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受験校選びに生活サポート…思春期の子育てに「教育する父親」が台頭

育休の取得率が増えるなど家庭と向き合う父親が当たり前になる中では、勉強を教えたり、スケジュール管理をしたり、しっかり子どもと向き合って伴走する「教育する父親」がいっそう増えるかもしれない。そんな見方もあります(画像はイメージです)
育休の取得率が増えるなど家庭と向き合う父親が当たり前になる中では、勉強を教えたり、スケジュール管理をしたり、しっかり子どもと向き合って伴走する「教育する父親」がいっそう増えるかもしれない。そんな見方もあります(画像はイメージです) 出典: Getty Images

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家庭と疎遠だった父親が、思春期の子どもに対し頭ごなしに接して対立してしまう――。思春期の父親と言えば、そんな姿を思い浮かべる人も多いでしょう。ただ、育休の取得率が増えるなど家庭と向き合う父親が当たり前になる中では、勉強を教えたり、スケジュール管理をしたり、しっかり子どもと向き合って伴走する「教育する父親」がいっそう増えるかもしれない。そんな見方もあります。

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「煙たがられる」父親

男性の育児休業取得率は、約14%。女性の8割には遠く及びませんが、10年前に1~2%台だったことを考えると前進と捉えることもできます。父親の子育てがより当たり前になっていくことで、思春期の子育てに何か変化はあるのか。関西大学教授の多賀太さん(ジェンダー学)に聞きました。

多賀 太(たが・ふとし)さん:専門は、ジェンダー学、教育社会学、家族社会学。20代の頃は、研究者をめざす傍らで、男性のあり方を問い直す「メンズリブ」運動にも関わってきた。仕事と家庭の両立に関する複数の意識調査のため、父親を中心に計50人超にインタビュー。その成果は「揺らぐサラリーマン生活 仕事と家庭のはざまで」(編著・ミネルヴァ書房)にもまとめられている。近著は「ジェンダーで読み解く男性の働き方・暮らし方」(時事通信社)。一児の父。

多賀太さん
多賀太さん 出典: 朝日新聞社

――思春期の父親は、煙たがられる存在として描かれることが印象的です。

小さい時の世話は母親に任せきり。それまで「ほったらかし」だったのに、思春期になって子どもに口出しをする。子どもは反発し、妻も不満を持つ。思春期の父親と言えば、そうした描かれ方が目立ったのかもしれません。

しかし、小さい時から子どもと濃密に関わってくれば、状況は変わるかもしれません。

明治、大正期の「教育する父親」

――近著「ジェンダーで読み解く男性の働き方・暮らし方」の中には、「教育する父親」という言葉がたびたび登場します。

「教育する父親」の存在自体は、今に始まったものではありません。多くの家族が家業を営んでいた時代には、仕事に必要な知識や技術を子どもに継承するのは主に父親の役割でした。

それが、明治期以降、近代教育制度が導入され、学歴を必要とする職業が増えてくると、父親に替わって学校の教師が子どもの教育の主な担い手になっていきます。

それでも、戦前までは、大多数の世帯は家業を営んでいましたし、少なくとも大正期までは、「新中間層」と呼ばれる当時の新興サラリーマン家庭でさえ、父親は比較的熱心に子どもの教育に関わっていました。

「ジェンダーで読み解く男性の働き方・暮らし方」(時事通信社)
「ジェンダーで読み解く男性の働き方・暮らし方」(時事通信社)

ビジネス雑誌にみる教育と父親

戦後になると、サラリーマン家庭が多数派となり、父親の役割は稼ぎ手へと特化していき、家庭での教育責任は母親に求められるようになりました。

ところが近年、父親に教育の役割を求める風潮が再び高まっているようです。しかもそれは、かつて父親に求められた「しつけ」の役割に限りません。

学歴はどう獲得するのか、グローバル化する社会の中で、子どもをどんな人材に育てるのがよいか――。そんな視点での特集が、「サラリーマン」向けのビジネス雑誌で組まれるようになりました。

