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スカート姿に「男やのに恥ずかしくないんか」 オシャレ番長の本音は
ひらりとしたスカートを身にまとい、ヒールをはいて凜と立つ。障害の有無にかかわらずすべての人にファッションを楽しんでほしいと、〝福祉業界のオシャレ番長〟としてSNSで発信している平林景さん(45)。スカートをはく姿には、「男やのに恥ずかしくないんか?」といったネガティブな声がかかることもあるといいます。そんな時、平林さんが起こすアクションとは――。(朝日新聞デジタル企画報道部・高室杏子)
「男やのにスカートはいて恥ずかしくないんか?」
今年5月、仕事の打ち合わせの席で、年上の男性からそう言われた平林さん。
身につけていたのは黒いミモレ丈のスカートでした。不規則な形をした裾(イレギュラーヘム)と、ひざのあたりで釣った布のドレープが優雅で目をひきます。
平林さんは「そっかー、そうなんですね。僕はかっこいいと思ってはいてて」と、その場はにこやかに応じたといいます。
議論も衝突もせず、「その場は流した」と振り返りますが、内心では「これは後でつぶやこう」と決めていたそうです。
投げかけられた台詞と、自身の装いと本音をツイッターに投稿します。
「その剥き出しで乱暴な言葉を本人にぶつける事の方が僕的には恥ずかしいんですけれど、この感覚値の違いはジェネレーションギャップってやつ…?なのか」
最近は罵られる事も減ってたけど、先日とある会合で、
「男やのにスカート穿いてて恥ずかしくないんか?」と、ご年配の方から言われたんですけど…
その剥き出しで乱暴な言葉を本人にぶつける事の方が僕的には恥ずかしいんですけれど、この感覚値の違いはジェネレーションギャップってやつ…?なのか。 pic.twitter.com/c2Hlafk52H
— 平林 景@福祉業界のオシャレ番長 (@KeiHirabayashi) May 3, 2023
平林さんは、3年前から、自身のコーデ写真や、それに対する反応などをつぶやいてきました。
アカウント名は「平林 景@福祉業界のオシャレ番長」。
身体の障害の有無にかかわらず脱ぎ着ができる「おしゃれでかっこいい」ファッションの選択肢を伝えたくて始めました。「『車いすでもかっこいい』じゃなくて『車いすだからかっこいい』を目指しています。『障害』に対して後ろ向きなイメージをひっくり返したい」と話しています。
続けるうちに、「ファッションにも『壁』というか『境』みたいなものがある」と感じるようになったといいます。
打ち合わせで投げかけられた男性の言葉にも「壁を感じた」と振り返ります。
「その『境』や『壁』みたいなものの延長線に『障害』があるんだと思います。人に障害があるんじゃなくて社会にある。それをシェアすることで、誰かの行動が変わって、積もり積もって社会や世界が変わっていったらいい」と考え、日々投稿を続けているそうです。
「目の前の一人の乱暴な言葉にすぐさま自分の思いをぶつけて消耗するより、多くの人にシェアして、そのうちの1割でも自身のことばや提案に共感してくれた方が、社会に『効いている』という気がします」
「男がスカートなんて気持ち悪い」って古いジェンダー論からくる偏見が、世の中にはまだ残ってるけど、以前ある方から「世の中の常識を変えるなら、世の中の全員じゃなくて1%の人を味方につければ十分だよ」と言われた。日本のTwitter人口で約5千万人いるらしいから50万人…確かに!って思った件 pic.twitter.com/RitswHOj8m
— 平林 景@福祉業界のオシャレ番長 (@KeiHirabayashi) February 18, 2023
先日、初めてマツエクを体験。めっちゃ眼力がUP⤴したから、色んな方に見てもらったら、その内のお一人から
「女性になりたいんだ、としか思えないんだけど」って言われたんですけど…
メイク然り、スカート然り、マツエクもただ単に、自分が『カッコいいな』と思うことをやっているだけなんですハイ。 pic.twitter.com/VJtFmYyCE6
— 平林 景@福祉業界のオシャレ番長 (@KeiHirabayashi) April 20, 2023
平林さんは物心ついた頃から「かっこいい」ファッションを追究してきました。
美容師の道に進み、「おしゃれ」や「ファッション」で誰かが魅力的に変わって、笑顔を見せる様子が好きだと話します。
しかし、20代半ばで持病のアトピーが悪化し、はさみを持てなくなりました。美容師の道を諦め、美容師を育てる専門学校の教員になりました。
福祉に関わり始めたのは、周囲に障害がある人がいたことと自身にも発達障害の傾向があることを知ったことがきっかけでした。勤めていた学校を運営する法人に「子どもたちの特性を活かせる居場所」づくりを提案し、施設ができた2014年から本格的に療育の仕事に携わり始めました。
それまでは正直なところ、「福祉なんてダサいと思っていた」という平林さんですが、「障害のあるなしで『おしゃれ』が制限されていること」に気づいたといいます。
車いすユーザーからは「試着室に入れない」「一人でズボンやスカートをはけない」、手足にまひがある人からは「足首を覆うブーツがはけない」「袖を通しにくいからジャケットが着られない」「介助してもらうことが申し訳なくておしゃれを楽しめない」……。
「市販の服は、ひとりで着られることが前提になって作られている。そこで障害者はあまり想定されていない」と思いました。
障害の有無にかかわらず誰でも簡単に身につけられる、そしてデザイン性の高い「おしゃれ」な服の選択肢がとても少ないことにハッとしたそうです。
2019年に障害者福祉に関わる人や大学の研究者といった同じ志を持つ人たちと「日本障がい者ファッション協会(JPFA)」を発足しました。
日々、障害のある人から「一人だと市販のボトムスははきにくい」などといったおしゃれの障壁になっている事情を聞いて、大学の学生も巻き込んでデザインを考案。作ったものを身につけてもらい、着心地や見た目の感想を聞きながら、改良を重ねます。
その繰り返しで、誰もが着られる・楽しめるおしゃれなファッションを形にしてきました。ひらりとした裾が優雅なスカート「bottom’all(ボトモール)」は、「ボトムス(bottoms)」と「オール(all)」を組み合わせた名前。前開きができる巻きスカートで、寝たり、座っていたりする状態でも脱ぎ着ができます。座っている状態で映えるように丈も前の方が長めです。
足に麻痺がある車いすユーザーからの「ブーツはすごくはきにくい」という声には、柔らかい合皮でブーツをつくり、足首から上の部分を縦に6カ所裂いてファスナーを取り付けました。ファスナーを開くと花のように広がり、2、3カ所を開くだけでも足を入れやすくなります。
スカートを履いている自身の写真を投稿することが多く、「ジェンダーレスファッションの人と認識されることも多い」と平林さん。
しかし、「提案しているのはジェンダーレスじゃない。そこを含めた『ボーダーレス』なファッションなんです」と力を込めます。
「境」の例に挙げたのは、男女、障害の有無、生まれ育った国、そして年齢……。
「ある属性があるから『これは着ない』『着ちゃいけない』なんてことはない。なりたい自分の姿になるのが『ファッション』なんだと提案したい」と話します。
※後編の記事では、平林さんの福祉業界のオシャレ番長としてパリコレの舞台でこれまでチームで手がけてきたファッションを披露した様子、服に込めた「ネクストUD」の精神、9月に開催される国内初のファッションショーに向けた展望などを紹介します。
平林景さんのツイッターアカウント:@KeiHirabayashi(https://twitter.com/KeiHirabayashi)
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