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妻から「ごめん入院」届いて…その時、上の子は?〝切迫早産〟の実際

7人に1人は切迫早産(早産のおそれがある状態)になるというデータもあり、妊婦やその家族にとっては、誰もが無関係ではないが……。※画像はイメージ
7人に1人は切迫早産(早産のおそれがある状態)になるというデータもあり、妊婦やその家族にとっては、誰もが無関係ではないが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

医療の発展や医療者の努力により、早産率が世界でもっとも低い部類に入る日本。一方で、7人に1人は切迫早産(早産のおそれがある状態)になるというデータもあり、妊婦さんやその家族にとっては、誰もが無関係ではありません。ある日、妻が切迫早産で緊急入院し、当事者家族になった記者が、専門家への取材も交えて、そのときの体験を紹介します。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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妻が「切迫早産」で緊急入院に…

<ごめん入院>
<と言われた>

妻からLINEでそんなメッセージが届き、私は「あなたが謝ることではない」という趣旨の返信をした上で、「どうしよう」と途方に暮れました。

妊娠35週で産休中。妊婦健診のために、日中、出産予定の医療機関を訪れていた妻。数日前から時々、お腹の張りを感じていたことは聞いていました。

上の子が緊急帝王切開だったため、下の子は自然分娩の適応にならず、予定帝王切開に。38週で手術予定だったため、3週間後の入院に備えて、準備を進めているところでした。

下の子を迎えるためのベビーベッドが届く、前日のことです。

弱いけれどお腹の張りがほとんど10分間隔になっており、それがより強く・間隔が短くなって陣痛が来てしまったら、子宮破裂のリスクがあり、すぐに手術をしなければならないため、このまま緊急入院になる、ということでした。

<何からどう手をつけようか>

そう返信すると、妻から着信が。取り急ぎ、妻の身の回りのものと妊娠中に服用していた薬の場所を聞き、病院に持っていくために取りまとめます。

時間は15時すぎ。私が担当している上の子の保育園のお迎えの時間も迫っています。妻が「帰り道に買おうと思っていた」上の子のおむつも買いにいかなければいけない、園に行ったら数日後に予定されていた保護者面談の日程もリスケと伝えてほしい……。

そうした細々とした確認を口頭で終え、慌てて家を出る準備をします。

<車椅子で運ばれてる>
<歩き回るなと言われた>
<今夜陣痛が来てしまうかもと>
<早く生まれちゃう、どうしよう>

その間も、妻からは状況を知らせるメッセージが届いていました。少しずつ差し迫っていく状況に、焦りも募ります。

日本において「正期産」とは妊娠37週から妊娠41週までの出産。妊娠22週から妊娠36週までの出産は早産となります。このままだと早産になるだけでなく、35週までの出産では、NICU(新生児集中治療室)での管理が必要になる場合があるため、これまで受診してきた医療機関ではなく、他院に搬送になるということでした。

早産には後述する複数のリスクがあり、転院も負担になるため、「せめてあと数日は保たせて、36週には乗せたい」――。それが医療スタッフ、私たち家族の共通の願いでした。

「早産」そもそもどんなリスク?

早産となる危険性が高い、早産の一歩手前の状態を、医学用語で「切迫早産」と言います。

厚生労働省の資料(※)によると、妊婦の約14%(約7人に1人)に切迫早産が発生するということです。この言葉自体は、身の回りで聞いたことがある人もいるかもしれません。私自身もそうです。

しかし、実際に家族が当事者になると、この言葉からディテールまでは想像がつかないような、困難な状況がありました。

※「第2回妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」2019年3月15日
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000488885.pdf

そもそも、なぜ早産は望ましくないのでしょうか。

日本産科婦人科学会は、公式サイトの「早産・切迫早産」のページ(※)で<日本の新生児医療は世界でもトップレベルにあり、早産児の多くが生存して退院できるようになっています>とした上で、<中にはハンディキャップが残り、退院後も医療的ケアが必要な赤ちゃんがいることも事実です>としています。

