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#10 withnews10周年

思わず「クリックしたくなる」タイトルの誘惑〝良いコンテンツ〟とは

ウェブメディアについてのイベントに登壇する参加者たち(右からnote社の徳力基彦さん、NHKの足立義則さん、朝日新聞の水野梓)=2024年10月19日、武田啓亮撮影
ウェブメディアについてのイベントに登壇する参加者たち(右からnote社の徳力基彦さん、NHKの足立義則さん、朝日新聞の水野梓)=2024年10月19日、武田啓亮撮影 出典: 朝日新聞社

目次

たとえ炎上しても閲覧数が稼げれば収益が上がる――。そんな姿勢による情報発信が増え、ウェブメディア全体の信頼性が揺らいでいる昨今。NHKで長らくデジタル発信に携わる足立義則さん、20年以上ブロガーとして活動する徳力基彦さん、朝日新聞withnews編集長の水野梓が、情報発信が過激化してしまう構造的な問題や、メディアが動画とテキストを行き来する意外なメリットなどをテーマに、イベントで語り合いました。(構成:朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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【withnews 10周年イベント第1部「ウェブメディア総論」採録記事】

ウェブメディアの10年、転換点は? 「現実世界で事件」「記者の覚醒」PV問題、広告〝嫌われた〟変化も
思わず「クリックしたくなる」タイトルの誘惑 テキスト、動画…〝炎上〟狙いも横行、良いコンテンツとは?
なぜテレビのニュース原稿はです・ます調?バグやハックだらけの環境でどう信頼される?〝中の人〟らが議論

それぞれの「良いコンテンツ」

<足立義則(あだち よしのり)さん 1968年生まれ。1992年のNHK入局から社会部や科学文化部などでIT取材のほか事件事故、災害など幅広く取材と番組制作にあたる。2012年から報道のデジタル発信を担当し、ウェブコンテンツ制作やSNSの運用、偽誤情報対策も。現在はNHKのデジタル戦略立案にもあたる。>

<徳力基彦(とくりき もとひこ)さん 1972年生まれ。NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、アジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。代表取締役社長や取締役CMOを歴任。2019年にnoteに入社し、現在はビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNS活用のサポートを行う。>
withnews編集長・水野梓:おふたりは長年、ウェブメディアに携わられてきていますが、「良いコンテンツ」とはどんなものでしょうか。

NHKコンテンツ戦略局副部長・足立義則さん:自分のやった仕事でしか語れないので、その中で最近よく見ていただいたのは、最高裁裁判官の国民審査のサイトです。2021年から作り始めたんですが、当時はほかのメディアがあまりやっていなくて、オリジナリティーがありました。

なぜかと言うと、地味なんですよね、衆議院選挙に比べると、国民審査って。でも、すごく手間がかかるんですよ。当然、絶対に間違えちゃいけないし、審査する根拠になるように、複雑な裁判の内容をわかりやすく説明しないといけない。

10月27日投開票の衆院選に合わせた国民審査でも、10月15日に最新のものを公開しました。そこで気づいたのは、国民審査を取り上げる他社さんの記事が増えたことです。みなさんとてもリッチなコンテンツで、すごく印象的でした。

もちろん、国民審査のコンテンツを独占しようとするつもりはまったくなくて、広まるきっかけになったのならうれしいですね。これまであまり光が当たってこなかったのであれば、どんどん連携していった方がいいと思うので。

だからまた口はばったいんですけれども、良いコンテンツというのは、オリジナリティーがあって、他社さんがあまりやれていなくて、みんなの役に立って、なおかつ今後は、その運動の輪を広げていくもの、それが良いコンテンツなんじゃないかなと思います。

noteプロデューサー・徳力基彦さん:僕は素人側なので視聴者目線ですが、コンテンツに触れた人の人生がちょっと豊かになるようなものを良いコンテンツだと思っています。

なので逆に言えば、PV(ページビュー)を上げて広告収入を得るために、読んだ人たちの気持ちを怒りとかネガティブに振ってしまうのは、僕の中では悪いコンテンツというイメージです。

ただ、良いコンテンツを出しているメディアがちゃんと儲かるメディア環境にならなきゃいけないですよね。今だと、PVに応じた収入になる仕組みに乗っているメディアがまだ多いから、良い文脈だろうが、悪い文脈だろうが、ページビュー数が大きくなるものが、良いコンテンツに見えてしまうかもしれない。

この単純な「算数」を重視してしまうと、炎上とか釣り記事とか、そっちのダークサイドにメディアも引っ張られやすいというのは、非常に難しい構造的な問題です。

私はウェブメディアが広告収入だけで乗り切ろうとするのは、間違ってるんじゃないかと思っていて。

それこそ活版の時代から、メディアって媒体自体やビジネスモデル、チャネル(読者との接点)を柔軟に変化させながら、やってきてるわけじゃないですか。紙の新聞だって読者の購読料と広告収入の両輪で発展してきたわけですし、時代に合わせたやり方があるはずなんですよね。
 

過激な情報発信をしないために

NHKコンテンツ戦略局副部長の足立義則さん=2024年10月17日、朽木誠一郎撮影
NHKコンテンツ戦略局副部長の足立義則さん=2024年10月17日、朽木誠一郎撮影 出典: 朝日新聞社
水野:クリックしたくなるような見出しをつけたくなる誘惑にかられることは私にもあって、立ち止まるようにしているんですが、お二人にはコンテンツに関わる上で、過激にならないように気をつけていることってありますか?

