ネットの話題
「鮭が1匹もおりません!」 博物館が異例のお知らせの理由
「只今、鮭が1匹もおりません!」――。新潟県村上市にあるサケの博物館「イヨボヤ会館」のお知らせがSNSで話題になっています。同館ではこの時期、産卵のために川を遡上してきたサケを捕獲して館内の水槽で展示していますが、記録的な不漁により0匹になってしまったとのこと。異常気象が原因とみられるこの不漁、来年以降も影響が残るかもしれないそうです。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮)
イヨボヤ会館はサケが遡上する三面川(みおもてがわ)のほとりにある博物館で、村上市のサケ漁の歴史や文化を学んだり、三面川に住む生き物を観察したりすることができます。
会館の名前になっている「イヨボヤ」とは、村上地方の方言でサケのことだそうです。
会館には大きな水槽もあり、通常であればこの時期、遡上してきたサケ60匹ほどが展示され、来館者はサケを間近で観察することができます。
サケの飼育展示を担当している小川昂志さんは「川で捕獲されたサケは水槽の中でつがいを作り、産卵を終えると死んでしまいます。そのため、10月〜12月の展示期間中、サケを随時搬入し続ける必要があるのです」と話します。
ところが、今年は三面川を遡上するサケが極端に少なく、サケの搬入が追いつかない状態になっているそうです。同館のホームページにお知らせを出した11月12日時点で、水槽のサケは0匹になっていました。
「その後、なんとか追加のサケが搬入されたのですが、小さな個体が5匹だけ。このサケたちも卵を産めば死んでしまうので、このままではまた水槽が空になってしまう可能性があります」
「1987年の開館以来、こんな事態は聞いたことがありません。異常事態と言っていいと思います」と小川さんは話します。
なぜこんなことになってしまったのでしょうか。
「サケたちは海水温が下がったタイミングで川への遡上を始めるのですが、今年は記録的な酷暑のせいで日本海側の海水温が例年になく高くなっているそうです。おそらく、それがサケたちの遡上に影響を与えていると思われます」
イヨボヤ会館への搬入はもちろん、川でのサケ漁にも全国で深刻な影響が出ているそうです。
小川さんは「遡上してきたサケが産んだ卵を育て、稚魚を放流する『栽培漁業』が全国で行われています。このまま十分なサケが取れないと、来年以降のサケの漁獲にも悪影響が出る可能性があるのです」と危惧しています。
「なんで今年はサケがいないの?」「こんなことってあるんだね」
来館者からも、これまでにない事態に驚いたり心配したりする声が寄せられたそうです。
小川さんは今回のサケ不足を、自然環境について「考える材料」にして欲しいと考えています。
イヨボヤ会館は地元の小中学生の定番の社会科見学スポットにもなっています。
小川さんは訪れた子どもたちに、サケの生態などと合わせて、今回の事態について解説しているそうです。
「温暖化が進んで異常気象が増えると、こういうことが起きるんだ、私たちの食卓にも通じる身近な問題なんだということを考えるきっかけにしてくれたらいいなと思っています」
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