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IT・科学

医療情報、どう変化した?コロナ禍での医師の「強い言葉」への危機感

SNSやブログ、ウェブメディアでの記事などで発信してきた医師たち。医療情報にまつわる環境が大きく変わった「いま」をどうとらえているのでしょうか
SNSやブログ、ウェブメディアでの記事などで発信してきた医師たち。医療情報にまつわる環境が大きく変わった「いま」をどうとらえているのでしょうか 出典: Getty Images ※画像はイメージです

目次

長年、SNSやネット記事などで医療情報を自ら発信してきた医師たち。コロナ禍やSNSを取り巻く環境の変化、Googleのアルゴリズムのアップデートなどを経て、医療情報にまつわる環境は激変しています。発信する医師たちが直面している「いま」を語り合いました。(構成=withnews編集部・水野梓)

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withnewsでは、SNSなどで発信している医師たちを招き、「知って、届けて、思い合う~やさしい医療がひらく未来2025~」を開催しました。6年ほど前に、医療のデマや見極め方について対話したイベント以来、再び集まった登壇者たち。医療情報を取り巻く環境の変化や、医療者とのコミュニケーションについて語り合いました。イベントの内容を抜粋してお送りします

「情報をキュレーションする」メディアの大切さ

たらればさん:司会を務めますたらればです。医療って当然に日進月歩で変わっているんですが、とくに医療の情報を取り巻く環境、コミュニケーションは、この6年でめちゃくちゃ変わりましたよね。特に変化したところ、われわれが得たもの、失ったものなどをこのセッションでは話していきたいと思います。

 

たられば  @tarareba722
編集者(出版社勤務)。関心領域はSNS、平安朝文学、働き方、書籍・雑誌、書店、犬。朝日新聞、講談社、新潮社、集英社、KADOKAWA、サイボウズ式、ほぼ日の學校などに各種書評やエッセイ執筆、講演など。だいたいニコニコしています
たらればさん:2013年から個人ブログなどで発信を続けてきたけいゆう先生は、この6年での変化をどう感じていますか?

山本健人さん(けいゆう先生):自分は過去に朝日新聞の「声」欄に投書していたんですが、40本ぐらい出して10本ぐらい載るみたいな感じだったんですよね。つまり「声」の編集部の方がどういう理由かは分かりませんが、「これは適さない」とか「これは新しい情報がない」と判断して載せなかったわけです。

 

外科医・山本健人(やまもと・たけひと)
消化器外科専門医。「医師と患者の垣根をなくしたい」をテーマに「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を開設し、1300万超のページビューを記録。著書に『すばらしい人体』(累計19万部超)ほか多数。時事メディカル、ダイヤモンド・オンライン、エムスリーなどで連載
けいゆう先生:自分が発信したいと思っている100%の情報のうち、世に届けられるのが25%ぐらい。

それが非常に不満だなぁと思って、自分の声をもっと広く届けるためには直接発信するしかないと「自分のホームページをつくろう」と医療情報サイトをつくりました。

これが1300万回ぐらい閲覧されて、SNSで自分のアカウントをつくって発信するようになっていきました。

つまり、新聞社などのメディアを通して自分の声を届けようとすると制限があるので、その反動でこうなったんですが、今になって考えると「それ(メディアを通すこと)ってすごく大事な機能だったな」って思うんです。

SNSで、個人の発信が何万、何十万、何百万という人に声が届く副作用というか、それがコロナ禍ではかなりよくない方向に働いたと思っているんです。

医者を名乗るアカウントがかなりきつい言葉で誰かを批判したりとか、厳しい行動制限やワクチンをするように強く言ったり、公衆の面前で論争するようなことがあったり……。

その結果、医者とか医療に対して、「ちょっと怖いなこの人たち」と思ったり、不信感や不安感を持ったりする人が増えてしまったんじゃないかなと思っています。

それを経て、結果的に今は「情報をキュレーションする」というメディアの存在が実は大切だなというのを逆説的に感じています。
たらればさん:けいゆう先生は臨床もしていますが、診療室のなかのコミュニケーションは変わりましたか?

けいゆう先生:大腸が専門の消化器外科医で、年間120人ぐらいの患者さんの大腸がんの手術をするんです。

60代から80代くらいの高齢者の、情報をアクセスする先はあまり変わってないと思います。だからそこは診療所のなかでは変化がそれほど大きくないです。

つまりここから先、情報を取得する先が変わってきた世代が診療に来る10年後ぐらいには、どういったことが起こるんだろう…という不安もあります。

ブログなど「情報の出し入れ」の方法に変化

たらればさん:堀向先生は臨床をバリバリやっていて、継続的に医療情報も発信もしてきて、この6年で大きく変わったところはどんなところだと感じますか?

