水素水、マイナスイオン、ホメオパシー……。科学のようで、実はよくわからないものって、ありますよね。本当に効果はあるの? 信用していいの? 超常現象・ニセ科学分野を30年間取材し続ける専門記者に、「あやしい話」を見分けるコツを聞きました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)

人間ってあやしい話が好きだよね
皆神龍太郎さん(ペンネーム)です。
超能力から、ネッシー、ツチノコ、死後の世界、生まれ変わり、予言、水素水、ホメオパシーまで。超常現象・ニセ科学かいわいのテーマを30年間取材し続けている、専門家です。
(そして、朝日新聞社員です)
あやしい話に興味津々な若者たちに、質問してもらいます。

若者
皆神さん
若者
皆神さん
アメリカ空軍は1947年から1969年まで、約1万2千件ものUFOの目撃情報を調べましたが、その9割以上が「見間違い」でした。星や鳥、人工衛星などの見間違い。
見間違いということは、ウソじゃないんです。9割以上の人は自分が見たものをUFOだと本気で信じて真面目に空軍に報告をしていたわけです。だからうっかり信じてしまったからといって、それだけで人を責めてはいけないんです。
人間ってそもそも、いろいろ間違える存在でしょ?
若者

皆神さん
まあ、別にUFOや宇宙人がいてもいなくても、人にそう危害は与えませんしね。
若者
皆神さん
ひとつは、人から健康を奪うもの。
医者に行くべき病気を、お祓いで治すとか、本当はなんの効果もないニセ薬で治すとか言い出すケースです。
もうひとつは、人の財布の中に手を突っ込むもの。
つまりお金をだまし取る詐欺です。霊媒師が「あなたは名前が悪いから改名しなさい。命名代に2000万円払え」とか言い出すケースです。

「水素水」の本当のところって?
若者
「本当っぽい」ものといえば、たとえば水素水がはやってますけど、本当のところはどうなんですか?
皆神さん
で、水素水というのは、健康やダイエットに効くと宣伝されている、「水素が入っているとされる水」ですね。
まずは、学術的な研究と健康食品的なビジネスとを、分けて考える必要があると思います。
若者
皆神さん
すでに朝日新聞がいくつか記事を出しています。水素水商品の中には、「健康に効果がある」と言ってはいけないのに言ってしまっているもの、そもそも水素がちゃんと入っていないものもあるようです。
記事のなかに、水素水商品を出している、ある大手飲料メーカーのコメントがあります。読んでみましょう。
「健康効果を標榜(ひょうぼう)するものではない。水分補給の一つの選択肢として販売している」。
若者
皆神さん
あまり期待しちゃいけなそうなコメントですね。
水素水はまだトクホ(特定保健用食品)のように健康効果をうたっていいものですらありませんから。

若者
皆神さん
知っていますか?
本当は何の薬効もないのに「これは効く薬です」と言われてその気になって飲むと、3割くらいの人に本当に効果が出ちゃうっていう効果です。文字通りの「信じる者は救われる」という効果なんですが、この3割ってのはけっこう大きな数字ですね。
若者

皆神さん
テストを受ける被験者にわからないように、水素水とただの水を渡して飲み比べてもらい、その効果を比較するということをします。
そこまでしないと本当の効果というのはわからないものなんです。
若者
皆神さん
さらに言えば、ぜひ友だちとブラインドテストをやってみてください。友だちにただの水を「これ、水素水」って渡してみたら「やっぱり違うね~」とか言われるかもしれません(笑)
そういうテストを自ら何回かやってみると、
「人間の感覚ってあてにならない」ということが身をもってわかりますから。
ニセ科学に引っかからないコツ
若者
皆神さん
若者
皆神さん
「ニセ科学は許さない!」という科学者たちが裁判でも戦ったりしています。

若者
引っかからないようには、どうすればいいんですか?
皆神さん
つまり、まずは「自分の頭で考えない」こと。
だって、自分の頭の中に科学的に正確なデータが入っていればいいですよ?
なんにも入ってないのに思い込みだけで勝手に考えたら、一見もっともらしいことに簡単に騙されちゃうでしょ?
もちろん、他人が言うことをうのみにしても、いけません。まず必要なのは正しい勉強です。
若者
皆神さん
ただ、ニセ科学に限って言えば、たいていそれを「素晴らしい」っていう人と、「ダメだ」っていう人の両方がいるわけです。その人たちの主張のうち、質が良いと思われるものを両方読み比べることから始めるのがいいと思います。
そうしないと、うまーく都合が良いようにデータを引用した一方の主張に洗脳されちゃいますから。

若者
皆神さん
「道徳的に素晴らしい」とか「感激した」といったことは一度脇に置いておいて、その主張に客観的な証拠があるかどうかで判断すべきです。
若者
皆神さん
逆に「信じてない」、「あるわけないじゃん」とただ言うだけで間違っていることを示す根拠は持っていない、という人は「否定派」と呼んでいます。
この立場の人は、主張に客観的な根拠がないという点でいえば「信者」とそう変わらないとも言えますね。ここに属している「ニセ科学が単に嫌いなだけ」という科学者もまた多いわけです。

皆神さん
そして最後の「客観的で確かなデータをちゃんと持っていて、だから信じている」という人は一番数が少ないです。超常現象に関して、学術レベルの論争にも耐え得るような、高レベルの研究をしている人たちがここに入ります。
ただ僕が知る限り、ここに分類される研究者は日本にはほとんどいない、というのが大変残念なところです。
ニセ科学の場合は、自分たちにとって都合が良い、一見客観的にみえるけど実はそうではない、というデータをよく出してきますから、そこは注意が必要です。
若者
皆神さん
でもさっき言ったみたいに、最近はニセ科学の議論に科学者が参入していますから、彼らの反論を見るといいですよ。「そのデータは使えない」とか「調査がいい加減」とか、鋭く指摘してくれていますから。
でも一番簡単なのは「ニセ科学かも」と思ったら、もう手を出さないこと。
あえて火中の栗を拾いたければ話は別ですけどね。
――ニセ科学に引っかからないよう、気をつけたいですね。次回は「心霊現象」です。