って聞いてみると、ボランティアの概念を覆す言葉が次々に返ってきました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)

【PR】盲ろう者向け学習機器を開発。畑違いの挑戦に取り組んだ技術者の願い

RockCorpsってなんだ?

 お会いしたのは、RockCorps社の共同創設者で最高経営責任者のスティーブン・グリーンさん(51)です。

 「ぶっちゃけたこと聞きすぎて怒られたらどうしよう」とドキドキの記者をよそに、スティーブンさん、「ハイ!」とキラキラした笑顔であいさつしてくれました。

インタビューに応じてくれたスティーブン・グリーンさん
インタビューに応じてくれたスティーブン・グリーンさん 出典: 朝日新聞

 ロックコープスは、ボランティア活動が、若者にとって音楽やファッションのように身近な存在になるようにと、2005年にアメリカで始まりました。

 今までに世界中で17万人以上がボランティアに参加し、「セレブレーション」と呼ばれるライブには、レディ・ガガやリアーナらが参加しました。運営費は、企業の協賛でまかなっています。

 日本では2014年に初開催。過去3回のライブには、コブクロや中島美嘉さんらが出演、ボランティア参加者は合計約1万2千人になるそうです。

2016年のセレブレーション(ライブ)に出演したカナダ出身の人気歌手・カーリー・レイ・ジェプセンさん
2016年のセレブレーション(ライブ)に出演したカナダ出身の人気歌手・カーリー・レイ・ジェプセンさん 出典: RockCorps supported by JT 実行委員会

 という、世界的プロジェクトの仕掛け人であるスティーブンさん。

「今日はとっても興味深い質問をしてくれると聞いています」とニッコリ。

 おおお、さすが、余裕です。

 写真撮影をお願いすると、今日は対決インタビューっぽいからと、わざと怖い顔までしてくれる、おちゃめな人です。

「怒ったバージョン」もやってくれた、とってもフランクなスティーブンさん
「怒ったバージョン」もやってくれた、とってもフランクなスティーブンさん 出典: 朝日新聞

いざ、対決

 ようし。
 さっそく、聞きましょう。

――「ライブに行きたいからボランティアをやる」って、不純だとか偽善って言われたことありませんか?

(ス)イギリスで最初にやるときに、一部の人から言われたことがあります。でも、今までにボランティア活動を全くしたことがなかった人たちが実際に参加する様子をみて、「これは新しい社会貢献への入り口なんだな」と理解してくれました。ロックコープスを批判する人って、とても少数派だと思います。

――やはり最初はいろいろ批判があったんですね。

(ス)「ボランティアとはこういうものでないといけない」と決めつけなくていいと思っています。ボランティアは車みたいなものです。人々をつなげるための手段。ボランティアは、不安やストレスに満ちた今の社会を、ポジティブな方向にまとめるためのツールだと思っています。

ボランティアプログラムに参加した人たち。若い世代が多いという
ボランティアプログラムに参加した人たち。若い世代が多いという 出典: RockCorps supported by JT実行委員会

――ん? どういうことですか??

(ス)音楽は、若者にとってとても力があるので、私たちはライブを参加のインセンティブとして使います。でもそれはきっかけにすぎません。参加者がボランティア活動で実際に手を動かし、新しい友だちをつくり、社会にとって「いいことをした」と実感すると、心が満たされる。それが大事です。

――なるほど。フェスに参加するようなノリですね。フェスも単に音楽を楽しむだけでなく、「参加した!」「友だちできた!」という充実感がウケています。

(ス)SNSなどネット全盛の時代では、人々は孤独です。パソコンやスマホに向かい合うだけでは、社会的なつながりは得られない。ウェブやVRが発達すればするほど、フェスのような参加型のイベントの需要が盛り上がるのは、当然です。ロックコープスは、フェスのような感覚で参加して、しかも「世の中のためになることをした」と思ってもらえる。

参加者と一緒にボランティアプログラムに参加したロックバンド「SPYAIR」の4人。今年のセレブレーションに出演する
参加者と一緒にボランティアプログラムに参加したロックバンド「SPYAIR」の4人。今年のセレブレーションに出演する 出典: RockCorps supported by JT実行委員会

モラルの高さを競争するのは危険

――ロックコープスで初めてボランティアを経験したという人はどれくらいいるのでしょう?

(ス)例えば昨日、私は湘南で101人の若者と一緒に、RockCorpsの海岸のゴミ拾いボランティアプログラムに参加しました。彼らのうち99人がボランティア初体験でした。経験者は2人のみ。それだけの数の人をボランティアの世界に連れてくることができたのはすごいこと。実は批判する人って、なにもやったことがない人だと思います。

ーーそんなにたくさん初体験の人が来たんですね。で、また意地悪な質問なのですが、「ライブ目的」だとボランティアへの参加がその時だけになりませんか? その後も続くんでしょうか?

