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「イグ・ノーベル賞は科学で最高の賞」酔っ払ったミミズを研究して…

2024年のイグ・ノーベル賞、ぜんぶ紹介(前編)

イグ・ノーベル化学賞を受けるオランダ・アムステルダム大学のチーム
イグ・ノーベル化学賞を受けるオランダ・アムステルダム大学のチーム

目次

2024年のイグ・ノーベル賞が米マサチューセッツ工科大学で9月12日(日本時間13日朝)、発表されました。東京医科歯科大の武部貴則教授らのグループが生理学賞を受賞し、日本人のイグ・ノーベル賞はこれで18年連続となりました。ただ、受賞した残る9件の研究も、おもしろいものばかり。研究者たちからいただいたコメントとともに、紹介します。(朝日新聞デジタル企画報道部・小宮山亮磨)

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【後編はこちら】北半球と南半球、つむじの向きが違う? 面白いイグノーベル賞の研究

物理学賞「死んだマスに遊泳能力があることを実演して説明」

物理学賞を受賞したのは、米フロリダ大学のジェームズ・リャオ教授の「死んだマスに遊泳能力があることを実演して説明」です。

渓流で尾を左右に激しく振って泳ぐ魚は、実は身を任せているだけで、渦巻く乱流が生み出す力を逆に利用することでエネルギーを節約しながら前に進んでいるそう。

均一な流れの中にいる魚は全身の筋肉を動かさないと泳げませんが、乱流の中だとほとんど力を使わずに済むのだそうです。

乱流の中でマスがどう泳ぐかを調べる実験の装置。マスの体には筋肉の動きを調べるための電極が差し込まれている=ジェームズ・リャオ教授の論文から
乱流の中でマスがどう泳ぐかを調べる実験の装置。マスの体には筋肉の動きを調べるための電極が差し込まれている=ジェームズ・リャオ教授の論文から

それを分かりやすく示したのが死んだマスの実験で、乱流の中に固定すると、生きた魚と同じように尾を振る動きがみられました。

群れをなしている魚も、前にいる魚が生み出す乱流を利用して、脱力しながら泳いでいるらしいのです。

リャオさんによると、死んだ魚の実験は何人かの研究者から「やらないほうがいい」と止められました。それでも実行に移してしまったところが、自分でも気に入っているといいます。

魚道の設計や新しいロボット開発にも応用できる、とリャオさんは考えています。「社会はしばしば、お金をつぎ込めば問題が解決すると考えるが、そうとは限りません。創造性が解決するのです」

化学賞「酔っ払ったミミズとしらふのミミズを分類するのにクロマトグラフィーを使用」

化学賞は、オランダ・アムステルダム大学のダニエル・ボン教授らの「酔っ払ったミミズとしらふのミミズを分類するのにクロマトグラフィーを使用」に贈られました。

イトミミズをエタノール入りの水に入れると、酔っ払って動きが鈍くなります。一方で、しらふのイトミミズは元気なので、丸まったり結び目を作ったりと、形をいろいろ変えます。

この違いを利用して、化学分析などに使われるクロマトグラフィーという装置で分離できることを示しました。

実験装置の前でポーズをとるダニエル・ボン教授(右端)ら=ボンさん提供
実験装置の前でポーズをとるダニエル・ボン教授(右端)ら=ボンさん提供

イトミミズ入りの水を「障害物」になる柱が無数に並んだ部屋に流すと、丸まった状態のイトミミズは柱に引っかかりにくいため、ひも状の形を保ったものより早く進むためです。

研究は、化学物質がつながってひも状になった「ポリマー」を分離するための基礎技術になるといいます。

ボンさんは取材のメールに、研究仲間がミミズのぬいぐるみにビールを飲ませている様子の写真を添えて返信し、「私たちはみな、(イグ・ノーベル賞が)科学で最高の賞だと思っている」とコメントしてくれました。

平和賞「ミサイル内に生きたハトを閉じ込めて、ミサイルの飛行経路を誘導できるか検証した実験」

平和賞は、米ハーバード大学のバラス・スキナー博士(故人)の「ミサイル内に生きたハトを閉じ込めて、ミサイルの飛行経路を誘導できるか検証した実験」が受賞しました。

ミサイルの弾頭に「平和の象徴」を閉じ込め、画面に表示された標的をつつかせる。画面のどこがつつかれたかを感知して進行方向を制御し、標的に命中させようという実験でしたが、1950年代に中止されました。

飛行経路をハトに誘導させるミサイル=スキナー博士の論文から
飛行経路をハトに誘導させるミサイル=スキナー博士の論文から

スキナー氏は、レバーを押すとエサが出てくる箱に動物を閉じ込めて行動を制御する「スキナー箱」という実験装置の開発で知られる心理学者です。

授賞の対象になった論文は1960年に発表されたもの。自身の研究が「誘導ミサイルが不要になる未来の世界に向けて大きく貢献するだろうと信じている」と書いています。

植物学賞「生きた植物には、近くにあるプラスチック製の人工植物の形をまねするものがいるという証拠の発見」

植物学賞は、ドイツ・ボン大学のフェリペ・ヤマシタ・デ・オリヴェイラ博士らの「生きた植物には、近くにあるプラスチック製の人工植物の形をまねするものがいるという証拠の発見」でした。

南米でみられるツル植物の一種ボキラ・トリフォリオラタは、「視覚」を使って巻き付いた相手の植物を観察し、その葉っぱに似た形に自分の葉っぱを作りかえる、という論文を発表しました。

この植物がほかの植物の葉っぱの形をまねすることはこれまでも知られていて、相手から出ている化学物質を捉えているとか、微生物が運んできた相手の遺伝子を使っているとかの仮説が出ていました。

ただ、この実験で巻き付いた相手はプラスチック製の偽物なので、その可能性が否定されたということのようです。

元の状態の葉っぱ(左)と、プラスチック製の葉っぱの形をまねしたとされる葉っぱ(右)。まねしたものは形が単純になり、葉脈も減っているという=ヤマシタ博士らの論文から
元の状態の葉っぱ(左)と、プラスチック製の葉っぱの形をまねしたとされる葉っぱ(右)。まねしたものは形が単純になり、葉脈も減っているという=ヤマシタ博士らの論文から

ヤマシタさんは受賞の連絡があってから、すぐに恩師2人に伝えたそうです。ヤマシタさん自身を含めた3人とも、イグ・ノーベル賞は聞いたことがあっても、よくは知りませんでした。

業界では「植物の知性」を示す研究への批判が多いといい、恩師2人には「研究の認知度が上がるなら」と賞を受けることをすすめられたといいます。

ヤマシタさんの祖父(故人)は熊本県出身で、1956年に神戸を出た船でブラジルへ渡って家族を築いたそうです。

ヤマシタさん自身は2020年に両親らと日本訪問を計画していましたが、コロナ禍で断念しました。

「私は日本の影響をたくさん受けて育ちましたが、日本を訪ねたことは一度もないんです」と答えてくれました。

前編は以上です。残る人口統計学・医学・解剖学・生物学賞は、後編で紹介します。

【後編はこちら】北半球と南半球、つむじの向きが違う? 面白いイグノーベル賞の研究
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