お金と仕事
渋谷のおしゃれビルに河川工事の資材…? 増える〝蛇篭〟の目的は
〝スケールの大きな立体的な箱庭〟

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〝スケールの大きな立体的な箱庭〟
「GABION」(ガビオン)とも呼ばれる「じゃかご(蛇篭)」。元々は、河川工事や法面工事でつかわれるものですが、最近は都市建築の中で存在感を増しつつあります。おしゃれな商業ビルの外構工事で、植栽や動線をコントロールするための障害物として使われることが多いようなのですが、昨年11月に完成した東京都渋谷区のテナントビルでは一味違う使われ方をしています。(朝日新聞Re:Ron編集部 松尾一郎)
じゃかごは、「蛇篭」と書くもので、「日本じゃかご協会」のウェブサイトによると、その歴史はとても古く、中国で2千年以上前に誕生し、古事記の時代である8世紀に日本列島に来たといいます。
もともとは、竹を編んだ中に砕石などを入れたもので、土木資材として治水工事で使われたといいます。治水工事の技術が時代とともに進んでいく中で、かごの部分の素材が竹から鉄線になり、大量生産も可能になり、さらには高耐久性のメッキされた鉄線と変わってより汎用性の高い土木資材になったという経緯があるようです。
また、名前の「蛇」が意味する通り、元々は円筒形だったそうなのですが、ビルの外構などで使われているのは、長方形などカクカクしたものがほとんどのようです。おしゃれで、コストもリーズナブルなところが受けているのかもしれません。
その蛇篭の一つの使用例として取材したのが、東京都渋谷区にある、東京大学駒場キャンパス敷地の北側に完成した建築面積約85坪の6階建てのテナントビル。
手がけたのは竹中工務店で、設計部の正田智樹さん(一級建築士)によると、「フードスケープ」という「食づくりからの学び」を建築物に活かしたといいます。
ちょっとみただけでは分かりにくいのですが、建物の西側が空中庭園のように段々になっており、屋上以下、各階のテラス部分に菜園などが設けられています。
そこに当たるのは日光だけでなく、雨が降れば当然、風雨も当たります。
その雨水を各階で受け止め、下階とつながる壁に取り付けた「じゃかご」で集めるのです。そして、そこから伸びる「鎖樋(くさりとい)」を伝って、下階の菜園に雨水を落としていき、最終的には、地面に戻していくという「雨水の道」を作っているのです。
正田さんは、その意味をこう解きます。
「今回竣工(しゅんこう)したテナントビルでは、設計時に身の回りの自然である光・熱・風をどのように結びつけていくかを考えてきました。特徴的なのは、上階から下階に雨水を流すための蛇篭を壁につけたことです」
「通常は雨水をといの中に閉じ込めて集水マスに流すところを、蛇篭を通じて下階で放流し、その階の植栽に吸収させています。このように雨を『見える化』させています」
「都市においては、『雨が降る』ことが機械的に処理されてしまうことが多い中で、このビルでは雨が見えて、その音が聞こえる。それを自然のリズムとして建築に組み込んでいるのです。単に雨水が流れてくるだけではなく、そこに植物があり、土壌が吸い上げる。一連の循環が菜園を中心に出来上がっていきます。それらに触れたり、食べたり。鳥も虫もやってきます。菜園を、自然が取り巻いていくようになります」
蛇篭を通じて水の流れが「見える化」され、その水で菜園が形成され、やがては自然も取り巻いていく――。
その過程をビル内で完結させる取り組みに、現場を訪ねた記者は、スケールの大きな立体的な箱庭をイメージしました。
あくまでも人工的に食物を育てるのだけども、自然の循環につながっている。
都市部の普通のビルに、ほっとする空間を作り出しているように思いました。「フードスケープ」の学び、正田さんや仲間の建築家とさらに進化するのが楽しみになりました。
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