連載
#252 #withyou ~きみとともに~
熱中したサッカーが父の機嫌を左右して… 打ち明けられなかった体験
「居場所」と福祉支援へ、大学生の挑戦
青春時代を費やしたサッカーは、いつしか精神疾患のある父親の機嫌を左右するものに――。「親を悪者にしたいわけではない」と話すかつてのサッカー少年が選んだのは、自分と同じ状況にある「子」を支援する道でした。
大学4年生(現在休学中)で、静岡県出身の平井登威(ひらい・とおい)さんは、子どもの頃から地元のサッカーチームに所属し、高校でもサッカーに熱中していました。「小学校の頃、東海地方の3位になったり、同級生にはプロになった友人もいます」
週6回ほど練習に参加するなど、多くの時間を費やしていました。
平井さんにとってのサッカーは、夢中になれるものであり、厳しい家庭環境から離れられる「支え」でもありました。
平井さんの父親は、平井さんが幼稚園生の頃からうつ病を患っていました。
父親の気持ちが不安定な家庭環境の中で、父親からの心理的・身体的にしんどい状況が日常的にあったといいます。
「『それ、親が言うことじゃないだろう』と思うようなことを言われたこともありますが、記憶を消してしまっているところがあるのか、はっきり覚えていることは少ないです」
自分や家族の命の危険を感じたことも。そんな家庭環境の中、サッカーをしている時間は、体を動かすことで気持ちを発散でき、「好きなことをやっている時間」が支えになっていたといいます。
ところが、徐々に父親が、サッカーをする平井さんに干渉するようになってきたといいます。
練習の送迎は必ず父親が担い、フェンス越しに活動を見ていましたが、練習後には平井さんのプレーを責められ、帰りの車の運転が荒くなるようなこともあったそうです。
「僕のプレー次第で気持ちが上下するので、練習終わりはつらかった」
そんな家族のことを初めて打ち明けられるようになったのは大学生になってからでした。
話せた相手は、自身のバックグラウンドと共通する点がある友人。平井さんは当時の心境について、ブログサービスに「心がスッキリした。楽になった。共感できることの素晴らしさを知った」と綴っています。
平井さんは、親に精神疾患がある子どもが、家族のことや自分の気持ちを打ち明けるためには、「『自覚』と『助けて』と言う勇気が前提として必要になる」と話します。
平井さん自身、小学6年生の頃から、父親の様子やそれに伴う家庭環境が「他の家と違うんだな」と気づいてはいました。「ただ、当事者が自分の周りで起きていることを自覚し言語化することはそもそもとても難しい」と指摘します。
それに加え、周囲に困難な状況を打ち明けにくくする要因としてもう一つ挙げるのが「偏見」です。
平井さんが語ってくれたのは、中学生のときのエピソード。当時、学校でうつ病になった先生がいましたが、友人は「あいつ、うつだって」と、否定的なトーンで話していたといいます。
「精神疾患に対する偏見を感じ、親を悪者にされたくないという気持ちも生まれた」と振り返ります。
平井さんは大学1年生だった2020年、精神疾患のある親を持つ子どもの思いを聞き合えるような居場所を、友人とともにオンライン上に作りました。
友人は、最初に自分の経験を語った相手でもあります。それがNPO法人CoCoTELIの土台となり、現在、平井さんはCoCoTELIの代表を務めています。
CoCoTELIでは、精神疾患のある親を持つ25歳以下を対象に、オンラインで月4回の交流会を開催したり、メッセージングアプリslackなどを活用して、思いをはき出せる場をつくったりしています。
現在、この交流の場には、岩手から鹿児島まで全国40人ほどが参加しています。
活動を続ける中で、平井さんへ直接、相談も寄せられるようになり個別相談も始めました。その相談の中には、ただ悩みを聞いてスッキリしてもらうだけでは不十分で、福祉的な支援につながる必要を感じるケースもあったといいます。
「居場所という機能がメインの活動で、話しやすさを感じて来てくれている人が多いので、だからこそ聞き出せる話もあります。一方で、福祉的支援につながってほしいケースもあります」
その課題感を解決するため、オンラインでの居場所機能を強化させると同時に、福祉的支援につなげるためのシステムの構築・より本質的な課題解決に取り組んでいくため、CoCoTELIはこの夏、クラウドファンディングに挑戦しています。
平井さんはCoCoTELIでの活動を通して、虐待や貧困など、トラブルが表面化する前から、「居場所作り」を含めての支援を目指したいと話します。
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