ネットの話題
「体型に言及しないで」褒めたつもりでも…摂食障害に悩む当事者の声
日本摂食障害協会 学生部メンバーが感じること
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日本摂食障害協会 学生部メンバーが感じること
加工した自分の写真に慣れていて、ふと鏡を見たときに「あれ? かわいくないな」と思ってしまった――。ふつうに食べられなくなる摂食障害に悩んだ学生たちが、日本摂食障害協会の学生部としてSNSで情報を発信するなど活動しています。ダイエット情報にあふれるSNSとの向き合い方や、メディアの情報に求めることを聞きました。(withnews編集部・水野梓)
協会の学生部のメンバーは、今悩んでいる人たちに根拠のある情報を届けたいと、インスタグラムアカウントを開設し、「摂食障害のよくある誤解」をときほぐす投稿をしたり、インスタライブを開催したりしています。
メンバーたちは、SNSやメディアの情報とどう向き合っているのでしょうか。
都内に住む大学生の女性(23)は「注目が集まり、PVが多いのだと思いますが、有名人の体型やダイエット情報にフォーカスするような記事はやめてほしい」と指摘します。
現在は落ち着いているものの、高校生の頃から摂食障害に悩んでいたという女性。チアダンス競技部で活動していましたが、スタンドの応援席で気づかないうちに写真を撮られ、大きくメディアに掲載されたことがあったといいます。
食事を制限する拒食症から、一気に食べ過ぎてしまう過食に悩んでいたころ。自分のからだが多くの人に見られることも、写真を見た人がSNSで自分の体型に言及していることもつらかったといいます。
TikTokにはからだが細く見えるフィルターがかかるなど、ネット上の動画・写真には加工されたものが多くあります。
女性自身も摂食障害に悩んでいた頃は、よくアプリ「スナップチャット」で写真を撮って加工していましたが、ふと鏡でリアルの自分の顔を見たときに「え? 自分ってこんな顔だったっけ…かわいくない」と思ってしまったそうです。
「自分に『認知のバイアスがかかっているかも』と感じた経験でした。心の健康状態も、そのバイアスに影響しているのかな、って思います。ネガティブな心の時は、自分の顔が不細工に見えたり自分が太っているように感じたりしてしまうのかもしれません」
中学生の頃から摂食障害に悩んでいた愛媛に住む女性(22)は、「誰かの体型を『太っている』と言う・からかうことはもちろんですが、『細いことを賛美する風潮』もなくなってほしい」と訴えます。
女性は症状がひどかった頃は、友人が「あの人、スタイルいいね」と褒めたときに、「自分はどうだろう、太ってしまったから……」「あの子よりもやせないと」などと自分のことに置き換えて考えてしまっていたそうです。
海外ではやせすぎモデルを使わない、加工した写真にはその注意書きを示すといったルールもあります。
「メディアが『やせ』を褒めたり、人の体型に言及したりすることで、その情報にふれている人が摂食障害につながるリスクを知ってほしい」と指摘します。
摂食障害になってしまう人を減らすには、何が必要なのでしょうか。
大学で心理学を学ぶ女性(22)は、「予防はとても大切だけれど、対策の効果が数値で見えづらくて、国や大きなところが動きづらい面がある」と指摘します。
「でも、SNSは若い人たちがダイエットの誤った情報にふれることが多いところです。日本摂食障害協会のアカウントもそうですが、ちゃんとした情報を出していくことは大事だと思います」と話します。
ほかにも、ストレスによって摂食障害になったり症状が悪化したりする一面があることから、学生たちが「ストレスコーピング(ストレスにうまく対処する方法)」を学べる場をつくる、当事者でグループワークをするといった方法も有効ではないかと提案します。
「気軽に悩みを言える居場所があるといいですよね。思春期には、深刻にしたくなくて、友人たちにもなかなか本音を言えない、自分の悩みを打ち明けられない……ということもあると思います」
女性も、ツイッターにネガティブな思いを書くだけで、ため込んでいたといいます。
「それがたまった結果、大学生のときに爆発して摂食障害になりました。家族でも友達でもない、でも安心できる『居場所』があれば、子どものメンタルヘルスを守り、支えることにつながるのではないでしょうか」
管理栄養士の養成課程で学んでいる女性(20)は、公衆衛生などを学ぶなかで、「『やせ礼賛』は『社会に広まってしまった暗黙の了解』という気がします。それがなかなかなくせないので、摂食障害の予防は難しい」と感じているそうです。
「授業で実施するアンケートで、『自身の体型をどう思いますか?』という質問に、周りのみんなも『自分は太っている』と答えていました。やっぱり、みんな『やせたい』って思っているんだなと感じました」
だからこそ、現実的な対策として、「摂食障害になってまだ症状が軽いとき、摂食障害になりかけているときに、気軽に相談できる・アクセスできる医療機関を増やしていくことが大切だと思います」と話します。
しかし、摂食障害を専門的に治療するクリニックや医療者に出会うことは難しいのが現状です。
都内の大学に通っているときに摂食障害になった石川在住の女性は、「摂食障害を診てくれる専門クリニックは都心にしかなくて、都内に住んでいてもなかなか受診できなかった」と振り返ります。
愛媛に住む女性は「地方では、なかなか摂食障害をちゃんと診てくれるお医者さんに出会えないんです」と振り返ります。
入院を経験するなどあちこちの病院・クリニックを受診しましたが、最終的には都内で摂食障害を専門的に診療している医師を受診し、6年かかって回復に向かっていきました。
「8割方回復している」とお墨付きをもらったものの、小学校教員を目指すなかで、「教育実習で給食を食べること」がどうしても不安だったといいます。
しかし、いざ実習が始まると、充実していて忙しく、給食に不安を感じる隙もなかったといいます。
「やせ願望って、落ち込んだり何かに不安があると強く感じるのかなって思いました。大事なことや楽しいこと、打ち込めることが増えたら、病気や体型について悩む比重が下がっていって、生活や人生が充実していくんだと思います」
「今回、教育実習を乗り越えたことで、病気に逃げなくても進んでいけるって思えました」と話す女性。
「病気ではない自分の面に目を向けてみてもいいのではないでしょうか」と、悩んでいる人に向けた思いを語ってくれました。
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