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#12 みぢかなイスラム
ラマダン中のテロ、なぜ増える? 日本人も知っておきたいその理由
ヨーロッパや中東でイスラム過激派によるテロが相次いでいます。ロンドンで6月3日夜に起き、7人が死亡したテロもその一つです。イスラム社会はいま、年に1回の断食月、ラマダンの真っ最中です。期間中に「努力」をすると、天国に行ける可能性が高まると言われるラマダン。「聖なる月」になぜテロが増えるのかには理由がありました。
イスラム教徒はラマダンの1カ月間、日の出から日没までのあいだ、一切の飲食を絶ちます。
毎日の神への礼拝、聖地メッカの巡礼などに並び、イスラム教でもとりわけ重要な行事の一つとされています。
今年、2017年のラマダンは5月27日(地域によっては28日)に始まりました。
その前後に起きた主なテロだけでも、これだけあります。
5月22日 イギリス・マンチェスター 死者22人
5月24日 インドネシア・ジャカルタ 死者3人
5月26日 エジプト・ミニヤ 死者29人
5月27日 アフガニスタン・ホースト 死者14人
5月29日 イラク・バグダッド 死者13人
5月30日 イラク・バグダッド 死者10人
5月30日 イラク・ヒート 死者12人
5月31日 アフガニスタン・カブール 死者90人
6月3日 アフガニスタン・カブール 死者20人
6月3日 イギリス・ロンドン 死者7人
このうち、アフガニスタンで起きた事件を除き、すべてのケースで「イスラム国」(IS)が犯行声明を出すか、捜査などによってIS系の犯行だと疑われています。
1年前の2016年7月にバングラデシュの首都ダッカで起きた、日本人7人を含む、少なくとも20人がレストランで殺害された事件も、起きたのはラマダン中でした。
犯行グループは「ISバングラデシュ」を名乗っていました。
ISは今年5月、ラマダンが始まる前、支持者に「総力戦」を呼びかける動画をユーチューブに公開。
「異教徒を、家で、市場で、道路で、広場で攻撃せよ」「ラマダンの偉大な報酬を手に入れよ」などと呼びかける内容でした。
ISは毎年、ラマダンの前になると同じようなメッセージを流しています。
表向きの理由は、ラマダンが「聖なる月」だからです。
ラマダンの間に努力をすると、ふだんよりも天国に行ける可能性が高まるとされています。
ジハードという言葉を聞いたことがあるでしょうか。
日本では「聖戦」と訳されることが多いようですが、実は「努力」「がんばる」といったような意味合いです。
ふつうのイスラム教徒は、より誠実なふるまいをしたり、貧しい人に自分のものを分け与えたりすることを、努力だと考えます。
これに対し、異教徒を殺すことこそが努力だと信じているのが、イスラム過激派です。
ただ、他にも理由はあるようです。実はISにとって、ラマダンは「書き入れ時」。
イスラムの教えの一つに、喜捨(ザカート)というのがあります。寄付のことです。
生活に必要な分を除き、持っている財産の2.5%は寄付をすることになっています。
しかも、ラマダン中の寄付は功徳が高いと言われています。
寄付をする相手は誰でもいいので、親族や知人にあげる人が多いようです。
赤新月社(日本でいう赤十字社)や慈善団体に寄付をする人もいます。
ところが、過激派の考えに共鳴し、寄付をする人も少なからずいるのが実情です。
また、各国は過激派組織への送金を監視していますが、ラマダンの時期はたくさんのお金が一斉に動くため、目が行き届きにくくなります。
ゆえに「書き入れ時」なのです。
イスラム過激派といっても、ISのほか、2001年にアメリカで同時多発テロを起こしたアルカイダや、シリアで活動する「シャーム解放委員会」(旧ヌスラ戦線)など、たくさんの組織があります。
信者からの寄付は重要な資金源。
寄付を多く集めようと思えば、目立たなければなりません。
とりわけ反応の大きい欧米でのテロ、欧米人を狙ったテロは、彼らにとって重要な「広告塔」になってしまっています。
いま、ISは本拠とする中東のイラクやシリアでの戦闘で、追い詰められています。
「領土」の拡大は難しく、各地でのテロを中心とする作戦に切り替えた可能性も指摘されています。
卑劣なテロには、今後も警戒が必要です。
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