「特別じゃない日」をテーマにした単行本が発売された漫画家・稲空穂さん。ツイッターで発表して注目を集めた漫画「映画鑑賞」に込めた思いを聞きました。
女児向けアニメ映画に姪っ子を連れていくことになった独身青年。座席につくと想像以上に騒がしい子どもたちに驚き、うんざりした表情。
姪っ子はキラキラした瞳で「おじちゃん、応援がんばろうね!」とアニメキャラクターを光で応援するアイテムのライトを握って話しかけます。
「……大人は応援できないんだよ」
「どうして?」
「大人は騒がないもんだから」
「さわがないの?」
「大体、人の応援する余裕もないんだよ。こっちが応援してほしいくらいなんだから」
青年は仕事のことを思い出し、暗い表情で応えます。
映画が始まり、キャラクターを応援するシーンになると姪っ子は「キューティーがんばれ!」とライトを振って必死に応援。そして青年のほうを振り向き、「おじちゃんもがんばれー! 元気でろー!」と、青年の応援を始めたのです。
青年は恥ずかしさと子どもの純粋さに「わかった、一緒に応援するから、やめろ」と頭を抱えるのでした。
私の映画館の記憶で一番古いものは、祖父と観にいった「学校の怪談」です。確か小学校低学年の時だったと思います。
当時学校の図書館で借りることのできる児童書版「学校の怪談」シリーズがとても好きで、そういったテーマに興味など微塵もない祖父に無理を言って連れていってもらった記憶があります。
結果、怖いシーンで叫ぶわめく。近くの席の方(もしかしたら遠くの席の方も?)にとても迷惑をかけてしまいました。
「周りの人たちはどうして静かに観ていられるのだろう!?」と、祖父にしがみつきながら、後半はずっと目を瞑っておりました。
色々な価値観の人たちが一つの同じ作品を鑑賞する、映画館でしか味わえなかったあの時の恐怖体験は今でも思い出として私に刻まれています。