特集が、「サラリーマン」向けのビジネス雑誌で組まれるようになりました(画像はイメージです)
特集が、「サラリーマン」向けのビジネス雑誌で組まれるようになりました(画像はイメージです) 出典: Getty Images

「下降への恐怖」

――近著の中では、「2000年前後から、子どもの学校選択や受験勉強の支援に関する記事や特集が目立つようになってきました」と指摘されています。多賀さんは、父親のインタビューも重ねていますが、では実際、教育する父親は何をしているのでしょうか。

例えば、「学校選択支援」です。受験校選びのために、子ども以上に詳しくなって調べた父親もいます。その中では、つきっきりで勉強を教える「受験勉強支援」もします。

「受験生活支援」もありました。塾への送り迎えが必要な場合もあります。専業主婦家庭であっても、子どもが複数いる場合は分業している例がありました。妻が塾用のお弁当づくりをしている間、夫は下の子の世話をしたり、バス停までの送り迎えに行ったり。いろいろなパターンがありました。


――教育する父親は、なぜ教育に関心が向くのでしょうか。

インタビューを重ねて分かったことですが、多くの父親が「将来子どもには、せめて自分と同じくらいか、できればよりよい生活を送ってほしい」と願っています。特に高い学歴を必要とする職業に就いている父親は、子どもが受験に失敗すると、その思いがかなわなくなることを心配しているようです。「下降への恐怖」と言ってもよいかもしれません。

もちろん、父親自身の置かれた環境も影響するでしょう。例えば、私立中学校の受験は、都市部に顕著な動きと言えます。周囲の子どもが当たり前のように受験する環境であれば、否応なく、過当な受験競争に巻き込まれてしまうケースもあります。

特に高い学歴を必要とする職業に就いている父親は、子どもが受験に失敗すると、その思いがかなわなくなることを心配しているようです(画像はイメージです)
特に高い学歴を必要とする職業に就いている父親は、子どもが受験に失敗すると、その思いがかなわなくなることを心配しているようです(画像はイメージです) 出典: Getty Images

否応なく「教育する父親」に

私自身、通える私立校も大手の受験塾もない地方で生まれて、学校は地域の公立が当たり前という環境で育ちました。ところが、自分の子どもを都市部で育てることになり、子ども自身の希望も聞いた上で、小学生から受験塾に行かせて子どもの受験を支援しました。私も「教育する父親」になったのだと思います。


――私も多賀さんと同じような環境で育ちました。ただ、子どもはまだ6歳ですが、周囲を見渡すと、例えば、中学受験は非常にリアルです。否応なく「教育する父親」になっていく、という感覚はよく分かります。それでも、懸念もありそうです。

母親だけでなく父親までもが教育熱心になればなるほど、子どもの逃げ場はなくなりますし、教育にお金や労力をかけられる家庭とそうでない家庭の間での格差拡大も懸念されます。

母親だけでなく父親までもが教育熱心になればなるほど、子どもの逃げ場はなくなりますし、教育にお金や労力をかけられる家庭とそうでない家庭の間での格差拡大も懸念されます(画像はイメージです)
母親だけでなく父親までもが教育熱心になればなるほど、子どもの逃げ場はなくなりますし、教育にお金や労力をかけられる家庭とそうでない家庭の間での格差拡大も懸念されます(画像はイメージです) 出典: Getty Images

「男は仕事」の再生産

さらに、子どもの教育に熱心になることが「男は仕事、女は家庭」といった性別役割分業を再生産する側面も考えられます。

家庭教育にはお金も手間もかかります。最も効率的に、多くのお金を稼ぎ、より長く親が子どもに付き添うにはどうすればよいか。家庭内で最善の道を探った結果、多くの家庭で「現時点で稼ぎやすいのは父親だから、より稼いでもらう。母親は、いっそう子どもの世話に時間を費やす」という選択になってしまうかもしれません。

――子育てする父親が増えれば、思春期においても、「教育する父親」は増えるものでしょうか。

インタビューの結果から推察すると、比較的学歴の高いサラリーマン家庭では「教育する父親」がさらに増える可能性はありそうです。ただ、家庭の状況もさまざまです。あらゆる層まで広まるかどうか、今後の様子を見定めたいと思います。

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