 

小児科医・堀向健太(ほりむかい・けんた)/ほむほむ先生
「なぜ?」に答える医学情報記事を世の中に2000本以上そっと置きながら、25年以上前線で医療を続けている小児科専門医・アレルギー専門医。色々医学記事を書いているけど、筆は遅い。著書に『子どものアトピー性皮膚炎のケア』『ほむほむ先生の小児アレルギー教室』
ほむほむ先生:医療者の知っていることを、どう患者さんたちと情報共有すればいいんだろうという葛藤はずっとあります。

自分の外来においでになる患者さんには、自分自身が直接話ができます。でも、たとえば救急外来で初めてお会いした方にはなかなか時間がなくて難しいですよね。

今、自分のブログでは1700本ぐらいの記事を発信しているんですけど、一部の情報は有料のレター登録者だけに発信するとか、情報を制限するようにもなってきました。

これは以前、発信で失敗した経験があったからなんですね。帝王切開で生まれたお子さんにアレルギー疾患が起こりやすいという論文があって、ひとつの情報として出したんですが、帝王切開が避けられなかった方々の気持ちをざわつかせる内容になってしまっていた。それを想像できなかったんですね。

発信する時には、どの人に対してどこまでの情報を出すか、私見の部分は簡単にアプローチできないところに置いておこう、といったことを考えるようになりました。

一方で、2017年のGoogleの医療アップデートでアルゴリズムが変わって、病院や学会、公的なものしか順位が上がらなくなって、今ブログで情報を発信する医師はほぼいなくなりました。僕としては、「備忘録」なので、たんたんと続けています。

発信して、誰かから褒めてもらって……というのは、人としてうれしいことですよね。ですけど、うれしいからといって自分の行動が変わってしまうことがないように……と意識するのが医療情報を発信する側としては大事だと思っています。

隣のコミュニティに伝わると「怖い」気持ち

たらればさん:医療情報の変化について、SNSに居続ける医療者としてヤンデル先生はこの6年、どこが大きく変わったと思いますか?

 

病理医・市原真(いちはら・しん)ヤンデル先生
永遠の厄年 生粋のダジャレ王  SNSに飽きてSNSをはじめることで有名  たぶんそのうち仕事をやめて仕事をはじめる。著書に『Dr.ヤンデルの病院選び ヤムリエの作法』(丸善出版)、『どこからが病気なの?』(ちくまプリマー新書)など
ヤンデル先生:この6年で一番変わったことは、われわれが再び嫌われる仕事のポジションに入ったな、ということだと認識しています。

6年前は世の中の好意が、悪意を上回っていた奇跡的な時期だったと、たらればさんが以前おっしゃっていましたよね。

その頃はSNSの力が最大化されていて、医療者がうまく発信すると「いいね」がつく時期だったんだと思うんですよね。好感度が悪意をおさえこめるギリギリの時期だったように思います。

6年経って、感染症だけじゃなくて世の中のコミュニケーションの仕方が変わって、つまり今、われわれ医療者はかつてよりも「うっすら嫌われている」んですよ。

たらればさん:イベント会場のなかに、医療従事者や医療情報にかかわる仕事をしている人はどのくらい……(挙手してもらう)なるほど、3分の1ぐらいかー(苦笑)。

いや、この会場では「好かれている」っていうのは大事だと思いまして。

ヤンデル先生:そこなんですよね。われわれちょっと弱点が増えていて、好かれている共同体の中でしか発信できなくなってきたんです。

以前はもうちょっと「隣のコミュニティにまで届いたらいいな」ということを考えて、ふだんわれわれの話を聞かない人にも何らかのフックで聞いてもらって、この情報にふれてもらったらうれしいなという気持ちがあったと思うんですよ。

今どうなったかというと、隣のコミュニティに話が伝わると「怖い」んですよね。医者が嫌いなクラスターに変なところを拡大解釈されて、たたかれたらたまらんなぁ……っていう人が増えたので、「ニコニコしている共同体の中だけで発信しよう」というムードがとても強まっています。

きょうのわれわれも、6年前にもイベントに来てくれたような、愛されている人たちに囲まれてイベントをやるっていうところが若干あると思うんです。

     ◆

「知って、届けて、思い合う~やさしい医療がひらく未来2025~」トークの後編は26日(土)に配信します。

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