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北半球と南半球、つむじの向きが違う?面白いイグ・ノーベル賞の研究

2024年のイグ・ノーベル賞、ぜんぶ紹介(後編)

イグ・ノーベル賞の授賞式で使われた小道具=2019年、米マサチューセッツ州ケンブリッジ
イグ・ノーベル賞の授賞式で使われた小道具=2019年、米マサチューセッツ州ケンブリッジ

目次

2024年のイグ・ノーベル賞が米マサチューセッツ工科大学で9月12日(日本時間13日朝)、発表されました。東京医科歯科大の武部貴則教授らのグループが生理学賞を受賞し、日本人のイグ・ノーベル賞はこれで18年連続となりました。ただ、受賞した残る9件の研究も、おもしろいものばかり。研究者たちからいただいたコメントとともに、人口統計学・医学・解剖学・生物学賞を紹介します。(朝日新聞デジタル企画報道部・小宮山亮磨)

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人口統計学賞「長寿で有名な人々の多くは、出生と死亡の記録がいい加減な場所に住んでいたことを、探偵のように発見」

人口統計学賞を受賞したのは、英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのサウル・ニューマン博士の「長寿で有名な人々の多くは、出生と死亡の記録がいい加減な場所に住んでいたことを、探偵のように発見」です。

米国では110歳以上として届け出られている人の数が、出生証明書の提出が必要になった州では7割以上も減ったといいます。

イタリアでは所得や識字率が低く平均寿命が短い地域で、超高齢の人が多いそう。

米国で110歳以上とされている人(supercentenarian)の数は、出生証明書の提出が義務づけられた年(グラフ中央にある青い縦線)以降に激減した。左のグラフは人数、右は人口当たりで示した人数=ニューマンさんの論文から
米国で110歳以上とされている人(supercentenarian)の数は、出生証明書の提出が義務づけられた年(グラフ中央にある青い縦線)以降に激減した。左のグラフは人数、右は人口当たりで示した人数=ニューマンさんの論文から

きわだった長寿の記録には、野菜をたくさん食べたり社会的なつながりが強かったりすることが役立つと言われていますが、論文(プレプリント版)はこのほかに「不正と誤りが主要な役割を果たす」と、日本の沖縄やギリシャのイカリア島なども例に挙げて主張しています。不正には年金の受給との関連があるというお話もあります。

ニューマンさんは、長寿で有名なある男性について、本当の誕生日のほかに「偽造された」ものと「人口学者の誤植」で作られたものがあると、取材に指摘しました。自身の研究が「おもしろくて、面倒くさかったから授賞されたと思いたい」とコメントしてくれました。

今回の受賞は、発表まで秘密にするよう言われました。「ある賞を受けることになったから米国に行く」としか伝えていないので、家族は少し怒っている、のだそうです。

医学賞「痛みを伴う副作用がある偽薬は、痛みを伴わない偽薬よりもよく効くことを証明」

医学賞を受賞したのは、ドイツ・ハンブルクのエッペンドルフ大学医療センターのリーヴン・シェンク博士らの「痛みを伴う副作用がある偽薬は、痛みを伴わない偽薬よりもよく効くことを証明」というもの。

「痛み止めの点鼻薬」と言われて使った、実際には何の効果もない偽薬のなかに、唐辛子に含まれる成分カプサイシンが入っていたら、どうなるでしょうか。

偽薬を使った被験者に熱さの刺激を与えて、それによる痛みを評価してもらったところ、カプサイシン入りのときは、偽薬がただの食塩水だったときよりも、痛みを感じにくかったといいます。

「良薬口に苦し」という格言があるが、むしろ苦いと良薬に感じるし、実際に「効果」もある、ということのようです。

解剖学賞「北半球に住む人の頭髪が、南半球の人の頭髪と同じ向きに渦を巻いているかの研究」

解剖学賞は、フランスのネッケル小児病院のロマン・ホセイン・コンサリ教授らの「北半球に住む人の頭髪が、南半球の人の頭髪と同じ向きに渦を巻いているかの研究」でいた。

北半球のフランスと南半球のチリでそれぞれ生まれた子どもで、つむじの巻き方を調べました。

フランスでは反時計回りの子は50人中で1人でしたが、チリの子では50人中7人いました。統計的にみて、反時計回りの頭髪は南半球のほうが北半球より多いという結果です。

また、双子はお互いにつむじが逆向きになっていることが、ランダムに選んだペアよりも多かったといいます。

コンサリさんは取材に、「資金調達の圧力にさらされる今日では、ふつうではないテーマの研究をするのは難しい。この賞は、型破りな研究を紹介し、知識への道は必ずしも一筋縄ではいかないことを示すための、またとない機会です」とコメントしました。

ただ、なぜ受賞できたと思うかをたずねると、「本気でわからないんです」というお答えでした。

生物学賞「牛の背中に立っている猫の横で紙袋を爆発させ、牛がいつどうやって乳を出すかを探求」

生物学賞は、アメリカにあるケンタッキー農業試験場のフォーダイス・エリーさん(故人)らの「牛の背中に立っている猫の横で紙袋を爆発させ、牛がいつどうやって乳を出すかを探求」が受賞しました。

牛がストレスを感じたときに乳の出方が変わるかどうかを研究したもので、論文は1939年に発表されました。

はじめは牛の背中に猫を乗せて、さらに紙袋を10秒ごとに爆発させるのを2分間続けておどかすと、牛は緊張して乳量が減りました。

牛乳の実験で使われた牛の写真=エリーさんらの論文から
牛乳の実験で使われた牛の写真=エリーさんらの論文から

ただ、その後は実験に猫は必要ないと判断して、使わなくなったといいます。

授賞式に出席するマット・ウェルスさんによると、祖父のエリーさんは1968年に亡くなりました。

エリーさんはイグ・ノーベル賞がたたえるユーモアのセンスがあり、エリーさんの娘であるお母さんも「受賞をとても喜んだはずだ」と考えているそうです。

確率賞「コイントスは投げる前と同じ向きで終わることが多いのを、理論と35万757回の実験で証明」

確率賞は、オランダ・アムステルダム大学のフランティシェク・バルトスさんらの「コイントスは投げる前と同じ向きで終わることが多いのを、理論と35万757回の実験で証明」でした。

投げたコインの動きをハイスピードカメラで撮影して分析し、最初と同じ面が出る確率は約51%になる、との研究を目にしました。

そのうえで、「12時間コイントスマラソン」を開いたりしてひたすらデータを集めたところ、投げる前に上を向いていたほうが事後も上を向いている確率は50.8%と、「五分五分」よりも統計的に明らかに高かったといいます。

自身の研究で最も気に入っている点をバルトスさんにたずねると、合わせて50人にもなる共著者の名前一覧だと答えました。「自由な時間を惜しまずに捧げてくれた」といいます。

「まともな神経の持ち主が、そんなこと(35万回以上のコイン投げ)をするでしょうか」

50人にも及ぶ著者の名前がずらりと並んだ論文の冒頭部分=バルトスさんらの論文から
50人にも及ぶ著者の名前がずらりと並んだ論文の冒頭部分=バルトスさんらの論文から

「イグ・ノーベル賞」ぜんぶ紹介、以上です。

ではまた来年を楽しみに。

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