話題
アメリカの「本当に意識が高い人」が見た、日本の「意識高い系」
「あの人、意識高いよね」。ボランティアなど、社会の役に立つことをすると、日本では引かれてしまうことがあります。アメリカで、レディ・ガガらトップアーティストをボランティアに巻き込んだ「本当に意識が高い人」に、なぜ日本はボランティアのハードルがこんなに高いのか、「意識高い系」をどう見ているのかを聞きました。「意識が低くてもいいんです。低成長時代に幸せになるカギが、ボランティア」。どういうことでしょう?(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
話を聞いたのは、世界的イベント「RockCorps(ロックコープス)」を仕掛けるスティーブン・グリーンさん(51)。
ロックコープスは、4時間以上のボランティア活動をすれば、有名アーティストらによるライブのチケットがもらえるという、新しい形の社会貢献型イベントです。ボランティア活動が、若者にとって音楽やファッションのように身近な存在になるようにと、2005年にアメリカでプロジェクトが始まりました。
今までに世界10カ国で17万人以上がボランティアに参加し、「セレブレーション」と名付けられたライブは、過去にレディ・ガガやリアーナも参加しています。日本では2014年に初開催。4回目の開催となる今年は、9月2日に幕張メッセでセレブレーションが予定されています。
スティーブンさんは、ロックコープスをプロデュースする企業のCEOです。いろんな国で、社会を変えようと活躍しています。
そんな「本当に意識が高い人」に、日本の「意識高い系」の議論って、どう映るのでしょうか。聞いてみました。
――日本の若い世代には、「意識高い系」というネガティブワードがあります。社会貢献活動をしたり、真面目に頑張ったりする人を「イタい」「自己顕示がウザい」と批判する風潮です。
(ス)自己アピールと、それを嫌がる人たちは、SNSが加速させた面がありますよね。SNSに、単にセルフィーを載せるだけじゃなくて、「ボランティアをやってるよ」と写真を上げて「いいね」をたくさんもらいたい、という人はいますね。
――あ、そういうのは国を越えて共通なんですね。
(ス)個人的には、そういう動機のボランティアでもいいと思いますよ。ただ、「意識高い系」のSNS投稿でひとつ危険だなと思うのは、たとえば「私、すごいでしょ!温暖化問題のためにこんなことまでしてるの!」と発信をしてアピールをすることで、普通の人たちが「ボランティアってハードルが高いんだな」と尻込みをしてしまうこと。普通の人たちがアクセスできない世界だと広まってしまうと、よくない。
――ボランティアに興味はあっても、なかなか踏み出せない若者は多いと感じます。日本でボランティアとか社会参加のハードルが高いのって、なんでだと思います?
(ス)日本って、職業のアイデンティティがとても強いですよね。結婚式で会社の上司にスピーチをお願いするなんていうのが典型例です。会社の力がとても強い。そして、政府の力も、とても強い。例えば、この紙コップが会社だとします。で、政府はこのもうひとつの紙コップ。で、日本における「ボランティア」とかソーシャルな部分って……(メモ帳をちぎって1センチくらいに丸める)これくらい。
――ちっさ! 小さすぎ! でも同意です。会社の力は絶大です。仕事の優先順位は、ほかの活動よりはるかに高いですね。
(ス)もちろん、日本のこの小さな「ソーシャル」は成長しているところです。でも、他の国に比べると、まだまだ小さい。「会社員」や「納税者」としてのアイデンティティだけでなく、違うアイデンティティを持つべきだと思います。
――でも仕事以前に、日本では「社会は変えらないのでは」と思っている若者が多いようなんです。このデータを見てください。
――「意識高い系」を批判する人たちって、「社会は変えられるわけがない」と思っているから、「社会を変えられる」と言う人を「ウソつきだ」「自己アピールしたいだけだ」と思っている面もあるようです。
(ス)そういう批判があること自体が悲しいですね……。ただ、「社会を変える」とは何かということです。人によって違うんですよ。
――ん? と、いいますと?