同会によれば、日本における早産の割合は5.7%で、世界でもっとも少ない部類に入ります。一方、<諸外国における早産の割合は5~18%で、世界中で毎年100万人の早産児が亡くなっています>と説明します。

早産の要因は、大きく分けて「これまでの病気(既往)」と「現在の病気などの要因」の2つ。

過去の病気には、過去の早産や後期の流産、子宮の手術、自己免疫疾患、糖尿病、子宮内膜症・子宮腺筋症、元々のやせた体格があるそうです。また、現在の要因には、双子や三つ子の妊娠、子宮の出口(子宮頸管)が短いこと、腟や子宮頸管・尿路などの感染症、妊娠中の体重増加が少ないことがあるといいます。

また、同会は<仕事も続けていただいて構いませんが、重労働や長時間労働、ストレスのかかる仕事は、早産のリスクを高めることがわかっています>と説明します。

こうした自分の状況を正確に理解し、妊娠する前から体調を整えておくこと(プレコンセプションケア)で<早産のリスクを減らせる可能性があります>。

切迫早産の治療では、そのままにすると出産が進行することもある「お腹の張り」を抑える目的で<子宮収縮抑制薬を使用することがあります>。

「子宮の収縮の間隔が短く多い」「子宮の出口が2cm以上開く」など、早産の危険性が高い場合は、入院した上で、子宮収縮抑制薬の点滴治療が行われます。

※早産・切迫早産 - 公益財団法人 日本産科婦人科学会
https://www.jsog.or.jp/citizen/5708/

専門家「不安になりすぎないで」

当事者やその周囲にとって、心配事の尽きない切迫早産。産婦人科医で、女性のための新しい医療メディア『Crumii』の立ち上げに従事する宋美玄さんは、現場感覚として「切迫早産の診断自体がされることは割と多い」とした上で、「念のための安静指示も多く、すべてが深刻なわけではないので、不安になりすぎないでください」とします。

そのため「本当に深刻か、どの程度切迫しているかを、よく主治医の先生に説明してもらってほしいです」と言います。

「医師からの指示も『自宅で身の回りのことくらいはしてもいいけど、外出はできない』というものから、『入院してベッドの上に絶対安静で、排泄もベッドから降りずに』というものまで、さまざまになるかと思います。この背景には、早産の正確な予測が難しいことがあります。そのため、念のためであっても、指示に従ってください」

また、「現代のお母さんは出産直前まで忙しくされている場合もあると思うので、休息の機会と受け止めてみては」と呼びかけます。

「突然のことで、赤ちゃんのお父さんや、上のお子さんがいる場合はそのお子さんにも協力してもらう必要はあるでしょう。ただ、切迫早産と診断された後も、生まれてくる赤ちゃんのために編み物や刺繍をされている方もいます。

主治医が大丈夫と判断した場合は、Netflixをまとめて観たっていいし、差し支えない範囲でリモートワークしてもいい。もちろん安静にしながらですが、そのときにできることをする時間にしてもいいと思います」

「切迫早産で入院」のディテール

こうした理由で、妻については子宮収縮や子宮口の開大の程度が検討され、入院、子宮収縮抑制薬の投与となりました。

放っておけば、出産はどんどん進行してしまいます。妻は入院して治療を受けながら、少しでも長く妊娠を継続するために、絶対安静になりました。

大人もやきもきしていましたが、精神的な影響が大きかったのは、誰より上の子でした。

上の子は2歳半。その少し前からきょうだいができること、その時はママが病院に入院することは少しずつ説明を始めていましたが、その度に不機嫌になったり、かえってママへの関心が強まってしまったりする状態になり、夫婦で「どうしたものか」と頭を抱えていたところでした。

それに加えて、登園中の緊急入院ということで、上の子には事後報告になります。イヤイヤ期も真っ盛りの我が子のこと。「絶対に納得しないだろうな」という予感はしていましたが、お迎えで伝えたときのパニックぶりは想像以上でした。

