連載
#258 #withyou ~きみとともに~
「何もしなくてもいい」子どもの〝居場所〟 学生運営の駄菓子屋さん
様々な背景のある子どものために、新たな取り組みを始める。
何かしてもいいし、何もしなくてもいい――。地域に開かれた子どもたち向けの「居場所」が都内の商店街にあります。学生ボランティアが運営するスペースでは、今後、「本」を通じて子どもたちにアプローチしたいとも考えているそうです。どんな「居場所」なのか? 訪ねてみました。
民間の学童保育を展開するNPO法人「Chance For All(CFA)」(代表・中山勇魚)の学生ボランティアが運営するお店です。
梅ミンツ、ビスコ、ビッグカツ、ポテトスナック――。駄菓子屋の店先にはなじみのある商品が並びます。10円で買えるものや、あたりつきのお菓子を大量に買っていく子の姿もあり、ギリギリ昭和生まれの記者にとっても懐かしい思い出がよみがえります。
そんなirodoriの奥にフリースペースがあります。
漫画やカードゲームやパズルが置いてあり、買ったお菓子を食べるもよし、学生スタッフと話すもよし。自由に過ごせる空間となっています。
2021年に始まった「irodori」は子どもの居場所づくりの活動の一つで、50人ほどの大学生スタッフが中心となって運営しています。
母体となっているCFAが「すべての子どもたちに豊かな放課後を」と理念を掲げて事業を展開していることもあり、irodoriは地域に開かれた場となっています。
10月のある日、午後3時ごろに店を訪れると、常連の小学校低学年の男の子がすでに来店していました。
学生ボランティアの増山遊斗(ましやま・ゆと)さんと仲の良い様子で会話をしつつも、少し言葉遣いは乱暴。記者が「何年生?」と聞くと、「優等生」。記者にユーモアを見せつつも、増山さんからは離れず、心を許している様子が伝わってきます。男の子は、「新しい店があるなあと思って」と、1年ほど前から毎日足繁く通っているのだそう。
「なにをしてもいいし、何もしなくてもいい」
そんな場所として、2022年3月末時点でのべ1万人を超える利用者が訪れています。
さらにこのフリースペースに、増山さんは本を置くスペースをつくりたいと考えています。
数年前から、irodoriのスタッフとして地域の子どもたちとふれあってきた増山さん。家族の不和から学生ボランティアに感情をぶつける子や、万引きをしてしまう子など、様々な背景を感じさせる子どもたちとも接してきました。
「事情を抱えた子どもたちは、周りに相談できる人がいなかったり、いまの環境から逃げ出しにくかったりします」と話します。
その解決のきっかけとして、なぜ「本」なのか――。
増山さんは「本はそこにあれば誰でもアクセスでき、読むことさえできれば悩みの一助になり得る一方で、厳しい環境にある子どもたちは手を伸ばさないのではないか」と考えたそうです。
そのため、本のスペースを「感情図書館」と名づけ、手に取るきっかけとして、読むときの「感情」を掲示して展示したいと考えています。
具体的には、「将来の夢を見つけたいとき」「リーダーに選ばれたけどどうすればいいかわからないとき」といった、子どもの「欲求」にあわせて「○○したい」を想定し、それにあわせた本を提案したいということです。
「『感情』というフックを作ることで、そのハードルを下げたい」と考えています。
増山さんたちは、「感情図書館」の運営のためのクラウドファンディングを12月中に実施する予定です。つながりのある司書や子どもたちの意見を採り入れながら、2月に予定している本格オープン後も試行錯誤を積み重ねていきたいといいます。
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withnewsでは、現在進行形で様々な意見を採り入れながら、子どもたちの悩みに寄り添おうと奮闘する「感情図書館」の取り組みを不定期で発信する予定です。
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