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IT・科学

自分の頭で考えない! 専門家が教えるニセ科学にだまされない方法

専門記者がこたえます
専門記者がこたえます

目次

 水素水、マイナスイオン、ホメオパシー……。科学のようで、実はよくわからないものって、ありますよね。本当に効果はあるの? 信用していいの? 超常現象・ニセ科学分野を30年間取材し続ける専門記者に、「あやしい話」を見分けるコツを聞きました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)

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【超常現象を30年取材してるけど、質問ある?】
1.UFO編
2.フリーメイソン編
  前編 日常を知りたい
  後編 歴史を知りたい
3.ミステリーサークル編
4.ニセ科学編(今回)
皆神龍太郎さん
皆神龍太郎さん 出典: 朝日新聞

人間ってあやしい話が好きだよね

 皆神龍太郎さん(ペンネーム)です。
 超能力から、ネッシー、ツチノコ、死後の世界、生まれ変わり、予言、水素水、ホメオパシーまで。超常現象・ニセ科学かいわいのテーマを30年間取材し続けている、専門家です。
(そして、朝日新聞社員です)

 あやしい話に興味津々な若者たちに、質問してもらいます。

皆神さんの話を聞きに集まった若者たち
皆神さんの話を聞きに集まった若者たち 出典: 朝日新聞

 

若者

なんで人間って、あやしい話が好きなんでしょうね。信じちゃう人もいますし

 

皆神さん

たぶんそれは、質問が逆なんじゃないかと最近思っているんです。「人はなぜ信じるのか」ではなく、「信じない人がたまにいるはなぜか?」という方が実体に近いんじゃないでしょうか。

 

若者

ん? どういうことですか?

 

皆神さん

例えばUFO。
アメリカ空軍は1947年から1969年まで、約1万2千件ものUFOの目撃情報を調べましたが、その9割以上が「見間違い」でした。星や鳥、人工衛星などの見間違い。

見間違いということは、ウソじゃないんです。9割以上の人は自分が見たものをUFOだと本気で信じて真面目に空軍に報告をしていたわけです。だからうっかり信じてしまったからといって、それだけで人を責めてはいけないんです。
人間ってそもそも、いろいろ間違える存在でしょ?

 

若者

なるほど。

「UFOだ!」と信じてしまうのは、「ウソ」ではない(画像はイメージです)
「UFOだ!」と信じてしまうのは、「ウソ」ではない(画像はイメージです) 出典: PIXTA

 

皆神さん

幽霊とか怪奇現象とか、超常現象のほとんどは見間違いか勘違いの産物なんですが、でも自分が何かを体験したら、やっぱり人に話したくなるものじゃないですか。だから、広まるんだと思います。
まあ、別にUFOや宇宙人がいてもいなくても、人にそう危害は与えませんしね。

 

若者

たしかに(笑)

 

皆神さん

あやしい話で、人に害があるのは二つです。

ひとつは、人から健康を奪うもの。
医者に行くべき病気を、お祓いで治すとか、本当はなんの効果もないニセ薬で治すとか言い出すケースです。

もうひとつは、人の財布の中に手を突っ込むもの。
つまりお金をだまし取る詐欺です。霊媒師が「あなたは名前が悪いから改名しなさい。命名代に2000万円払え」とか言い出すケースです。

「あやしい話」の中でも、お金をだまし取るものは要注意(画像はイメージです)
「あやしい話」の中でも、お金をだまし取るものは要注意(画像はイメージです) 出典: PIXTA

「水素水」の本当のところって?

 

若者

詐欺とかは本当に怖いです。
「本当っぽい」ものといえば、たとえば水素水がはやってますけど、本当のところはどうなんですか?

 

皆神さん

「疑似科学」とか「エセ科学」「ニセ科学」などと呼ばれている分野ですね。

で、水素水というのは、健康やダイエットに効くと宣伝されている、「水素が入っているとされる水」ですね。
まずは、学術的な研究と健康食品的なビジネスとを、分けて考える必要があると思います。

 

若者

どういうことですか?

 

皆神さん

いまの水素水の商品は「ビジネス」で、まだ学術的に研究された、十分に裏付けのあるものではありません。

すでに朝日新聞がいくつか記事を出しています。水素水商品の中には、「健康に効果がある」と言ってはいけないのに言ってしまっているもの、そもそも水素がちゃんと入っていないものもあるようです。

記事のなかに、水素水商品を出している、ある大手飲料メーカーのコメントがあります。読んでみましょう。
「健康効果を標榜(ひょうぼう)するものではない。水分補給の一つの選択肢として販売している」。

 

若者

え、水分補給って・・・。

 

皆神さん

つまりはただの水を飲むのと同じということでしょ(笑)。
あまり期待しちゃいけなそうなコメントですね。
水素水はまだトクホ(特定保健用食品)のように健康効果をうたっていいものですらありませんから。

水素水の「痩せる」広告、根拠なし 消費者庁、3社処分(朝日新聞デジタル)
違法表示目立つ「水素水」 医療研究進むも効果疑問視する声も(朝日新聞デジタル)
2017年3月、景品表示法違反(優良誤認)として消費者庁が措置命令を出した水素水商品。合理的な裏付けがないのにダイエット効果などを宣伝したとされる
2017年3月、景品表示法違反(優良誤認)として消費者庁が措置命令を出した水素水商品。合理的な裏付けがないのにダイエット効果などを宣伝したとされる 出典: 朝日新聞

 

若者

でも、「やっぱり水素水を飲んだら体の調子がいいわ~」って言う人もいます。

 

皆神さん

有名な「プラシーボ効果」というものかもしれません。
知っていますか? 

