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椎名林檎「いつも死を意識」「子ども5、6人産む」 5年半ぶり新作

椎名林檎が5年半ぶりのソロアルバム「日出処」を出し、ロングインタビューに応じました。独特の死生観から女の性(さが)まで生々しく語りました。

「人生がシンプルになってきた」と語る椎名林檎=早坂元興撮影
「人生がシンプルになってきた」と語る椎名林檎=早坂元興撮影 出典: 朝日新聞

「女性は、全てを奪われちゃう瞬間が来る」

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 ――9曲目の「ありきたりな女」は、何か大きな「別離」が描かれているように感じました。どんな思いでつくられたのでしょうか。

 これは……ごめんなさい。男性に説明する機会があることをまったく想定していなかったのですが、女の人に独特のものだと思うんですよね。

 女性は行動するより前にこうしよう、と考えることがあまりない生き物なんじゃないかと思うんです。先に手が出るというか、体で感じて体で動くっていう。で、精神や頭脳がそこに連動しやすい。男性はそれが乖離しやすくて、それぞれの苦労があるのでしょうが。

 女性はやっぱり、おいしそうなものにクンクンって吸い寄せられて、それで満腹になったら飽きて、別の方に行って。そういう風に生きていくものだと思うんです。夢中になる対象があって、「カッコイイ!」とか「おいしい!」とか「カワイイ!」とか。

 だけどある時、全部それを奪われちゃうような瞬間が来るんですよね。気分に従っているだけで良かったのが、まったくうまくいかなくなる。

 たとえば、大人になって大好きな人ができて、今まで男の子とチョメチョメしてきたのがリハーサルだったのかと思うぐらい、「私はこの人のために、経験や知識やこれから学ぶこと全部を捧げなければいけない。捧げるべきなんだ」って心に決める。すごく本能的に感じるんですよね。

 それは多分、その人と掛け合わせた遺伝子を産まなければいけない、という指令なのかもしれないし、自分ではどうしようもないんですよね。

 そういう体験が、仕事のなかでもあるかもしれないし。お産によってハッキリと感じるかもしれない。物理的に育児に時間を奪われるとか、そんな話じゃなくて。今まであんなにときめいてきて、あんなに翻弄されて、電話のなかに彼がいると思って電話をずっと見てた、ああいう時間は何だったんだというぐらい、まったく次元の違う大事なものができてしまう瞬間があるんですよね。ここで書きたかったのは、そういうことなんです。

 もちろんすごく楽しかったはずだし、思い出すと涙が出るほど寂しいんだけど、今はまったくいらない。だからこれだけがほしいっていう。

 ――完全に誤読していました。手放さなければいけない悲しみはあるけれど、そんなことはどうでも良くなるぐらい、新しい大切なものがある。そちらに重点が置かれているわけですね。

 はい。

 ――やはり、2回の出産体験が大きかったのでしょうか。

 そうですね。もっとドンドン、ドンドンしますけど。5、6回はしようかなと(笑)。でも、出産じゃなくても、女の人にはあることだと思いますよ。(感覚ではなく)頭で理解しようとしちゃう瞬間が、人生で何度かあるんじゃないでしょうか。大きな選択っていうか。

 ――今まで夢中になっていたものが、急に冷めてしまう。

 それより、よほど守らなきゃいけないものができるとか。自分の人生をすべて捧げなきゃいけない時が来るんですよね。

『ありきたりな女』 出典: 椎名林檎オフィシャルチャンネル

 ――10曲目「カーネーション」は、慈しむような命の賛歌ですね。NHK連続テレビ小説「カーネーション」の主題歌として全国に流れました。

 「ありきたりな女」を書いたのは、次の曲の「カーネーション」を聴かせたかったからでもあるんです。「カーネーション」は「何を言っているかわからない」とか、散々言われたので。私が意図した通りに聴いていただくために、その導入部分が書きたいな、と思って。

 ――では連作というか、つながっているんですね。

 そうなんです。このアルバムは続いていくストーリーとして書いて参りました。

震災で見た母子の姿「本当だと思う」

 ――「何も要らない私が今 本当に欲しいもの等 唯一つ、唯一つだけ」という歌詞が印象的ですが。

 「じゃあ何が大事なの」とか言われちゃったり。日本的な書き方で、ハッキリとは書かなかったからじゃないですかね。これを書かなきゃいけなかったのが、2011年の4月ぐらいで、3.11の直後だったんですよ。ちょうど、「カーネーション」というドラマは、戦中・戦後の話だったんですね。日本が何もかも喪失して、誇りを失って、という。すごく酷似した状況だったと思うんです。もちろん「災い」の種類は違いますけど。