(ス)たとえば20歳の青年。彼は、「世界は頑張れば劇的に変わる!」と信じています。でも、実際に親から独立して、社会に出て、世の中がいかに複雑で難しいのかを思い知ります。私は、こういう若者は好きですけどね(笑)
――ビッグドリーム系ですね。
(ス)次は35歳男性。結婚して、子どももいて、家も建てて、暮らしはとても現実的。「夢」なんて要素はありません。「社会を変える!」ということは、彼にとって優先順位が低い。社会というより、自分の身の回りの世界を良くしたい。子どもにいい教育を受けさせたいし、きれいな水を飲みたいし、いいサービスを受けたい。
――急に現実的になりましたね。
(ス)さらにもうひと世代足しましょう。昨日、福島で出会った82歳のサトウさん。彼は娘と孫がいる。彼は、仕事はリタイアして時間に余裕がありますから、自分の時間を娘や孫の世代のために使いたい。
――急に具体名になりましたね。
(ス)20歳は「理想」、35歳は「身の回り」、82歳は「次の世代」。それぞれのニーズに合った「社会貢献活動」ってあるんですよ。私たちは、こういう人生のステージごとのボランティアを提供すればいいんです。
――個人的な感覚ですが、日本は、3類型で言うと35歳型が多い気がします。身の回りの世界の優先順位が高い。そういう人にリーチするボランティアってなんなんでしょう?
(ス)そのカテゴリーにリーチするのは、三つのなかで一番簡単ですよ! キーワードは「地元」です。彼らにとって身近な世界を良くできるプログラムを提供すればいい。たとえば先日、ロックコープスのボランティアで、福島県内の公園の清掃をしました。参加者たちは県内のあちこちから来ていましたが、「こんなところにステキな公園があったんだなあ」と地元を再発見して、気に入った様子でした。ボランティアをすることで、公園が自分の一部になるというか、オーナーのような感覚になるんですよね。
――なるほど。
(ス)身の回りの世界を変えることは、自分でできることです。たとえ会社に振り回されても、自分の世界は、自分でコントロールできる。主語を「私」にすることが大事です。
――「私の世界を良くする」からはじめて、「社会をよくする」につながるわけですか。
(ス)いきなり世界全体を変えようと思わなくていいんです。スモールステップで始めましょう。私だって、最初はニューヨークでライブを成功させたい、という野望から始めましたから。それが今こうやって日本で若者文化について語るなんて。あの時は想像もしてませんでしたよ(笑)
――「人の役に立つ」ことに関心は高いけど、自信がないから「自分ごときがやってもいいのか……」と、なかなか踏み出せない若者は多いと感じます。さきほどの若者の国際調査で、「自分自身に満足している」とこたえたのは、アメリカは86%ですが、日本は45.8%です。
(ス)日本の若者の自信のなさは、私も実感していました。日本文化って本当に素晴らしくて、海外で自慢できることがたくさんあるのに、本当にもったいない! なんでそんなに自信が無いんだろう。いろんな答えがあるとは思いますが、ひとつはこの20年の経済の停滞でしょうか。親や兄弟が一生懸命に働いているのに、全然経済が成長しないのを、今の若い人たちは見てきました。
――それは影響あるかもしれませんね。
(ス)どれだけ頑張って働いても給料が上がりにくい。そのなかで自己肯定感を上げるには、「会社員」「労働者」以外のアイデンティティをもつべきです。
――というと?
(ス)さっきの小さな紙くずの「ソーシャル」の部分です。会社員として自信がつけられなくても、誰かの役に立つということで自信をつけられます。それがソーシャルな世界。インドの指導者ガンジーは「自分を知りたければ、人のために生きなさい」と言いました。ソーシャルな世界に関わることは、自己発見でもあります。
――たしかに、仕事だけで自己肯定感を上げようとしても、なかなかうまくいきませんね。
(ス)ボランティアに4時間参加するのは、肉体労働もありますから、それはそれで重労働です。でも、仕事とは全く違う疲れです。私たちロックコープスは、この人々の「ソーシャルな部分」を増やす存在になりたい。日本での開催も、福島から始めて、4回目の今年、関東に広がる。小さなステップから始めたロックコープスが、日本の若者の文化を変えられたら、すごく嬉しい。
――じゃあ、最後にそんなスティーブンさんの野望を教えてください。
(ス)「世界10カ国でやってるなんてすごい」って言われることがあるんですが、でも世界にはまだあと190カ国あるんですよ(笑) 大きなことを言う人はクレイジーだって言われちゃうんだけどね。まあ、私はクレイジーか!
◇
気がつけば、たっぷり1時間。スティーブンさんのお話を聞きました。長時間労働や「ブラック○○」という言葉が注目を集める日本社会ですが、「小さな紙くず」の部分がもう少し大きくなれば、「意識高い系」という言葉の使われ方も、また変化していくのでしょうか。
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