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性教育いつから始める?実は「人権」の話だった…漫画家が驚いたこと
子育てを描くツルリンゴスターさん

性教育は、生理や妊娠・出産を教えるだけではない――。日常エッセイ漫画のほか、創作で性教育をテーマにした漫画も連載している漫画家のツルリンゴスターさんは、改めて性教育を学んで、とても驚いたことがあったと話します。子育てで大切にしていることも聞きました。(withnews編集部・水野梓)
明るい出来事ばかりじゃない子育て
コミックエッセイが好きで、長男が生まれた頃に読んでいて元気をもらっていたんです。
美大出身なので「自分も描いてみよう」と思ったのと、子育てをしていると1日がすっごく早くって。心に残ったものを備忘録として描いておこう、家族や親戚に「こんな感じだよ」と伝えようというつもりでブログにアップしていました。

エッセイ漫画はできるだけ明るい内容の出来事を選んで発表していたので、書籍の「あとがき」には「そんな日ばっかりじゃない」ということを書きました。
「等身大の日々を描いていて、無理せず一日一日を楽しんでいるように見える」と言ってもらえたのはうれしかったですね。
性教育は「人権教育が土台」
書店員をしていた母は、「性教育が大事」と言っていて『あかちゃんはこうしてできる』という絵本が自宅の棚にありました。
本では性行為もしっかり説明されていました。ちゃんと性教育を受けたのは、私が子どもの頃の時代だと珍しかったんじゃないかなと思います。
だから抵抗感がなかったし、母親とも悩んだら話せるという関係ができていました。
――改めて自分がお子さんに性教育をするとき、大変だと感じることはありますか?
自分が性教育をするとなると、すごく難しくって。
ウェブ記事の仕事がきっかけで、医師夫婦で性教育講師をしているアクロストンさん(https://acrosstone.jimdofree.com/)や、元保健室の先生のにじいろさん(https://twitter.com/beingiscare)に話を聞いて学んだんです。
これまで私は「性教育は生理や性行為、妊娠出産」だと思っていました。
でも、アクロストンさんのワークショップを漫画にする仕事をしたことがきっかけで、実は「人権教育が土台なんだ」と知ったんです。
本当に衝撃でしたし、これは絶対に必要なもので、生活そのものが性教育なんだと思いましたね。性教育への「道が開けた!」という感じでした。
たとえば、プライベートゾーンを教えたり、イヤだと感じたことを「イヤと言ってもいい」と伝えたりすることも性教育のひとつです。
にじいろさんのお話から大きく影響を受けたのは、「家庭の性教育はいつでも挽回できる。いつでも、今日から始めたっていい」「完璧はないから求めなくてもいい」というところです。

――「子どもと考える」は大切ですね。
たとえば子どもが小さい頃に街中で黒人の方を見かけて、つい大きな声で「身体が黒いね」と言ったとしたら。
親としては「そんなこと言ったらダメ!」と反応したくなってしまうんですけど、「そうか、知らなかったんだよね。見た目やルーツ、その人が変えられないところはお話に出しちゃダメなんだよ。次は変えていこう」と声をかけられるようになりました。
「ダメ」と言うと、子どもは「おかあちゃんに怒られて怖かった」と閉じてしまって、大事なことが伝わらなくなります。
その瞬間に、その言葉の問題をすべて説明することは難しいので、きっかけを見つけながら繰り返し伝えていくようにしています。

たとえ、そこで100点満点の対応ができなくても、子どもと一緒に考えて、次から挽回しようという気持ちにもなれています。
そして、子どもたちが学びたいときに学べるように、にじいろさんや性教育YouTuberのシオリーヌさんたちの本を、子どもたちの勉強机のまわりにそっと置いておくようにしています。
いつか関心を持って開いてくれたらいいなと思いますし、「親とはそういう話ができるんだよ」っていう入り口にしたいと思っています。
1対1で話せる時間は、集中して
子どもがあまり親と話さなくなって、「友達が一番」になりますよね(笑)。でも寂しさはなくて、成長してうれしいなという気持ちです。

そんな風に子どもが悩んだときにどう声をかけるか、それを試行錯誤していると思います。
とはいえ、子どもが3人いて共働きだと、それぞれの子どもと1対1で話せるタイミングや時間がすごく少ないんです。だから話せる時には集中して話そう、と心がけています。
そして「もし何かあったら『助けて』って言っていいからね。おかあちゃんに言えなかったら、おとうちゃんでもおばあちゃんでも先生でもいいから言ってね」とは伝えています。
一緒に観て、母の思いを伝える
うちの子どもも、YouTubeやゲームに大半の時間を費やしています。まったく心配じゃないとうそになります。
でも、私たちも子どもの頃にはゲームボーイをやったり漫画を読んだり……親は心配していたと思うんですよね。「そういう時代なんだろうな」と考えて、禁止はしていません。

自分が見ているコンテンツと、自分の言動との境界線をつくる練習にもなります。
一緒に観ながら、これは心配、イヤだなという気持ちを伝えて、見るものを決めるのは子どもに任せる。その繰り返しだと思います。子どもをコントロールしすぎないようにしたいな、と思っています。
親自身も「助けて」って言えるように
『いってらっしゃいのその後で』を読んだある方は「『既存の母親』というレッテルから外れたい、と感じている人にお勧め」と言ってくれました。
私もそうでしたが、出産後、自分自身のもともとの性質と、自分の持つ「母」のイメージとの差で戸惑う人が多いんだと思います。「いい母親」のイメージと比べて「私はできていない」と感じてしまう。

私もいち家族のいち母親なので、アドバイスのようなことは到底できませんが、こどもたちがどんなときも、「ひとりの人間として尊重される」ことを願い、目標にしています。
そして何より、親自身も「助けて」と我慢しすぎないで言えるといいなと思います。
3人目の妊娠中、子ども2人を預かってくれる行政サポートを調べたら、それまで知らなかったいくつかのサポートが見つかりました。自分の時間がとれなくてつらかった頃、夜中に仲のいい友人へLINEで鬱々とした思いを吐き出したこともあります。
必要なサポートにアクセスできる力をつけて、難しいこともあるけれど、誰かに頼れるように心をほぐす練習もしていけたら。
そして自分の時間が少しでもとれたら、自分の好きなものを大切にして、親が日々を楽しんでいる姿を子どもに見せてあげてほしいです。