MENU CLOSE

ネットの話題

車いす〝だから〟かっこいい服 パリのランウェイで披露した理由は…

「福祉業界のオシャレ番長」の平林景さん

昨年秋にパリで披露したNextUDの「ワンピース」の着方を実演するモデル。身につけると……。
昨年秋にパリで披露したNextUDの「ワンピース」の着方を実演するモデル。身につけると……。 出典: 「日本障がい者ファッション協会(JPFA)」提供

目次

「車いすだけどかっこいい」じゃなくて「車いすだからかっこいい」という服が作りたい――。そう力を込める、福祉業界のオシャレ番長・平林景さん(45)。昨年秋、最先端のファッションが集うパリコレウィークのなか、パリでファッションショーを開き、「NextUD(ネクスト・ユニバーサルデザイン)」の服を身にまとった車いすのモデルたちがランウェイに登場しました。平林さんは「おしゃれの制限がない世界に続く扉が、少しだけ開いた」と振り返ります。(朝日新聞デジタル企画報道部・高室杏子)

【PR】デフリンピックへ向け「おもてなし」のコミュニケーション学ぶ

NextUDの考え方で服をデザイン

「もし、この社会の大多数の人が車いすに乗る人なら、どんな服が流行るでしょう?」。昨年9月、フランス・パリで「日本障がい者ファッション協会(JPFA)」が主催したファッションショー。開幕のあいさつで、JPFA代表理事・平林景さんは観客に問いかけました。

ショーはJPFAの本拠地である大阪府や茨木市など自治体と義肢メーカーも後援しました。「NextUDを最初に披露するのは最先端のファッション都市・パリにしたかった」と2019年のJPFA発足時からの悲願でした。

パリコレウィークでの「Wheelchair Fashion Row」のはじまりでスピーチをする平林さん
パリコレウィークでの「Wheelchair Fashion Row」のはじまりでスピーチをする平林さん 出典:JPFA提供

たとえば腕や手に麻痺のある人は、上着やシャツに袖を通すことが難しいこともあります。平林さんは「障害のある人にとって衣服の機能性はとても重要だが、『かっこよさ』は置いてけぼりになっている」と訴えます。

「障害のある人がオシャレを諦めてしまうことにつながっている」

「NextUDのファッションが世界に広まって、障害の有無に関わらずオシャレを楽しんでほしい。その試みの扉は今まさに目の前にある。一緒に開きましょう!It’s show time!」

「次のユニバーサルデザイン」とは

NextUDとは、平林さんたちが服を作る時にいかしている考え方です。

1980年代にアメリカの建築家が提唱した「ユニバーサルデザイン(UD)」は「バリアフリー」とは異なり、「使う人を障害の有無、年齢、性別、人種などによって限定せずに利用しやすいように生活環境などをデザインする」という考え方です。

平林さんたちJPFAのメンバーは、UDが「日本ではあまり普及していない」「障害のある人など社会的少数者のためのものだと誤解されがちではないか」と考え、UDに次ぐ、「NextUD」を提案しました。

NextUDの考え方をまとめた図
NextUDの考え方をまとめた図 出典:JPFA提供、「パリコレへの挑戦から学ぶ次世代のユニバーサルデザイン」 小川修史, 平林景, 谷口藍, 山根寿豊 教育システム情報学会誌Vol.40,No.1,pp.20-27 40(1) 20-27 2023年1月

これまでのUDにあった「利用可能かどうか」と「使い方が分かりやすいかどうか」の視点に加え、「幸福感/満足感が得られるかどうか」も重視しています。

車いすユーザーのモデルたちが登場

ショーが始まり、ランウェイに登場したのは車いすに乗ったモデルたち。ゆったりと裾の広がったロングスカートの膝部分と足元部分に、左右6カ所ずつ付けた金具で丈が調節でき、そのドレープが目を引きます。

袖口や裾の丈を調節できるスカート。パリでは1着目に披露した
袖口や裾の丈を調節できるスカート。パリでは1着目に披露した 出典:JPFA提供

また、パンツスタイルの服をまとったモデルもランウェイに登場。遠くから見ると細身のスキニーパンツですが、左右1本ずつファスナーが取り付けられ、ワンポイントになっています。このファスナーを開いた状態で車いすに敷き、上に座ってファスナーを引き上げて閉じると履けるデザインです。

頭を通して脇部分をベルトで締めるシャツとスキニーパンツを着用したモデル
頭を通して脇部分をベルトで締めるシャツとスキニーパンツを着用したモデル 出典:JPFA提供

京友禅を使った「ワンピース」も披露されました。タンクトップと体の正面側と腰回りから足元を覆える布を組み合わせるようにして着ます。布を体の正面側に被せるようにして、肩の金具に布を取り付けて着るため、座ったままでも脱ぎ着ができます。薄藤色の布地に青色・紫色でクジャクの羽根があしらわれており、とても優雅なデザインです。

