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#44 小さく生まれた赤ちゃんたち

「あなたは障害のある子どもを見過ぎている」患者家族に言われた言葉

小児科医・ふらいと先生が淡々と説明する理由

病院の廊下に並ぶ保育器。画像はイメージです=Getty Images
病院の廊下に並ぶ保育器。画像はイメージです=Getty Images

目次

小さく生まれた赤ちゃんたち
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子どもに病気や障害がある場合、妊娠中から新生児科医や小児科医の説明を聞くことがあります。患者家族の心の準備ができていない状況では、医師の言葉をネガティブに受け止めてしまうこともあるかもしれません。「あなたは淡々としゃべりすぎだ」。NICU(新生児集中治療室)で多くの家族と接してきた小児科医「ふらいと先生」こと今西洋介さんは、赤ちゃんの家族からそう言われた経験があるそうです。(聞き手:朝日新聞withnews編集部・河原夏季)

<今西洋介さん(ふらいと先生)>
1981年、石川県金沢市生まれ。新生児科医・小児科医、小児医療ジャーナリスト、一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。X(@doctor_nw)のフォロワーは14万人を超える。3姉妹の父親。著書に『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社)、『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害』(集英社インターナショナル)。ふらいと先生のニュースレター(https://flight.theletter.jp/)を配信。現在はアメリカで子どもの疫学を研究している。

まずは両親へ 事実だけを伝える

——赤ちゃんに病気や障害があった場合、どのように家族に伝えるかは難しい問題だと思います。両親だけではなく、祖父母や親族へも伝えるのでしょうか?

今西先生:例えば、ダウン症やほかの染色体異常などの検査結果は、まずお父さんお母さんだけに伝えます。子どもに近く、決定権があるのが両親です。親の責務がありますし、我々としてもまずは親に聞いてもらいたいと考えています。

たいていは持ち帰ったあとに、祖父母や親戚がいらっしゃいます。決まっていた治療方針が、そこで大きく覆されてしまうことも。それを医療者たちは「カリフォルニアの娘症候群」と表現しますが、意思決定権もない人が突然出てきて、患者や患者家族と医療者のコミュニケーションが振り出しに戻ってしまう……という例えです。

私も経験がありますが、そういうときは必ず全員でもう一度同じ話をするように心がけています。家族から質問がある場合はその場で聞いて、冷静に事実だけを伝えていくのが大事です。

みなさんそれぞれ不安を抱えています。例えば、ダウン症の場合はどのように生活していくのか、子どもの将来は誰が見ていかないといけないのか。そんな不安をひとつずつ解消していきます。

最初の頃は親御さんと子どもの愛着形成が一番大事なので、それを妨げないようにほかの親族との関係もおさえておくのは我々医療者の仕事ですね。
 
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画像はイメージです=Getty Images
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患者家族に言われた「厳しい言葉」

——ご家族への対応で印象に残っていることはありますか?

今西先生:ご両親と祖父母が同席したインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)の場でお子さんの病名を伝えたとき、ご家族に「あなたは障害のある子どもを見過ぎている」「淡々としゃべりすぎだ」とおしかりを受けることがあります。

我々はこの病気だったら生きていけると医学的な予測に立ってお話ししますが、ご家族は病名を聞くとほかの話が入ってこなくなるケースもあります。

こちらも感情的になってしまってはお互いに話ができません。我々はなるべく感情的にならず、淡々と病気についていま分かっていること、分からないことを伝えることが大事です。

おしかりを受け止めた上で、「その経験を生かして、お子さんはこのように育っていくだろうということはおおむね予測できます」ときちんとお伝えしています。

「病気や障害の診断をつけることが目的ではなくて、この子が家に帰って家族と過ごし、学校や集団生活に適応していくことが大切なんですよ」ともお話しさせてもらいます。

すると、子どもが大きくなったタイミングでご家族が外来などで、「あのときはすみませんでした。今になって、あのとき先生が言っていたことが分かりました」と謝られることもあります。

我々は多くの家族を見ているので予測のつくことが多いですが、赤ちゃんのご家族はほとんど経験がないことですから、それは仕方のないことかなと思います。

この言葉は、「ご家族から厳しい言葉を言われた」と感じるかもしれませんが、私はご家族の受容のプロセスのひとつとして捉えています。
 
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画像はイメージです=Getty Images
画像はイメージです=Getty Images

「家族にしていく」 ハッピーな結末ばかりではなくても

——ご家族の心にも変化があるのですね。

今西先生:我々は子どもの病気を治療するだけではなく、「家族にしていく」ためのサポートをすることもとても大事です。

例えば、「無脳症」といって、脳がなく生まれて1日も生きられない赤ちゃんがいます。その場合、妊娠中から新生児科医が介入していき、生まれる3~4カ月前から「赤ちゃんはおそらく1日も生きられない」「蘇生しても難しい」と説明します。

そこで、お母さんとお父さんで何かしたいことはあるかや、会わせたい人がいるかといったことを聞いていくんですよ。

おそらく1日しか生きられないけれど、家族みんなで過ごしたり、手型足型を取ったり、ほかの家族に会わせたり……。そういったことをして「家族」としての時間を過ごしてもらうことも我々の医療の目指すところです。

必ずしもハッピーな結末ばかりではないかもしれませんが、家族が家族であること、家族にするということは、新生児医療のひとつの目標ですね。
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◆「低出生体重児 保健指導マニュアル」(厚生労働省・小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査 研究会) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000592914.pdf

◆早産児育児ポータルサイト「Small Baby」 https://www.small-baby.jp/

◆「はじめてのNICU」 https://www.nicu.jp/

◆日本NICU家族会機構(JOIN) https://www.join.or.jp/

◆母子手帳サブブック「リトルベビーハンドブック」に関して NPO法人HANDS
https://www.hands.or.jp/activity/littlebabyhandbook/
 
 

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