本当は何の薬効もないのに「これは効く薬です」と言われてその気になって飲むと、3割くらいの人に本当に効果が出ちゃうっていう効果です。文字通りの「信じる者は救われる」という効果なんですが、この3割ってのはけっこう大きな数字ですね。

 

若者

そんなに効果が出ちゃうんですね。
「効果がある!」は本当……?(画像はイメージです)
「効果がある!」は本当……?(画像はイメージです) 出典: PIXTA

 

皆神さん

だから、そういう時は「ブラインド(目隠し)テスト」というのを行うんです。
テストを受ける被験者にわからないように、水素水とただの水を渡して飲み比べてもらい、その効果を比較するということをします。
そこまでしないと本当の効果というのはわからないものなんです。

 

若者

水素水と普通の水って、味が違うんですかねえ

 

皆神さん

自分で飲んでみたらいいですよ(笑) 

さらに言えば、ぜひ友だちとブラインドテストをやってみてください。友だちにただの水を「これ、水素水」って渡してみたら「やっぱり違うね~」とか言われるかもしれません(笑)
そういうテストを自ら何回かやってみると、
「人間の感覚ってあてにならない」ということが身をもってわかりますから。

ニセ科学に引っかからないコツ

 

若者

ニセ科学って、ほかにはどういうのがありますか?

 

皆神さん

そんなに数は多くないです。少し前だと、水に「ありがとう」と声を掛けると綺麗な結晶ができるという「水からの伝言」というのがありました。あとホメオパシーやEM菌と呼ばれているものなどが、かなり論争になっています。

 

若者

あーなんか聞いたことあります。

 

皆神さん

最近は、ニセ科学の分野に「これは違うぞ。気をつけろ」と科学者が口を出すようになり、
「ニセ科学は許さない!」という科学者たちが裁判でも戦ったりしています。

ニセ科学を許さず、裁判で戦う科学者もいる(画像はイメージです)
ニセ科学を許さず、裁判で戦う科学者もいる(画像はイメージです) 出典: PIXTA

 

若者

もっともらしいから、信じちゃうんですかね。
引っかからないようには、どうすればいいんですか?

 

皆神さん

よく「自分の頭で考えなさい」って言うでしょ、でもこれは逆じゃないかと思うんですよ。
つまり、まずは「自分の頭で考えない」こと。
だって、自分の頭の中に科学的に正確なデータが入っていればいいですよ? 
なんにも入ってないのに思い込みだけで勝手に考えたら、一見もっともらしいことに簡単に騙されちゃうでしょ? 
もちろん、他人が言うことをうのみにしても、いけません。まず必要なのは正しい勉強です。

 

若者

うっ勉強……。

 

皆神さん

森羅万象の科学的事実を一から全部学ぶのは、もちろん無理ですよ(笑)
ただ、ニセ科学に限って言えば、たいていそれを「素晴らしい」っていう人と、「ダメだ」っていう人の両方がいるわけです。その人たちの主張のうち、質が良いと思われるものを両方読み比べることから始めるのがいいと思います。
そうしないと、うまーく都合が良いようにデータを引用した一方の主張に洗脳されちゃいますから。

一方の主張に洗脳されないコツは?(画像はイメージです)
一方の主張に洗脳されないコツは?(画像はイメージです) 出典: PIXTA

 

若者

でも、素人には何が「質が良いもの」なのかがわからないです。

 

皆神さん

ニセ科学を巡る論争で、一番大事なのは、自らの主張を裏付ける客観的なデータがちゃんと提示されているかどうかです。
「道徳的に素晴らしい」とか「感激した」といったことは一度脇に置いておいて、その主張に客観的な証拠があるかどうかで判断すべきです。

 

若者

なるほど。

 

皆神さん

「信じているけど、なんの客観的データ(根拠)もない」という立場を「信者」とか「ビリーバー」と呼んでいます。

逆に「信じてない」、「あるわけないじゃん」とただ言うだけで間違っていることを示す根拠は持っていない、という人は「否定派」と呼んでいます。

この立場の人は、主張に客観的な根拠がないという点でいえば「信者」とそう変わらないとも言えますね。ここに属している「ニセ科学が単に嫌いなだけ」という科学者もまた多いわけです。

データがあるか、ないか。肯定か、否定か。グラフにすると、こんな感じ
データがあるか、ないか。肯定か、否定か。グラフにすると、こんな感じ 出典: 朝日新聞

 

皆神さん

「データを慎重に調べた結果、間違っているので信じていない」という立場は、僕らみたいに「懐疑派」と呼ばれています。
そして最後の「客観的で確かなデータをちゃんと持っていて、だから信じている」という人は一番数が少ないです。超常現象に関して、学術レベルの論争にも耐え得るような、高レベルの研究をしている人たちがここに入ります。
ただ僕が知る限り、ここに分類される研究者は日本にはほとんどいない、というのが大変残念なところです。

ニセ科学の場合は、自分たちにとって都合が良い、一見客観的にみえるけど実はそうではない、というデータをよく出してきますから、そこは注意が必要です。

 

若者

うーん。でもその見極めは自信ないです。

 

皆神さん

そこは確かに難しい。
でもさっき言ったみたいに、最近はニセ科学の議論に科学者が参入していますから、彼らの反論を見るといいですよ。「そのデータは使えない」とか「調査がいい加減」とか、鋭く指摘してくれていますから。

でも一番簡単なのは「ニセ科学かも」と思ったら、もう手を出さないこと。
あえて火中の栗を拾いたければ話は別ですけどね。

――ニセ科学に引っかからないよう、気をつけたいですね。次回は「心霊現象」です。

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