京友禅の「ワンピース」
京友禅の「ワンピース」 出典:JPFA提供

金具やファスナーの機能性を活かしつつ、「目を引くデザインかどうか」にもこだわった服たち。10着を披露したモデルたちは、普段から車いすを使う人も使わない人も参加しています。車いすに座ったモデルと後ろから車いすを押して歩くモデルが同じ服を着ることで、座っている姿と立っている姿を同時に披露した服もありました。

JPFAが2022年秋のパリファッションウィークで開催したファッションショーWFR (Wheelchair Fashion Row Paris Fashion Week Spring-Summer 2023 Project ) 出典: JPFAのYouTubeチャンネル

平林さんがパリの施設やファッション業界の関係者に聞いたところ、「パリのランウェイで車いすユーザーのモデルが服を披露したことはこれまでなかった」そうです。

平林さんがNextUDの考え方で服を作るようになったのは、車いすユーザーからのニーズがあったからだけではありません。

「より多くの人に知ってもらうには、まずは『ファッション』に取り入れたい」と考えたからだそうです。

服作りの過程では、車いすユーザーを対象にインタビュー調査も実施しました。
「ジャケットやコートを着ると丈が余って着心地が悪くなる」
「下半身の血行が立っているときよりも悪くなるので寒さ対策もできるものがほしい」
「車いすの車輪に巻き込まれて汚しそうで白い服やレースの服は着づらい」
「着太りしづらい服を選びたい」

そんな声が寄せられました。

パリで披露した服は、これまでの服の着づらさを解消しつつ、以前より洗練されたデザインを採り入れた服になっています。

「障害者を利用している」後ろ向きな反応に

平林さんは、座ったままはける巻きスカート「bottom’all(ボトモール)」をはじめ、「NextUDファッション」をまとった姿もSNSなどで発信しています。

好意的な反応が多いものの、「障害者を利用して目立とうとしている」「偽善だ」といった否定的な言葉も寄せられるといいます。

そんな言葉に、平林さんは「反応があることがありがたい」と話します。

「障害のある当事者と、互いに話をすることは取り組みに不可欠です。でも、話によって得たことをファッションにいかして、着たり、着てもらったり、行動して、それを発信して、誰かに知ってもらわなければ何も始まらない。無関心な状態をちょっとでも打開できているんじゃないかな」

9月開催、ファッションショーにかける思い

JPFAは、9月29日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれる福祉機器の展示会「H.C.R.2023 国際福祉機器展&フォーラム」で、パリに続いて2回目のファッションショーの準備を進めています。

平林さんはパリから帰国後の昨年秋に、「『おしゃれの制限が取り払われた世界』。そこへ続く扉が、少しだけ開いたような気がしました」と話しました。

世界の舞台での手応えは「少しだけ」だったとも振り返ります。もう少し反響があるという期待もありましたが、「かえって『これからだ』と思えます」と今後の可能性に力を込めます。

今年秋のショーは国内では初めての開催になり、披露するファッションもまた新しいものです。「お客さんが今まで見たことがないような服を見せたいです。素材も、着方も、見た目も。そして、見た人がそれぞれ何かを考えるきっかけになることを目指したいです」と意気込んでいます。

ショーの観覧には事前にH.C.R.の来場予約が必要で、予約は8月下旬から受け付けを開始します。

取材後記

平林さんのことを知ったのは約3年前。平林さんのツイッターの1件の投稿がきっかけでした。義手を身につけて、カメラを見据えるポーズ。足元はひらりとしたドレープが美しく流れるスカート。「なぜこんな風に自撮りを発信しているんだろう、そしてどれもかっこいい」と感じました。

昨年夏、都内の飲食店で偶然姿を見かけて声をかけたのが取材のはじまりでした。アシンメトリーのパーマヘアに、黒いスカート姿。足元はつま先がとがった黒いブーツ。きりっとした形に整えられた眉にも銀色のラメが散っていて目を引かれました。聞けば「パリでのファッションショーの準備中で……」と。

漠然と「車いすユーザー『でも』おしゃれ」を目指しているのかと感じていましたが、平林さんは「そんな上から目線なことがしたいわけじゃない」と言います。パリでのショーでは「車いすユーザー『だから』おしゃれ」を目指していました。

バリアフリーでは「障害がある人『にも』おしゃれができるように」と考えられていたと思いますが、平林さんが目指すのは、「『車いすに座った姿勢だから』『障害があるから』おしゃれだと満足して着られるように」という服なのだと、それがパリで披露したNextUDなんだと分かりました。

平林さんへの取材を通して、障害や病気がない、年齢や戸籍の性別で困ったことがないといった「多数派」の考え方で作られているものやサービスはあちこちにあると改めて考えるようになりました。「多数派」前提の考え方は、自分のなかにも根づいていると思います。そしてそれは、自分が気づかないうちにだれかの行動に制限をかけたり、負担を強いたりすることにもつながる、とも。平林さんたちが提案する「NextUD」がこれからどう世の中に浸透していくのか見続け、また、その視点は自身の中にも備えていきたいです。

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます