連載
#15 みぢかなイスラム
イランで人気「なまめかしい」ケース 「二つのふくらみ」が空港で…
中東のイランでいま、ちょっと変わった形をした布製のケースが人気を集めています。丸みを帯びた二つのふくらみがあり、ちょうど女性の肩幅より少し小さいくらいの大きさ。そう、女性の胸の形にそっくりなんです。このケース、いったい何に使うんでしょうか。
withnewsはこれまでも、イランのファッション情報にアンテナを張ってきました。
「法律でスカーフの着用を義務付けられているが、前髪は出している」「足のラインを見せるレギンスの流行が定着」「鼻先にばんそうこうを貼るのがおしゃれ」などなど……。
何かと規制のやかましい国ですが、おしゃれはみんなの関心の的。今回は2017年現在のトレンドをお届けします。
消しゴムから金の延べ棒までなんでも手に入る、首都テヘランの大バザール(市場)。
今年5月、迷路のような敷地内を歩いていると、見たことのない形のケースが店頭につり下げられているのが目に入りました。
うーん、これはなんだ?
布地のデザインはそれぞれ違うんですが、形はほとんど一緒。片側は平べったく、片側はこんもりと盛り上がっています。
ちょうど肉まんを2つくっつけたような。
売っている店は一つだけではありません。通りを挟んであちらにも、こちらにも。
このケースを扱う店舗は、入ってみると女性の下着店ばかりでした。
ちなみに、女性が人前で下着を見せるなんてことは金輪際あり得ないイランですが、人が着ていない、商品としての下着はふつうに人目に付くところで売られています。店員が男性ということも珍しくありません。
ともあれ、店員さんにどう使うのか聞いてみました。
まずは真ん中にあるファスナーをはずし、パカッとふたつに割ります。
次に、ブラジャーを入れ、ずれないようにフックで固定します。
下の方には好みに応じて小物を入れることができます。ファスナーを閉じ、元の形に戻したらできあがり。
というわけで、これは下着を収納するケースです。販売店の一つで、話を聞いてみることにしました。
店長のメフディ・ハレディさん(37)は、既に1万個のケースを売りさばいたといいます。
「最近のヒット商品だね。クチコミで広がったらしく、ずいぶん売れてるよ」
丸い形をしているのは、ブラジャーの形崩れを防ぐため。ブラジャーはワイヤーで形を維持しており、押されたり潰されたりすると、着け心地が悪くなってしまいます。
ケース自体はプラスチックに布を貼り付けたもののようで、かなり頑丈。日本にあるもので言うと、めがねケースくらいの強度はありました。
ハレディさんによると、デザインをしたのも、実際に商品をつくっているのもイラン人だとのこと。ただし、もともとはカナダ製の商品で、イランで売っているのはコピー品だという指摘もあります。一つのケースにブラジャーを6~12枚ほど重ねて入れることができ、旅行に重宝するとのふれこみです。
確かに便利そう。ですが、ヒットの理由はそれだけではなかったようです。
「荷物検査のときに中身を見られたくないという女性が、けっこう多いようだね」
テロ防止の観点から、イランでは荷物検査を比較的きちんと行います。特に、旅行のときによく使う空港では、搭乗前の保安検査場のほかに、空港ターミナルの建物の出入り口でも必ず荷物をX線に通します。
いったん怪しげだと認識されると、カバンをあけて細かくチェックされます。私も家族旅行の際、子どもが入れていたおもちゃが拳銃の形に見えると疑いをかけられ、スーツケースをひっくり返したことがありました。
「このケースなら、中に何が入っているのか、すぐにピンとくるでしょ」
イランの場合、女性の荷物検査は女性職員がするのが普通。ですが、自分の下着を必要以上にまさぐられるのは、相手が誰でも気分は良くないでしょう。そんな意味合いもあるとのことでした。
なお、ケースは一つ25万イランリアル(実勢レートで約720円)程度です。
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