足立:何を大切にするかと考えるときに、「攻める」とか「刺さる」方向性に走らないというのはもっとも自戒していることです。だから、私は「守ろうよ」って言うんです。

「守る」というのは、普通のイメージだと、特に新しいウェブの世界ではあまりいい言葉ではありませんよね。「守りに入ったな」みたいな。

でも、「自分を守る」んじゃなくて、「ブランドを守る」こともあるし、「世の中を守る」、例えば苦しんでいる人とか、まだ日の当たっていない問題とか、いろんなことを含めて「生活を守る」ということを考えましょう、と。

この守るということからスタートした上で、「もっとコンテンツを見てもらえるにはどうすればいいだろう」と考えるようにしています。

水野:足立さんはNHKのファクトチェックにも関わっていて、フェイクニュースに対して「これはこういうことですよ」と正しく解説するコンテンツも手がけていますよね。

でも、どれだけファクトチェックをしても、フェイクニュースの方が広がってしまうじゃないですか。そこもやっぱり「守る」思いでやっていらっしゃるんですか?

足立:そうですね。フェイクの方が情報が広がるのは当たり前だと思っています。それでも「違いますよ」と誰かが指摘したものが残っていないといけません。それをできるだけ早くすることによって、リファレンスのような形で残すことには意味があると思います。

水野:徳力さんは日々、発信している内容や伝え方が非常に穏やかですよね。

徳力:私はズルいんですよね。私はあくまで会社員で、ブログやnoteは趣味なので、読まれなくても困らないんですよ。これはメディアが本業の人間だとすれば、読まれなかったら今月の収入がぜんぜん入らないわけですから参考にならないですよね。

ただ、5年前にnoteに入ってみて強く思ったのは、やっぱり人間は、人間とつながりたいんだということです。noteの中では、メディア視点で見ると、意外なテーマの個人のメンバーシップが成立していたりするんですよね。

特に象徴的なのは、元日経新聞の後藤達也さんが経済情報を配信するメンバーシップが半年で2万人を突破したケースだと思います。
ただ、これは個人が運営するメディアとしては大きな収益なんですけど、企業のメディアとしては十分な規模ではないんですよね。

でも、私はそこにヒントがあると思っていて。メディアの雰囲気や、もっと言えばタイトルのつけ方などからにじむ倫理観が好きな人たちが、広告依存モデルだけだと直接応援できないけど、課金とか直接的に応援する方法があったら、質を維持しようとしているメディアの収入も増えるんじゃないかな、と。

サブスクもそうですけど、グッズだったり、こういうイベントをどんどん開催してスポンサーについてもらったりして……というように、です。
 

なぜ他媒体にも越境をするのか

noteプロデューサーの徳力基彦さん=2024年10月8日、朽木誠一郎撮影
noteプロデューサーの徳力基彦さん=2024年10月8日、朽木誠一郎撮影 出典: 朝日新聞社
水野:withnewsはテキスト中心のメディアなので、もっと動画での発信もやっていきたいという思いがあるのですが、ちゃんと手をつけられていなくて……。

徳力:NHKさんにnoteを使って「取材ノート」を書いていただいたんですが、私、最初はNHKさんってやっぱり映像だし、「あんなに地上波放送でみんなに見てもらえるんだから、テキストなんてやらなくていいんじゃないか」と思ってた側なんです(笑)。

でも、震災をテーマにした記事とか、めちゃめちゃ良かったんですよね。やっぱりNHKの中の方々と話すと、「放送だと流せるところがないんだ」みたいにおっしゃる内容もあるみたいで。

そっか、NHKさんって巨大で悩みなんかないと思ってたけど、映像だけだと実は取材したのに使えていないコンテンツがたくさんあって、その中にはテキストの方が相性がいいものもあるんだ、という。

逆に言うと、withnewsさんとか、それを運営している新聞社も同じで、記者の人がたくさん現場に行って、テキストのために取材しているんだろうけれども、実はその時に撮っておいた動画が、読者やファンの人からすると「そっちも見たかった」というものがあるかもしれないと思うんです。

こういうことを言うと、「いやいや我々は動画は素人なので……」みたいな反応になるんですけど、今はそんな素人がスマホで撮った動画をテレビ局が投稿を募って「面白い投稿動画番組」で盛り上がってるんですから、そこは絶対に組み合わせた方がいいと思うんです。

足立:取材者がその取材の内幕や思いをテキストなどのコンテンツにするという、まさにnoteさんで始めた「取材ノート」でしていたことは、世界的にトレンドなんですよね。“behind the curtain”と英語では言うようですけれど。

これって、何のためにやるのかというと、メディアの信頼性を高めるためなんですよね。もう「BBCがやっている」「ニューヨークタイムズがやっている」という看板、ブランドだけで信じてもらう時代ではなくなっていますから。

私たちはこんな手法で、時には汗や涙を流し、こんな思いで取材しています、と。その内幕を見せることによって、信頼度を高めて、「より良く見てもらう」ということにつながっていくんですけれども。

特にマスコミではまだまだ、この「より良く」というところに課題があるなと思います。もちろん他のメディアさんでもそうかもしれませんが、「見てもらう」のは当たり前ですけれども、それを意識しすぎて、結果として信頼を損ねてしまうようなネガティブなタイトルや切り口という問題がまだまだ繰り返されている。

徳力さんがおっしゃるように、やっぱりメディアのファンを増やさないといけない。例えばメディアのロゴのシールを作って、もらった人がパソコンなどに貼る、といった文化もありますよね。媒体として愛されることを目指すのは大事だと思います。
 

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