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ひっくり返った虫に手を貸す会…虫好きが高じて作ったグッズが話題
「虫と和解せよ」のバッジも
「#道路に落ちているセミを拾って木に戻す会」「#干からびそうなミミズを土に戻す会」――。身の回りの生き物のピンチを救うことを宣言するかのようなバッジが、人気を集めています。作っているのは「日本野虫の会」。子どもの頃からの虫好きが高じ「会」まで作った男性に、身近な虫との付き合い方を聞きました。
生き物のピンチを救うことを宣言するような文言と、シンプルな虫のイラストが描かれたバッジを作っているのは、虫にまつわる様々なグッズを手がけている「野虫の会」の、とよさきかんじさん(@panchichi3)です。関連の投稿をSNS発信するたびに「昨日助けた」「すでに入会しています!」など大きな反響を集めます。
日本野虫の会の#戻す会バッジに #路上のカマキリを草むらに戻す会、#ひっくり返ったコガネムシに手を貸す会、#道路でノロノロするカタツムリを移動させる会 が加わりました。7/20-21の #博物ふぇす 日本野虫の会 D-48ブースにて販売いたします。心やさしい方に届けー! pic.twitter.com/yjcCLlNZ6H
— 日本野虫の会 博ふぇすD48 (@panchichi3) July 3, 2024
通称「戻す会バッジ」には7つの種類があります。
「#道路を歩いているイモムシを草むらに戻す会」「#道路でぼんやりするカエルを茂みに戻す会」「#路上のカマキリを草むらに戻す会」「#ひっくり返ったコガネムシに手を貸す会」などです。
2022年に最初の2種類(セミとイモムシ)を作り、虫好きの同人イベントで販売すると、即売り切れ。その後は同じような活動をしている人からのリクエストなどから種類を増やし続けました。
「戻す会バッジ」制作の発端となったのは、2021年に友人であるうみねこ博物堂(神奈川県相模原市)の店主がツイッター(現X)で、「#道路に落ちているセミを拾って木に戻す会」というハッシュタグと共に、拾ったアブラゼミの写真を投稿したことです。この投稿には多くの共感の声が集まりました。
ここに着想を得たとよさきさんは、「商品化していい?」と友人の了解を得てバッジとしてグッズ化したのだといいます。
それ以前には「虫と和解せよ」と文字を前面に打ち出したバッジを作りましたが、「虫そのものをモチーフにしたものよりも、文字が入ったものの方が反響がある」と手応えを感じていたとよさきさん。「戻す会バッジ」も文字とイラストが全体の半々の面積を占めるようなデザインになっています。
1975年、埼玉県春日部市生まれのとよさきさんは虫好き。幼い頃は、自宅の近くにあった雑木林や草むらで、虫探しに興じていました。
最も熱中していたのは小学3、4年生の頃。
自由研究では、雑木林に通い、100種類の虫を色鉛筆でスケッチ。どんな状況で見つけたか、どんな生態なのかを、自分で見た情報と図鑑で調べた情報とをあわせてまとめました。
ただ、虫好きの友人がいなかったことや、通っていた雑木林が宅地開発のためになくなってしまったこと、またとよさきさんいわく「ヤンキーの道に進んだ」ことで、虫を愛でることからは一度離れたといいます。
「ヤンキーはマッチョな世界なので、『オタク趣味』的なものは言えなかった」と、とよさきさん。「『子どもっぽいことから離れないといけない』みたいな、圧みたいなのも感じていたのかもしれません」
再び「虫の道」が見えてきたのは大学生になってから。
多摩美術大学に進学したことで、東京・八王子で一人暮らしを始めました。緑豊かなキャンパス内で「幼い頃に熱中したオサムシを発見して、興奮しました」。アパートではそのオサムシをしばらく飼育していたといいます。
美大生としては、美術作品で虫を表現しようと試みたことがありましたが、「本物の方がずっといいな、と思いました」。
「例えば、タマムシがきれいだなと思って描いても、自然の美しさには全然かなわないし、むしろ半減している」と感じ、作品のテーマからは外すことにしました。
大学を卒業して働いてしばらくした38歳の頃。犬を飼い始め、都内で犬の散歩をするようになったとよさきさん。ここで、再び虫との距離が近づき始めます。
犬を飼う前のとよさきさんは「アスファルトだらけの都心に自然なんかないだろう」と思っていたといいます。
ただ、散歩をするうちに、アスファルトの上を歩いているクモなどが目にとまるように。見つけたクモを調べると、キシノウエトタテグモという地面に縦穴を掘って待ち伏せするクモでした。気づいていないだけで、街なかにも生き物はいるのでは?と思い立ち、子どもの頃のように「身の回りにいる虫について調べる」ことを再開しました。
その頃、著書に「ときめき昆虫学」などもあるメレ山メレ子(現・沙東すず)さんが始めた「昆虫大学」というイベントに出会います。識者によるパネル展示や、虫に関連したグッズ販売もあり、魅力を感じたといいます。
当時、絵本「くるりん! ダンゴム」(岩崎書店)制作のため、改めて昆虫や生態系について調べていたこともあり、「昆虫大学に、出展者として参加したい」という思いを強くしたといいます。
そうして2015年、「野虫の会」の屋号を掲げ、虫を身近に感じられるようなグッズ制作と販売を始めました。
とよさきさんは美大で学んだ知識や、社会人になってから働いた先での商業デザインでの経験を生かし、「戻す会」以外にもグッズを作っています。
屋号を掲げた当時、「身につけたくなるような虫のグッズは少なかった」と、とよさきさん。「重い美術作品ではなくポップなものを」とデザインのテーマを決めました。
最初に作ったのは、蝶などの虫を透かしたようなデザインのアクリルキーホルダー。「虫ってパンチが強いですよね。そのままだと身につけにくい」と、インパクトを弱めるために透明なデザインにするなどの工夫をしました。
とよさきさんのグッズをきっかけに、虫に興味を持つ人もいるといいます。
今年から始めた年8回の虫の観察会には、小学2年生から74歳まで30人が参加しています。
とよさきさんは活動を通じて、「虫と一緒に暮らしていることを感じてほしい」と話します。
「特に都市部に住んでいる人は、野外の虫に気づきにくいですが、実は身近な垣根や公園にも虫はいます」
「虫の存在に気付いていれば、ある日家の中に虫が現れても『突然現れた』という感覚にはならずで、恐怖や不快感にもつながりにくいのではないでしょうか」
「普段から少しずつ虫との関わりを増やしていくことが大事。そうしないと、不必要に恐れてしまう」と考えるとよさきさん。
この時期、関わりやすい虫として勧めるのはセミです。
「『セミって怖い』と感じている人ほど、セミの羽化を見てほしい。考えが変わります。それに、セミくらいの大きさや硬さだと、お子さんでも認知しやすいし、触れることもできます。つかむときに力の調整が難しくないのは、他にもダンゴムシやコガネムシなどもいます」
また、「大人になるとイモムシ好きな人がグッと増えてくる」と話します。
「アゲハチョウは都市部にもいて、カラタチの木やサンショウの木があれば、その付近に必ずと言っていいほど出現します。卵かや幼虫から飼って、羽化まで見届けるのも楽しいですよ」
とよさきさんは、虫との共生について「この世界では、人間だけが生きているのではなくて、虫も一緒に暮らしていると感じてくれる人がたくさんいると嬉しいです」と話しています。
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