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外来に「マスクをしたくない」患者が来たら…医療不信との向き合い方

外来に、マスクをつけずに患者さんが来たら…
外来に、マスクをつけずに患者さんが来たら… 出典: Getty Images ※画像はイメージです

目次

もし外来に、「マスクをしたくない」という患者さんが来たら――。SNSやウェブ記事などで自ら発信してきた医師たちですが、コロナ禍などを経て医療情報を取り巻く環境は大きく変わってきました。個人の発信が何百万という人たちに届く時代、どんなことに気をつけなければいけないのか。サイエンスコミュニケーションの重要性を語り合いました。(構成=withnews編集部・水野梓)

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withnewsでは、SNSなどで発信している医師たちを招き、「知って、届けて、思い合う~やさしい医療がひらく未来2025~」を開催しました。6年ほど前に、医療のデマや見極め方について対話したイベント以来、再び集まった登壇者たち。医療情報を取り巻く環境の変化や、医療者とのコミュニケーションについて語り合いました。イベントの内容を抜粋してお送りします
【トーク前編はこちら】医療情報、どう変化した?コロナ禍での医師の「強い言葉」への危機感

「サイエンスコミュニケーション」の重要性

大須賀覚先生:コロナの後から医療関係者が発信することが本当に恐ろしくなりましたよね。

 

がん研究者・大須賀覚(おおすか・さとる)
米国在住がん研究者。米国で悪性脳腫瘍に対しての新薬開発を行う研究室を運営しながら、がんについて情報発信活動も行なっている。共著書「世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療」。X、Facebook、毎日新聞医療プレミア、Yahooエキスパートなどで発信中
大須賀先生:逆の立場の人もいっぱいSNSにいるし、ちょっとでも何か不手際があるとものすごいたたかれちゃうということもあります。

その中で積極的に発信するっていうのはより難しくなってきてるなっていうのは本当に感じています。

ヤンデル先生:たらればさん自身はどうですか?

たらればさん:多様性を許容しないというか、人間の複雑さを複雑なまま受け入れるのがこんなに難しいのか、というのを日々実感する社会になりました。

 

たられば  @tarareba722
編集者(出版社勤務)。関心領域はSNS、平安朝文学、働き方、書籍・雑誌、書店、犬。朝日新聞、講談社、新潮社、集英社、KADOKAWA、サイボウズ式、ほぼ日の學校などに各種書評やエッセイ執筆、講演など。だいたいニコニコしています

 

病理医・市原真(いちはら・しん)ヤンデル先生
永遠の厄年 生粋のダジャレ王  SNSに飽きてSNSをはじめることで有名  たぶんそのうち仕事をやめて仕事をはじめる。著書に『Dr.ヤンデルの病院選び ヤムリエの作法』(丸善出版)、『どこからが病気なの?』(ちくまプリマー新書)など
たらればさん:この6年で、人は「聞きたい話を、聞きたい人からしか聞かない」というのが重々刷り込まれたなと思います。

たとえば、マスクをする・しない、ワクチンを打つ・打たないについても、どうコミュニケーションをすればいいのか……。

アメリカではマスクをしている人って日本より少ないと思うんですけど、どうですか?

大須賀先生:ほとんどしてないですね。でもこれは文化の違いもありますから。

たらればさん:他人にも「マスクをするな」って言う人はいますか?

大須賀先生:それは出会わないですけどね。もともと車社会で、空間のなかにそんなに密度濃く人が集まる機会があまりないから必然性がないというのもあるんですけど。

でもなかには、ワクチンに対して懐疑的な気持ちを持っている人がいたり、標準的な治療に対して反感を持っている人がいたり。そういう人と出会うことはもちろんあって、コミュニケーションは本当に難しいですよね。

これを解決する端的な答えというのは「ない」んですけれど、でも「サイエンスコミュニケーション」を大切にして伝え続けるしかないんだと思います。
 
出典: Getty Images ※画像はイメージです
大須賀先生:医療者や医学の関係者の中では「サイエンスコミュニケーションの重要性がとてつもなく高くなっている」という認識があって、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)も、ものすごく膨大なお金を投資しています。

人員を増やそうとしているところも多くて、まさに重要なところだと思うんですよね。

SNSではパッと書かれた陰謀論が強くて面白くて拡散されてしまうんだから、伝え続けていってもしょうがないって諦めちゃった人もいるんですけど、でもそんなことはないと思うんですよね。

地道にコミュニケーションをしていけば、そちらの方がメリットがあるっていうのを感じてくれる人はちゃんといて、やり続ける重要性というのは間違いないと思うんですよね。

声の届く範囲に制限がなくなって…

たらればさん:けいゆう先生はどうですか?