(ス)例えば昨日集まった人たちは、もちろんライブチケットがほしいという気持ちもあったと思いますが、これがボランティアだというのもちゃんと理解したうえで来ていました。ある女子大生2人組は、「ボランティア 夏」で検索してロックコープスを見つけたと言っていました。ボランティアって、興味はあっても、なにをどうやればいいのか、どうやって参加するものなのか、初心者にとっては謎ですよね。でも一度経験すれば、もう「私、やったことあります」と言える。野球選手は、まずは野球を始めないと野球選手になれない。ボランティアを始める手助けをするのがロックコープスだと思っています。

湘南で行われた海岸のゴミ拾いのボランティアプログラム。ほとんどがボランティア初経験者だった
湘南で行われた海岸のゴミ拾いのボランティアプログラム。ほとんどがボランティア初経験者だった 出典: RockCorps supported by JT実行委員会

――「ボランティア=高尚なもの」と思っている人は少なくないと思います。以前、「この問題について無知だからボランティアに参加する資格がない」と尻込みする若者に会ったことがあります。

(ス)良いことをするのに、良い人である必要はないんです。それを言い出したら、牧師さんかお坊さんしかボランティアをできなくなりますから(笑)「moral relativism」という言葉があります(直訳は「モラル相対主義」)。例えば「私は○○をやってるから、あの人より道徳的に優れている」と、人々のモラルに優劣を付けることです。「私の方がもっとエコだ」みたいな。この考え方は危険です。

――それをやると「意識が高い人選手権」になっちゃいますね。

(ス)そう、競争は危険。ライブに行くのも、ビールを飲むのも、ボランティアをするのも、楽しめばいい。等価値なのです。優劣をつけてはいけない。私たちは、あなた自身を変えてほしいとは思っていません。「ちょっとボランティアしてくる」くらいの感覚で、今のあなたのままで、参加してほしい。

2016年のセレブレーション(ライブ)の様子
2016年のセレブレーション(ライブ)の様子 出典: RockCorps supported by JT 実行委員会

――社会貢献なら「チャリティーコンサート」という形もありますが、お金を払うのではなく、「4時間の活動」という部分にこだわっているとうかがいました。

(ス)ええ、そうです。お金は、人によって持っている量が違います。でも、時間は平等です。どんなお金持ちでも、どんなに貧乏でも、4時間は4時間です。音楽も人々にとって平等なものです。音楽と時間を使って、人は平等なんだと伝えたくて。

――寄付って、お金持ちが「余ったもの」を差し出すもの、というイメージをもっていました。

(ス)日本のデータはわかりませんが、アメリカやイギリスでは、人々が自分の資産・時間のどれくらいを他人に寄付しているのかという調査で、資産が少ない人の方が、より高い比率の寄付をしていました。金持ちの1%はすごい金額なので目立ちますが、比率では資産が少ない人の方がたくさん寄付に割いている。きっと、資産をもっていない人の方が、寄付することでどれだけ人の役に立つか、知っているからだと思います。

参加者と一緒にボランティアプログラムに参加した歌手のmiwaさん(中央)。RockCorpsは、出演アーティストも全員4時間のボランティアを経験する
参加者と一緒にボランティアプログラムに参加した歌手のmiwaさん(中央)。RockCorpsは、出演アーティストも全員4時間のボランティアを経験する 出典: RockCorps supported by JT 実行委員会

カルチャーとして認められつつある

――ロックコープスは、日本では過去3回開催していますが、成果はありますか?

(ス)東日本大震災の復興支援を目的に、過去3回は福島県でセレブレーション(ライブ)を開催しました。当初は、私たちのコンセプトそのものがよくわからないという方が多かったのですが、いま私が週末に福島県に行くと、あちこちで「私、ボランティアやりましたよ」「私はやってないけど、友だちが参加してましたよ」と声をかけられるんです。福島県というコミュニティの中で、カルチャーとして認められつつある。この現象を、今度は日本全国に広めたくて、今年は千葉県・幕張メッセでの開催にしたんです。

――なるほど、次の段階へ、ということですか。

(ス)2020年の東京五輪に向けて、ボランティアのニーズも、関心も高まります。そこを見据えています。ゆくゆくは、大阪、福岡と全国で同時開催してみたいですね。セレブレーション(ライブ)の日は日本中でボランティアに注目が集まる日ってなるといいなあ。

今年のセレブレーション(ライブ)に出演する「androp」のメンバー
今年のセレブレーション(ライブ)に出演する「androp」のメンバー 出典: RockCorps supported by JT 実行委員会

 ロックコープスは、日本では、今年は「RockCorps supported by JT 2017」として開催中。9月2日に幕張メッセでセレブレーション(ライブ)が予定されています。歌手のmiwaさんや、アメリカのガールズグループ「フィフス・ハーモニー」らが登壇予定です。
 
 ライブ参加の条件であるボランティア活動は、ロックコープスが準備した29種類のプログラムから、日程の合う日を選び、公式サイトから申し込みます(今年の最終活動日は9月2日)。
 
 活動場所は、首都圏と福島県。首都圏での活動内容はゴミ拾いや写真の修復、里山保全など。福島県では、震災復興支援として農場の手伝いや、がれきの撤去、施設清掃などをしてきました。
 こうしたボランティアプログラムは、運営側が多くのボランティア団体のニーズを聞き、毎年内容を変えているそうです。

詳細は、公式サイト(https://rockcorps.yahoo.co.jp/2017/)をご覧ください。

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます