連載
#40 小さく生まれた赤ちゃんたち
母親がひとりで「授乳室」に入る理由は…施設で広がる〝搾乳〟マーク
小さく生まれた赤ちゃんのママが悩むこと
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#40 小さく生まれた赤ちゃんたち
小さく生まれた赤ちゃんのママが悩むこと
授乳室を母親ひとりで利用することに申し訳ない気持ちになりましたーー。小さく生まれた赤ちゃんの母親が抱える悩みのひとつに、「搾乳」があります。母親たちが引け目を感じることなく外出先で授乳室を使えるように、「搾乳室」のマークを併記する施設が少しずつ広がってきています。
「『赤ちゃんと一緒にお入りください』と書いてあったり、赤ちゃんのアイコンが描かれていたりする授乳室に、搾乳のためだとしてもひとりで入る心理的ハードルはすごく高いんです」
小さく生まれた赤ちゃんや家族を支援するNPO法人pena(ペナ)=神奈川県=の理事長・坂上彩さん(45)は、そう話します。
2018年、妊娠24週4日で370gの長女(6)を出産しました。当時は授乳室がどのような場所かもイメージできず、外出先の授乳室で搾乳することは極力避けていたといいます。
しかし、長女がNICU(新生児集中治療室)に入院中、面会の帰りに電車遅延に巻き込まれてしまい、商業施設で搾乳せざるを得ないことがありました。
「幸い夜だったので赤ちゃん連れで利用するお母さんはいなかったのですが、授乳室から出るときも周りに人はいないか、ひとりで使っていることを誰かにとがめられないか不安で、ビクビクしていました」
授乳室ではなく、トイレで搾乳したこともあったといいます。「母乳が出にくく、ケアをしながら何とか搾乳量を保っていました。トイレで搾乳したときは母乳を便器に流します。涙を流しながら搾乳していました」
ほかの親からも、「授乳室にひとりで入って搾乳していたら、周りの母親が『なんでひとりで来るんだろうね』と話していた」「授乳室で電動搾乳器を使っていたら、音を不思議に思った子どもにカーテンを開けられた」などと悩みを聞いたことがあるそうです。
「誰も悪気があるわけではありませんが、つらいですよね。悪気がないと分かっていても、傷ついてしまうんです」
「搾乳」は、2500g未満の低出生体重児を出産した母親が抱える悩みのひとつです。
低出生体重児は「リトルベビー」とも呼ばれています。人口動態統計によると、2023年は約7万人が2500g未満で誕生しました。約10人に1人の割合で、近年は横ばいです。
母乳が出る場合、先に退院した母親はNICUに入院する赤ちゃんに搾乳した母乳を届けます。
搾乳は間隔があいてしまうと母乳の分泌量に影響が出てしまうため、赤ちゃんに授乳する頻度と同じく3~4時間ごとにする必要があるそうです。
搾乳には30分から1時間以上かかるなど、個人差があります。
家で搾乳する場合が多いものの、予定の関係などで外出時にせざるを得ないこともあるそうです。
昨年10月、低出生体重児とその家族が安心して子育てをできるように、penaと神奈川県は連携と協力の協定を結びました。
その一環として誕生したのが、「搾乳できます」と書かれたシンボルマーク。県内の商業施設や公共施設の授乳室などに掲示することで、搾乳への理解を促すことが目的だといいます。
神奈川県藤沢市の商業施設「湘南モールフィル」でも、今年1月から授乳室の入り口に「搾乳室」の文字が並ぶようになりました。
販促イベント担当・金子雅紀さんによると、昨年11月にpenaの活動を知り、気兼ねなく搾乳ができる環境づくりへ協力したいという思いから、「搾乳室」の表示に取り組んだそうです。
「これまで直接的に利用者から搾乳室に関する意見が届いたことはなかった」といいますが、「直接声を上げなくても、搾乳室がほしかったと潜在的に思ってくださっていた方はいると思います」と金子さんは話します。
授乳室に搾乳室の文字が併記される例は、千葉県や静岡県などの施設でも少しずつ広がってきています。
外出先での搾乳や授乳、トイレの利用環境の整備に関しては、国土交通省(国交省)が現在バリアフリーに関するガイドラインの改正を検討しています。
2月24日まで当事者の意見を募るアンケートを実施。搾乳室についてはすでに、以下のような意見が集まっています。
「子どもたちが早産児で入院中の時は外出先で搾乳する必要があったが、なかなかできず、車の中で搾乳することが多々あった」
「授乳室を大人ひとりで利用することに申し訳ない気持ちになった」
「どの施設においても授乳室で搾乳して良い旨、注意事項に追加してほしい」
penaの坂上さんは、「外出先の設備に関しての要望や理想を伝えられる」と期待を寄せています。
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