降園、自転車のキッズシートに乗ること、夕ご飯、そのメニュー、お風呂、その後の保湿、歯磨き、その後のフッ素、寝かしつけ、夜中に目が覚めた時にママがいないこと、翌日の朝ごはん、登園、そのすべてを見たことがないくらいの全力で「ママがいい」「パパやめて」と拒否するため、絶望的に思えたワンオペ生活。

着替えさせようとしている途中、全身をびーんと張って抵抗しながら泣き叫ぶ子どもの前で膝立ちのまま力尽き、私はもう一度「どうしよう」とつぶやきました。「切迫早産で入院」が大変なことというイメージはありましたが、こうしたディテールは、想像の範囲を超えていたのです。

しかし、事情を共有した保育園の先生方の手厚いケアや、家族の一大事にかなりの遠方から文字どおり飛んできてくれた義母のおかげで、少しずつ生活が回り始めました。

特に義母はそれから2週間以上、私と子どもと3人で過ごしてくれました。実は、私がそれまでに義母と関わるのは、お盆や年末年始といった時期の年に数回くらい。数年前までは関わることもなかった他人同士でも、家族になることはできるのだ、と身にしみて思いました。

テクノロジーの普及も、平時よりもさらに心強く感じました。上の子が寂しくなったときは、スマホのビデオ通話でママと電話。次第に、上の子は自分から「これから、お風呂に入るね」「ねんねするね、バイバーイ」と通話を切ることができるようになりました。

しかし、切った後はしばらく、口を真一文字に結んで、泣くのをガマンするような顔をしています。そんな姿が健気で、愛おしかったです。

妊娠が36週に入ったタイミングの朝、「これ以上は引き延ばさない」と担当医から告げられ、張り止めの点滴が終わりました。すると、午後には陣痛が来て、妻は手術室へ。直前に私も仕事の外出先からビデオ通話をして、見送りました。
 

二人目の子どもで感じ方に変化が

手術が終わる目安の時間に、電車で病院へ。

帰宅ラッシュに差しかかり、満員の電車。「連絡がないということは、逆にめったなことは起きていないのだろう」と思いつつも、無事に出産しているかどうか、はっきりとわからないのはかなり不安でした。

到着した産婦人科病棟で目についたスタッフさんを呼び止め、安否をたずねると「特に(急変などがあったと)聞いていないので、無事だと思いますけど」とあっさり。それが妙にリアルでした。

病室で妻に会い、まずは妻の無事を確認。そこにいた助産師さんから、赤ちゃんの無事も伝えられました。

妻に感謝と労いの言葉を伝えた後、その助産師さんに連れられて、一人で新生児室へ。生まれたばかりの下の子は保育器に入っていましたが、多少は触れ合えるということでした。

週数相当ではあるものの、出生時の体重としてはやや小さく生まれた下の子。手や足はほっそりして見えます。それでも、「ふえ……ふえ……」と小さな声で泣いていました。

生後、間もない赤ちゃんを、この時はっきりと「可愛い」と感じました。上の子の育児をして、その姿や成長の過程を見守ってきたことで、子どもの可愛さを理解するための解像度が上がったことを実感します。

スマホ時代に多くの出産に立ち会ってきたであろう助産師さんから、保育器の外側からの写真の“映える”撮り方を教わりながら、20分ほど我が子と過ごしました。その写真を添えて、妻の代わりに義実家など親戚に報告をしてから、もう一度、妻の病室に寄ってその日は帰路につきました。

一過性の症状はあったものの、経過は順調。出産から約1週間後には、新しい家族を自宅に迎えることができました。

もちろんスムーズに出産できる方もたくさんいらっしゃるのでしょうが、我が家では上の子は緊急帝王切開、下の子は切迫早産で緊急入院と、出産は思いもよらないことばかり。

イヤイヤ期の上の子に向き合っていると、忘れてしまいそうになる、「すべての子の誕生は奇跡」という言葉。今回、あらためてそれを強く思い起こすことができました。

良いことも、悪いことも、一つひとつの思い出を、ずっと忘れたくない、と感じます。
 

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