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連載

#58 「きょうも回してる?」

ガチャガチャ界では異例、32年のロングセラー 100円の〝缶詰〟

子どもたちの遊び方を考え、「あえての非可動」

「こむしちゃんのかんづめパート33」の「缶づめ」外観
「こむしちゃんのかんづめパート33」の「缶づめ」外観

目次

32年、変わらない価格で商品を提供し続ける、ガチャガチャ界では異例のロングセラー商品があります。「風物詩的な商品と認識している」と話す、ガチャガチャ評論家のおまつさんが、息長く愛される商品の舞台裏を取材しました。

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ガチャガチャ評論家おまつの「きょうも回してる?」

1990年発売のロングセラー商品

長引く円安の影響で、商品を作るメーカーにとって、苦難の日々が続いています。多くのメーカーは中国に生産拠点を構えており、為替に影響されます。
6月に円相場が1ドル=135円台前半となり、約24年ぶりの円安水準が続き、今もその傾向が続いています。さらに、原材料価格の高止まりも続いています。
現在、ガチャガチャの価格帯は300円が主流ですが、現状価格で販売することが今後難しくなってきています。

このような厳しい環境のなか、業界2大メーカーのひとつであるタカラトミーアーツのオリジナル商品「こむしちゃんのかんづめパート33」が今年も発売されました。

こむしちゃんのかんづめは、今から遡ること32年前の1990年に発売がスタート。私にとって「夏と言えば、こむしちゃんのかんづめ」というイメージが定着するほど、風物詩的な商品と認識しています。
そして業界のオリジナル商品のなかで、一番長く続いているシリーズ商品でもあります。

「こむしちゃんのかんづめパート33」の「缶詰め」のかぶとむし
「こむしちゃんのかんづめパート33」の「缶詰め」のかぶとむし

ラインナップ数種類が王道なのに…

このシリーズで一番驚くべきことは、現在、一般的なガチャガチャは300円の商品が多い中、32年前の発売当時の価格と変わらず、100円で販売している点です。

タカラトミーアーツガチャ企画の東貴亮さんは、こむしちゃんのかんづめを前任者から引き継いで担当し、今年で12年目を迎えます。

こむしちゃんの魅力について、東さんは「初めて担当したとき、商品のタイトルに驚きました。こむしちゃんのかんづめは子どものおもちゃとして、缶詰のなかに虫が入っているというガチャならではの商品であり、開けた瞬間に『何だ、これは!』という驚きが魅力のひとつになっています。また大虫などは100円とは思えない、リアルなサイズ、質感を表現している点も魅力です」と話します。

100円という価格以外にも、特徴があります。それは、商品ラインナップの多さです。

一般的には、ひとつの商品ラインナップは5〜6種類のものが多いです。
しかし、こむしちゃんは、大虫、缶づめの二つの分野で分かれており、大虫は当たりくじの要素を含んだゴールドバージョンもあるため、ラインナップの種類が多いのです。今回のパート33も20種類あります。

昔からラインナップの種類が多く、子どもたちを飽きさせないように、マイナーチェンジをしているところが素晴らしく、子どもの気持ちを裏切らない想いが伝わってきます。

「こむしちゃんのかんづめパート33」のゴールドカラー
「こむしちゃんのかんづめパート33」のゴールドカラー

なぜ32年間変わらない100円なのか

気になるのは、どうしてこむしちゃんが32年前と同じ価格である100円で販売できるのかということです。

それには二つの理由があります。一つ目は、32年作り続けてきた商品の金型の種類が豊富なこと。もう一つは、日本で製造しているからです。

32年の間、一時は中国やベトナムで生産していた時もありましたが、現在は日本で作っています。

他のガチャガチャ商品をみてみると、アクリルキーホルダーや缶バッチなどは国内で作っているメーカーも多いですが、組み立てが発生する「フィギュア」はコスト面を考えると、海外で作らざるをえません。

しかし、こむしちゃんは、これまでの日本生産の実績や為替相場を考慮して、日本で作っています。
こむしちゃんはまさに、タカラトミーアーツのオリジナルガチャで唯一の国産ガチャなんです。

東さんは100円で販売することについてこう話します。

「100円ガチャの魅力は、子ども自身がおもちゃとして、購入することができる価格帯で他のガチャに比べて手に取りやすいということです」
「円安や原材料の調達の面から400円や500円の商品が今後増えていくと思われるなか、100円で販売することで、差別化にも繋がります」

