連載
#15 水の事故をふせぐ
水難事故が起きてからでは「遅い」から…大切な命を守るため発信する
ライフジャケットを着ている、着ていないで生存率に〝大きな差〟があります

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#15 水の事故をふせぐ
ライフジャケットを着ている、着ていないで生存率に〝大きな差〟があります
川や海など、水辺での事故が後を絶ちません。子どもたちだけで遊んでいて溺れてしまったり、助けに向かった人が命を落としてしまったりといった報道が相次いでいます。中には「ライフジャケットを着ていなかった」という情報がいくつもありました。犠牲者を増やさないために、どうしたらいいのでしょうか。啓発活動に取り組む人たちを取材しました。
「水難事故が起こってからでは遅いんです。起きる前から話題にしないと」
香川県で、ライフジャケット普及プロジェクトの代表を務める森重裕二さんはそう話します。
小学校の教諭をしていたとき、川遊びの行事で児童の一人が溺れた経験をきっかけに「子どもたちにライジャケを!」の活動を始めました。「思いはただ1つ…子どもたちの命を守ること」。活動は今年で19年目です。
筆者が森重さんに取材したのは2年前。子どものライフジャケット着用を促すにはどうしたらいいかを尋ねる中で、マスメディアの報じ方にも疑問を投げかけられました。
水難事故への注意を呼びかける記事の多くは、夏休みに集中します。その前に掲載される場合もありますが、早すぎると読者に興味を持たれにくく、報道が相次ぐのは事故が起きてから、となりがちでした。
森重さん自身、活動を始めたころは水辺でのレジャーシーズンの始まりとともに発信し、シーズンが終わったら発信をやめていたそうです。
しかし、シーズンオフでも釣りなどの水難事故が報道され、「季節を問わず発信する」と考えたといいます。
日本財団などが進める「海のそなえプロジェクト」でも、シーズン前の発信に変わっています。
昨年は6月に開いたシンポジウムを、今年は1カ月前倒しして、日本ライフセービング協会や河川財団といった関連団体が情報発信の方法などを話し合いました。
「溺れてみる」体験をして安全意識を高めてもらったり、溺れた原因やシチュエーションを分析してSNSに投稿したりもしています。
また、日本水難救済会は、プロジェクトの一環で夏休みが始まる前から全国の幼稚園や保育園、学校で安全教室を開いていました。
今年、改めて森重さんに取材した際、「水難事故が起こってからでは遅い」という言葉が忘れられないと伝えました。
すると、「最近は事故が起きる前に水の安全を啓発する報道が増えてきています」と表情を緩めました。
それでも、水難事故の犠牲者はなかなか減っていません。
警察庁によると、2024年は816人が犠牲になり、前年より73人増えました。800人台になったのは8年ぶり。そのうち中学生以下が28人を占めています。
ライフジャケットの着用については報道などでも繰り返し呼びかけていますが、2024年の東京都の実地調査(都内10カ所、918人対象)では、川や海などで遊ぶ際にライフジャケットを着用していた人は、「おおむね小学生以下」で21.3%、「おおむね中学生以上」では2.5%でした。
ライフジャケットを着ていることで生存率に大きな差があるというデータもあります。海上保安庁によると、2024年に釣り中の転落事故でライフジャケットを着ていなかった人の46%が死亡・行方不明になっていた一方、着ていた人では19%にとどまりました。
「伝えるだけでは犠牲者を減らせません」
森重さんはそう話し、自治体にライフジャケットを寄付する活動に力を入れています。クラウドファンディングも活用して、レンタルできる場所を増やすことが狙いです。
報道機関としても、関心を持ってもらえる伝え方や切り口を模索し続けたいと思います。
@withnews 2024年に海や川で816人が犠牲になりました。 海水浴場で特に多いのが離岸流。 水辺でのレジャーは備えが肝心です! #朝日新聞withnews #海 #川 #溺れた ♬ ビート感のある力強い曲 - Park
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