 もう何をどうしたら、という思いで。連日連日、テレビを見れば嗚咽してしまうような場面がずっと続いていて。何日かぶりに、泥だらけで再会できた母子の姿が映るんだけど、その母子の間には何の言葉もないんですよね。それはテレビカメラがあるからじゃなくて。ただ、黙って再会して、もう離さないようにしようと確かめ合っている。それが本当だと思うんですよね。私も絶対そうなると思うし。

 だからあまり饒舌なものは書きたくなかった、というのはあります。女ならば誰でも知っている部分だけを書こう、と。その年の秋から繰り返し流れるテーマソングだったので、すごく難しかったですね。

「男性向けと思ったこと1回もない」

 ――やはり、女性のために歌っている曲が多いのでしょうか。男性ファンもたくさんいると思いますが。

 男性のお客さんでライブにいらしている方というのは、何かしらの誤解が生じているんじゃないかなって(笑)。何か聴くことあるのかな。

 ――私も誤解し続けてきたのかもしれません(笑)。

 いや、違うんです。ごめんなさい。もし来てくださる方がいらっしゃったとしたら、じゃあ何をご覧になっているんですか? っていう。

 ――逆に聞きたいと。

 そうです。そうです。だから何かご用意すべきですよね、彼らへのメニューを。ちなみに、今までは一度もご用意したことないです。男性向けと思ったことは1回もない(笑)。これから何か……。いや、でも空回りしちゃうと思います、多分。

 ――先ほども少し触れましたが、アルバムの13曲目、最後を飾るのが「ありあまる富」です。この曲も、ドラマ「スマイル」(TBS系)のタイアップですね。アルバム収録曲13曲のうち、タイアップが6曲を占めています。

 タイアップ無くしてはできなかった曲ばかりですね。ストックの曲を「これでいいですか」なんて出したら、すぐバレちゃう。「こういう曲書けるはずだよ、もっと書いて」という感じで、ディレクションじゃないですけど、自分の知らなかった、眠っていた部分を毎回引っ張り出していただいているんです。幸せな形だと思います。

「キャバレーをつくって、一番奥の座敷でお酒を飲んで。日々面白おかしく暮らしたい」という椎名林檎=早坂元興撮影
「キャバレーをつくって、一番奥の座敷でお酒を飲んで。日々面白おかしく暮らしたい」という椎名林檎=早坂元興撮影 出典: 朝日新聞

「セクシーで、エッチで、ときめくキャバレーをつくりたい」

 ――今後の抱負をお聞かせください。

 子ども5、6人ぐらい産んで。キャバレーつくって、若い女の子に踊ってもらって、一番奥の座敷でおいしいお酒飲んで。生バンドのディレクションをして、女の子たちがやるちょっとしたミュージカルを書いて。日々楽しく、面白おかしく暮らしたい(笑)。
 
 ――キャバレーの従業員は林檎さんの娘さんということですか。

 そんなのたかが知れてますよ。5、6人じゃ足りないんです。もっともっとたくさん。そこに行けば、かわいこちゃんのフレッシュなところが見られるような、ときめきの発信地をつくりたいんです。踊るのは若い子なんですけど、ロリコン的な感じではなくて。海外のお客様がいらしても恥ずかしくない、成熟・円熟のときめきっていうか。セクシーでエッチで素敵な場ができたらいいですよね。

 ――やけにコンセプトが具体的ですね。

 そうですよ。キャバレー「ボン・ボヤージュ」。どうですか? ぜひ出資してください!

『日出処』コメンタリー映像 出典: 椎名林檎オフィシャルチャンネル

(しいな・りんご)
 1978年11月25日生まれ。福岡市出身。98年、シングル「幸福論」でデビュー。アルバム「無罪モラトリアム」が160万枚、「勝訴ストリップ」は250万枚以上を売り上げた。04年からはバンド「東京事変」でも並行して活動。アルバム「教育」「大人」などを出し、12年に解散した。今年は、過去の提供曲をセルフカバーした「逆輸入 ~港湾局~」や、5年半ぶりのソロ作「日出処」を発表。アリーナツアーも予定している。

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