けいゆう先生:たとえば「マスクをするな」とか他人に行動を指示するような言葉を、1対1の声の聞こえる範囲、相手の顔が見える範囲で言われたとしたら、「俺はした方がいいと思う」「俺はしたくない」とか、そこでケンカができますよね。

それがネットやSNSになってしまうと、面と向かって話ができないじゃないですか。さらに、その声が何万とかに届いてしまう。

 

外科医・山本健人(やまもと・たけひと)
消化器外科専門医。「医師と患者の垣根をなくしたい」をテーマに「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を開設し、1300万超のページビューを記録。著書に『すばらしい人体』(累計19万部超)ほか多数。時事メディカル、ダイヤモンド・オンライン、エムスリーなどで連載
けいゆう先生:人類が地球上に生まれてから今に至るまでの歴史のなかで、この「声量」という声の届く範囲ってほとんどが制限されていたんだと思うんですよ。

肉眼で見える範囲、声の届く範囲……それが人類における情報をやりとりできる限界だと思うんです。

人類の歴史においてもほんの最近、声量をはるかに上回る声が出せるようになって、制限がなくなったんだと思います。

これは人類がハンドリングできる情報量を超えているので、それでわれわれが混乱しているのは「当たり前だな」とも思うんですよね。

どうやって解決していけばいいのか、自分の中で答えはないんですけれど、もともと情報を遠くに届けてきたプロフェッショナルであるマスメディアが、しっかり交通整理をした方がいいんだろうと思います。これは信頼の証しとして感じていることです。

「医療不信」を抱えた人への声がけ

ほむほむ先生:そもそもマスクをしたくないとか、ワクチンを打ちたくないっていう方々は、大元に「医療不信」のある方が多いですよね。

 

小児科医・堀向健太(ほりむかい・けんた)/ほむほむ先生
「なぜ?」に答える医学情報記事を世の中に2000本以上そっと置きながら、25年以上前線で医療を続けている小児科専門医・アレルギー専門医。色々医学記事を書いているけど、筆は遅い。著書に『子どものアトピー性皮膚炎のケア』『ほむほむ先生の小児アレルギー教室』
ほむほむ先生:病院で「マスクをしないといけない」と強制された時期がありましたが、その頃、僕の外来のある病院では、「マスクをしていない方とは15分以上話しちゃいけない」というルールがあったんですよ。

一番最初においでになった方がマスクをしていなくて、「いろんな話をしてあげたいんですが、マスクをしていないと15分以上はできないんです、申し訳ないです」って話をしたんです。そうしたら、次から布マスクをしてこられるようになったんですよ。

その時に、「今回からゆっくりお話ができてよかったです」と伝えたこともあったのか、次からもつけてこられるようになりました。今は病院にもマスクをつけずに来る方が増えているんですが、その方はつけておいでになっています。

時間をかけてお話をするうちに、多少ながら医療不信への思いが下がったりとか、そういうところがあったならうれしいなと思っています。

たらればさん:なるほど~。
出典: Getty Images ※画像はイメージです
ほむほむ先生:そもそも医療不信のある方は、医療情報をつかむのが難しくなります。

もともとワクチンを打つのが好きな人なんてあんまりいないですよね。針を「怖い」と思う「針恐怖症」と呼ばれる状況もあるんです。

そういう方がそのまま医療情報を調べてしまうと、「ワクチンを打たなくていい」とか、そういう情報につながり始めるんですね。

Googleのアルゴリズムを飛び越えて、「ワクチンが怖い」といったページに一度たどりついてしまうと、パーソナライズ検索になって、フィルターバブルから逃れられなくなり、「ワクチンが怖い」という情報ばかりが出てくるようになります。

それでも、病院で一方的に「ワクチンを打たないのは悪い」と全否定されてしまったら、「その病院には行きたくない」となってしまいますよね。

医療者のファーストコンタクトで失敗している場合もたくさんあると思いますし、人間が当たり前に持っている「自分自身の見たいことを見てしまう」というところに陥っているケースもあると思います。そんな背景を考えなければいけないな、と思っています。

徐々に変わっていく…継続する大切さ

たらればさん:罪を憎んで人を憎まず…の医療バージョンを聞いた気持ちだ。

ヤンデル先生:違う論理にどっぷりはまってしまった人をちょっと真ん中に戻すための技術のお話なのかなぁと思って聞いていました。

家族とか、外来でお話が手が届く範囲の人、声が届く範囲の人に真摯に向き合うという、コミュニケーションもそこに戻ってきたということなのかもしれないですね。

けいゆう先生:本質的には人類はまだ、そのコミュニケーションにしか慣れていないはずなんですよ。

ほむほむ先生:広く浅くいろんな人に話をするのは、発信する側としては気持ちがいいことかもしれないけれど、そこからは離れないといけないと思っています。

たとえば家族や友人に「この人にはこんな感じの話し方をすれば伝わるよね」というのはみなさんしか知らないはずなんですよね。

小さいコミュニティーで中心になるような人に伝わって、まわりの人が徐々に変わって、それが広がっていけばいいのかなと思うんです。だからこそ継続する必要があって、こつこつやっていく以外に手はないと思います。

自分が死ぬまでにそれが変わらなくても、次世代にそれがつながっていけばいいだろうと、長い目で見るしかないんじゃないでしょうか。
【トーク前編はこちら】医療情報、どう変化した?コロナ禍での医師の「強い言葉」への危機感

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