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化学兵器、ふつうの兵器と何が違う? トランプ大統領「激怒」の理由
中東のシリアで化学兵器が使われたとして波紋が広がっています。アメリカは6日、報復として、シリア政府軍の基地に59発のミサイルを撃ち込みました。ですが、シリアでは2011年から内戦が続き、これまでの死者は40万人を数えます。化学兵器による攻撃が、砲弾や銃といったふつうの武器より悪質だとされるのはなぜでしょうか。
シリアの北西部にあるイドリブ県で4日、息ができずに苦しむ人が次々と病院に運び込まれました。世界の人びとの健康を守ることを目指す国連の世界保健機関(WHO)は5日、「有機リン系化合物にさらされたとみられる」と発表しました。
有機リン系化合物とは、私たちの身近にあるもので言えば殺虫剤。ですが、毒性を高めれば人を殺すこともできます。その代表がサリンです。日本でも1995年、オウム真理教が東京の地下鉄でサリンをまき、13人が死亡、6千人以上が負傷しました。
今回のシリアでも、サリンが使われた疑いがあります。
アメリカのトランプ大統領は5日、「私にとってのいくつもの一線を超えた」「シリアとアサドに対する私の考え方は大きく変わった」と話し、アサド大統領をトップとするシリアの政府軍が化学兵器を使ったと断言。6日、ミサイル攻撃に踏み切りました。
オバマ前大統領は、シリアへの空爆を「イスラム国」(IS)など過激派組織に限っていました。アメリカがシリア政府側を攻撃するのは、2011年に内戦が始まってから初めてです。
シリア政府は化学兵器による攻撃を否定しています。
化学兵器とは、ふつう毒ガスのことです。
シリアの現地から送られてくる映像や写真には、毒ガスに苦しむ子どもたちの姿が多く見られます。子どもは体が小さいので、同じ量の毒ガスを吸えば、より重い症状になります。
戦争にもルールがあって、戦いは軍人、兵隊同士の間でする決まりです。民間人を巻き込むことは禁じられています。ところが、毒ガスは標的を絞ることができません。風の吹くままに広がり、あたりを汚染します。
つまり、毒ガスをまく側は最初から「民間人が巻き込まれてもいい」と思っているということです。これは無差別殺人、虐殺です。
無差別に人を殺すので、化学兵器は国際的に「大量破壊兵器」の一つだとみなされています。核兵器と同じ分類です。
一方で、開発に必要な科学力や技術力は核兵器より低く、かかるお金もずっと少ないため、簡単に使われる危険性があります。
毒ガスは後遺症も残します。
アメリカ軍は1960年からのベトナム戦争で「枯れ葉剤」を使いました。その名の通り除草剤ですが、強い毒性があり、女性たちは正常な出産ができなくなりました。
2人の赤ちゃんの体がくっつき、上半身は二つあるのに下半身は一つという状態で生まれた「ベトちゃんドクちゃん」は、日本でも広く報道されました。
枯れ葉剤は、ジャングルに身を潜めるベトナム兵たちの攻撃に手を焼いたアメリカ軍が、ジャングルを枯らす目的でまいたと言われています。
被害者は300万人以上に及ぶとされ、汚染された地域で取れた魚や農作物を食べる人の間では、今も本人や子ども、孫にがんや身体・知的障害が発症し続けているそうです。
ヨーロッパにあるベルギーの西部では、100年以上前にあった第一次世界大戦で使われた毒ガス弾がなお残っています。当時撃ち込まれた6600万発のうち、3割が不発弾だったからです。今も年100トン以上の不発弾が見つかり、処理が続いているとのこと。土壌の汚染も心配されています。
こうした理由で、化学兵器はとりわけ非人道的だと言われているのです。
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