MENU CLOSE

ネットの話題

「雨乞い」効きすぎました…まさかの〝撤収〟 博物館のX投稿が話題

神様を怒らせるために小川に投げ込まれたという馬の頭。現代人にとっては驚きの展示内容が話題になりました
神様を怒らせるために小川に投げ込まれたという馬の頭。現代人にとっては驚きの展示内容が話題になりました 出典: 浜松市博物館提供

目次

猛暑続きなので「雨乞い」の展示をします――。静岡県浜松市の博物館が始めた、雨乞いに関する遺物を集めた小さな企画展。ところが、この展示はわずか1週間ほどで「撤収」となってしまいました。その理由は「雨が降りすぎたから」。展示の内容や撤収までの経緯を聞きました。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮)

【PR】進む「障害開示」研究 心のバリアフリーを進めるために大事なこと

日照りの夏に「雨よ降れ」

話題になったのは、今年8月18日にアップされた、浜松市博物館のこんな投稿でした。

<雨よ降れ!連日の猛暑、大変です。静岡では台風の影響がなく、日照りが続いています。浜松市博物館では、しびれを切らして、小展示「雨乞い」を開始します>

写真から、実際に雨乞いの儀式に使われた絵馬や木簡、馬の頭部などが並ぶ、本格的な展示内容がうかがえます。

浜松市博物館の雨乞いに関する展示。実際に使われた品々が残っているのは珍しいそうです
浜松市博物館の雨乞いに関する展示。実際に使われた品々が残っているのは珍しいそうです 出典: 浜松市博物館

ところが、この投稿から8日後の8月26日、事態は急変します。

〈一週前から始めた小展示『雨乞い』、願いが届きすぎたようで、昨日の大雨警報に加えて、台風まで接近中。ということで急ぎ撤収します!〉

なんと、雨が降りすぎてしまったため、展示を中止することになったそうです。

「短い期間でしたがご覧いただいた方ありがとうございました!どうか台風の被害が少なくすみますように」

この予想外の展開に、SNSでは大きな反響がありました。

「効きすぎワロタ」「こうかはばつぐんだ!」「特級呪物なみの効果やな」「もうオカルトとか非科学的とか言ってられねぇ」と驚く声のほか、「なんて感性のある博物館」「非常に誠実だ」と展示開始から撤収までの対応を評価する声もありました。

科学的根拠はないけれど……

浜松市博物館には、縄文時代から近現代までの地域の歴史を示す様々な資料が保管・展示されています。

鈴木一有(かずなお)館長は「今年の夏は静岡県内でも猛暑と日照りが続いていたので、古代の人々の風習について知ってもらういい機会だと思って雨乞いの展示を企画したのですが、展示を始めると、今度は雨が降り続けてしまったのです」と振り返ります。

気象庁がまとめている8月の浜松市内の気象データを見ると、8月10日から展示が始まる18日までは雨がほとんど降っていませんでしたが、20日以降は月末まで雨が続いています。

「もちろん、雨乞いに科学的な根拠はありませんが、大雨や台風で被害を受ける方の心情にも配慮し、展示を中止することにしました」

神様をあえて怒らせる儀式とは?

SNSでは展示の内容そのものについても、興味を持った人が多かったようです。

特に反応が多かったのは「馬の頭部を『水神の淵』と呼ばれる小川に投げ込んで、神様の怒りを買う」という儀式。

博物館では実際に使われた馬の頭の骨も展示。神様にお願いするのではなく、怒らせて雨を降らせるという儀式に、SNSでは「なかなか過激な内容」と驚く人もいたようです。

他の品々と比べて、大きさも際立つ馬の骨。インパクトがあります。
他の品々と比べて、大きさも際立つ馬の骨。インパクトがあります。 出典: 浜松市博物館

鈴木さんは「古代の民間信仰では、地震や雷、大雨などの天変地異は、神様が機嫌を損ねた結果に起こるものだと信じられていました。考古学の世界ではよく知られていることなのですが、一般の方には意外に思われたようですね」と話します。

雨乞いの儀式は奈良時代を中心に、飛鳥時代から平安時代ごろまで続いていたそうです。

「当時の人々は『不浄のもの』とされる馬の生首を小川に投げ込めば、龍神は怒って雨を降らせるだろうと考えたようです。本物の代わりに馬や牛を描いた木製の絵馬を投げ込むこともあったようで、これも実際に使われた絵馬が見つかっています」

本物の馬や牛の代わりに投げ込まれた絵馬。いけにえにすることを表しているのか、絵馬は割られた状態だったそうです
本物の馬や牛の代わりに投げ込まれた絵馬。いけにえにすることを表しているのか、絵馬は割られた状態だったそうです 出典: 浜松市博物館

雨乞いに使われた品々は、浜松市内にある伊場遺跡やその周辺から出土したもの。

伊場遺跡は奈良・平安時代の役所跡だったそう。当時、この一帯は湿地帯で小川も流れており、いけにえやその代わりの絵馬を投げ込む雨乞いの儀式が執り行われていたといいます。

「雨が降りすぎた際には『長雨封じ』として、雨を降らせるのを止めるよう神様に祈る呪文が書かれた『呪符木簡』と呼ばれる木の札が使われました」

鈴木さんによると、こうした儀式は全国各地でみられるものですが、実際に儀式に使われた品が残っているのはとても珍しいそうです。

考古学の世界に

鈴木さんは「雨乞いに限らず、古代の日本には、各地でこうした土着的な民間信仰が根付いていました」と語ります。

投稿がSNSで話題になったことについて、「シャーマンキング」「呪術廻戦」といった「呪い(まじない)」を題材にした漫画・アニメ作品が一つのジャンルとして定着したことで、関心を持つ人が増えているのではないかと鈴木さんは分析しています。

雨乞いの展示の準備をしている様子。分かりやすい資料の見せ方や興味を持ってもらえるような解説文など、博物館では日々、工夫をこらしているそうです
雨乞いの展示の準備をしている様子。分かりやすい資料の見せ方や興味を持ってもらえるような解説文など、博物館では日々、工夫をこらしているそうです 出典: 浜松市博物館

「大きな反響をいただいて、少し驚いています。これをきっかけに、歴史や考古学の世界をのぞいてみてもらえると嬉しいです」

今回は1週間で中止になってしまった雨乞いの展示ですが、今後、別の企画展や常設展の一部として展示を再開することを検討しているそうです。

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます