連載
#9 ことばマガジン
性別自由に!同性婚もGO ゲームの仮想世界、キャラ設定多彩に
ゲームの世界も現実の社会と無縁ではありません。
人気沸騰で社会現象になったゲームアプリ「ポケモンGO」は、実際の地図を使ったAR(拡張現実)技術を取り入れています。VR(仮想現実)を体感できる「プレイステーションVR」も昨秋発売され、ゲームの楽しみ方が一気に広がりました。でも、そんな架空の世界も現実の社会と無縁ではありません。男女の性別に必ずしもとらわれず、同性愛にも配慮する。こうした新しい動きが広がっています。(朝日新聞校閲センター・金子聡/ことばマガジン)
ポケモンシリーズはもともと、ロールプレイングゲーム(RPG)として1996年に発売されたゲームボーイ用「赤・緑」が初めての作品です。
携帯型ゲーム機の手軽さを生かしたモンスター交換システムなどが人気を呼び、続編が次々に製作されました。昨年11⽉発売のニンテンドー3DS⽤「サン・ムーン」は、世界で1400万本以上を売り上げています(昨年12月末時点)。
最初の「赤・緑」では主人公は男の子でしたが、2000年の「クリスタル」で女の子も選べるようになり、13年発売の「X・Y」ではさらに肌や瞳などの色も選択できるようになりました。
「お客様の好みに応じられるよう、多くの選択肢を提供したい」(ブランドを管理している株式会社ポケモンの広報担当者)という考えが、幅広く受け入れられているようです。
ポケモンでの主人公の選択肢は、ポケモンGOでさらに広がりをみせました。
日本で開発されてきたシリーズと違い、ポケモンGOはアメリカのナイアンティック社が手がけています。「X・Y」では主人公の容姿を設定する画面で「キミは男の子? それとも女の子かな?」というメッセージだったのが、「GO」では「あなたのスタイルを選んでください」と、性別に言及していません。
ポケモン社の広報担当者は「『スタイル』という言葉は、ゲーム内で操作するキャラクターが自分自身ではなく、あくまでもアバター(分身)であることをより分かりやすくするため」といいます。
最新作の「サン・ムーン」でも、男女の別を確認するメッセージはありません。
同性愛などの性的指向についてもゲームの世界での対応が求められました。
任天堂は14年春、プレーヤーや知人の分身となるキャラクター「Mii」を架空の島で共同生活させるゲーム「トモダチコレクション 新生活」の海外版発売にあたり、アメリカ・アリゾナ州の男性から「Mii」が同性同士では結婚できない点を批判されました。
任天堂アメリカ法人は当初、「(ゲーム内容は)社会的主張を意図したものではない。交流機能は実生活の反映というよりも遊び心あふれる別世界を表したもの」としましたが、現地メディアにその対応を否定的に報じられました。
任天堂は謝罪した上で、今作での修正は技術的に不可能としながら、次回作の機会があれば「より多くのプレーヤーをより良く表現できるように努める」としました。
同じ任天堂では、15年発売のシミュレーションRPG「ファイアーエムブレムif 白夜王国・暗夜王国」で、進め方によっては主人公が同性のキャラクターと結婚するストーリーを盛り込みました。
「ファイアーエムブレム」は1990年にファミコン版の第1作が発売され、これまでのシリーズ作品では異性カップルは描かれていましたが、同性婚は初めてのことです。
任天堂アメリカ法人のレジナルド・フィサメ社長は「当社のゲームでの体験は、地域社会の多様性が反映されたものであるべきだ」とコメントしました。
スクウェア・エニックスは、2013年発売の多人数参加型オンラインRPG「ファイナルファンタジーXIV 新生エオルゼア」に14年末、プレーヤーキャラクター同士がゲーム内で結婚できるシステム「エターナルバンド」を性別や種族の制限なく追加しました。
これに先立ってロサンゼルスで開かれた世界最大のゲーム見本市・E3で、吉田直樹プロデューサーは「(ゲーム世界の中で)愛を誓い合うのに性別や種族は関係ない」と述べています。
これは性的少数者のプレーヤーの共感を呼び、オンラインゲームからヘイトスピーチをなくす活動を10年以上続けているアメリカの団体がゲーム内でパレードを行い、吉田氏への感謝を示しました。
ネット経由で遠く離れたプレーヤーと遊ぶゲームが当たり前になり、ポケモンGOのように「外遊び」化するものも登場しました。片手で楽しめるスマホゲームが普及し、腕に障害のある筆者の同僚は「実況パワフルプロ野球」(コナミ)のスマホ版に「ゲーム機のコントローラーより操作しやすい」とどっぷりハマっています。
3月3日には、据え置き型と携帯型が組み合わさった新しいスタイルのゲーム機「ニンテンドースイッチ」も登場します。
ハードウェアの進歩は、ゲームの表現の幅を広げるとともに、ゲームの作り手の想像を超える遊び方をプレーヤーが生み出すことにもつながります。メーカーは今後も、さらなる配慮を求められるかもしれません。
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