「こむしちゃんのかんづめパート33」の「大虫」のヤマトカブト
「こむしちゃんのかんづめパート33」の「大虫」のヤマトカブト

昨年からの変化、「子どもたちのため」考えた

東さんは、こむしちゃんを作る上で、どんな風にしたら子どもたちに喜んで遊んでもらえるかということを大切にしています。

今回のパート33では、大虫は組み立て式ながら、しっかりと取り付ければ簡単には外れない、あえての非可動式です。
パート32は、組立式の可動式でした。ですが今回は、お客さんのアンケートと、東さんなりの思いを反映させて、非可動にしました。東さんは「アンケートを見る限り、可動式ゆえに簡単にパーツが外れてしまい子どもたちが満足に遊べないという声があり、パート33ではそういった声に対応したものづくりを目指しました」と教えてくれました。

また、東さんは「最近の昆虫の商品は、可動式やリアルさを表現した商品が流行っています。一方、それに応じてパーツ数が増えてしまいます。ディスプレイを目的とした商品なら良いと思いますが、子どもたちが遊ぶことを考えると、不向きなのかなと思っています」と指摘。

「子どもたちの遊びは少々乱暴で、自分の子どもたちがこむしちゃんで遊んでいる姿を見た時、ぶつけあったり、戦わせたりして遊んでいました。そこを考えると、こむしちゃんに関しては、可動式よりも非可動式にして満足して遊べる仕様のほうが大事かなと思いました」と、今回の変更理由を教えてくれました。

また今年も当たりくじの要素として、ゴールドバージョンもあります。「僕が古い人間なのかもしれませんが、ガチャって当たりが入っていると嬉しいし、回す喜びがあると思うんです」(東さん)

「子どもたちのお小遣いで…」

円安が今後も長く続き、原材料も高騰し続けた場合、いくら日本で作っている商品でも、こむしちゃんを100円で販売することがだんだん難しくなってくるかもしれません。
今でも厳しい環境下で、多くのメーカーがコスト面を考慮してシリーズ生産を終了した商品は山ほどあります。

ただ、東さんには12年間、こむしちゃんに携わってきたこだわりがあります。
「僕自身はガチャが100円、200円の時代で育ってきました。100円で回せるガチャ文化は大事です。お客さんのアンケートで、『昔、回したこむしちゃんが今でも販売されていて嬉しいです』という声もあります。そういう声を聞くと、私が担当を外れるまでは、このシリーズは終わらせたくありません」

「周りからは『何で100円にこだわるの?』と思われているかもしれません。しかし100円ガチャは、子どもたちが貯めたお小遣いで回すこともでき、想い入れも深いものになると思います。こむしちゃんを通して、ガチャファンになってほしいという想いがあります」と東さん。

最近では、ガチャガチャ専門店が増えることで、大人向けの商品などのバリエーションが増えました。また、大人向けの話題性がある商品も出てきたことも事実です。しかし、ガチャガチャの原点は子どもが遊べるおもちゃです。その代表と言えるのがこむしちゃんです。

タカラトミーアーツのオリジナル商品で唯一長く続いているこむしちゃんシリーズは今後も、続けてほしいと切に思いました。

      ◇
こむしちゃんのかんづめパート33は、1回100円、ラインナップは、【大虫】では「ヘラクレスオオカブト」、「コーカサスオオカブト」、「ヤマトカブト」、「ヒメカブト」、「ヒラタクワガタ」、「ギラファノコギリクワガタ」、「ノコギリクワガタ」、「パリーフタマタクワガタ」。【缶づめ】では、「バッタ」、「かぶとむし」、「くわがた」、「せみ」の全12種+ゴールドカラー8種(大虫)で全20種類。

ガチャガチャ評論家おまつの「きょうも回してる?」
この連載は、20年以上業界を取材しトレンドをチェックしているおまつさんが注目するガチャガチャを紹介していきます。

     ◇
ガチャガチャ評論家・おまつ(@gashaponmani
ガチャガチャ業界や商品などをSNSで発信中。著書に「ガチャポンのアイディアノートーなんでこれつくったの?ー」(オークラ出版)。テレビやラジオなどのメディアへの出演や素材提供も多数ある。

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