「特別じゃない日」をテーマにした単行本が発売された漫画家・稲空穂さん。SNSで発表して注目を集めた漫画「思い出のヒロイン」に込めた思いを聞きました。
家族が映画のサブスクサービスに加入し、孫に「おじいちゃん好きな映画ある? あとで観てみる!」と言われた祖父。昔の映画の話をするうちに、お見合いをした若いときのことを思い出します。
お見合いで出会ったのは、映画好きの男性と映画を知らない箱入り娘。
「私の趣味に合わせなくて良いですよ」という男性に彼女がかけた言葉は「一緒に映画を観てくれませんか? 私、映画館に行ったことがないんです」。
彼女が選んだのは男性がふだん観ないジャンルのミュージカル映画。「いかにも女性が好きそうな内容だな。なんでいきなり歌うんだ」と退屈そうにあくびをする男性が、ふと隣を見ると、そこにはキラキラとした少女のような瞳でスクリーンを見つめる彼女の笑顔が。
映画の主人公が悲しい目に合えば一緒に落ち込み、主人公の恋がかなえば一緒に喜ぶ素直な彼女の反応に、いつしか男性は釘付けに……。
「サウンド・オブ・ミュージック。それも入れといてくれ」現在に戻り、そう伝えると孫から、「それもう入ってるよ。おばあちゃんが一番好きな映画なんだって!」と言われ、照れて顔をそらす祖父。
祖父の思い出のヒロインは祖母だったのです。
このお話を考えついたとき、昭和の映画館の様子を知りたくて、祖父母に話を聞くことにしました。
祖父母は現在80代、当時は映画館のチケット代が今よりずっと安かったり、入館すればそれ以降1日中映画を観続けることができたり、そのせいで人気作は立ち見必至だったり。
現在の映画館の様子とはかなり異なっていて興味深かったです。(立ち見での映画鑑賞は、私も子供の頃、一度だけ経験しました。『もののけ姫』だったと思います。)
なにより、「あの映画も観た」「あの上映も一緒に行った」と質問者の私を忘れ、当時の思い出話に花が咲いてしまった祖父母。
話の要点までたどり着くのに相当時間がかかってしまいましたが、そんな二人を見ることができ嬉しい時間となりました。