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その「雑煮あるある」本当? 餅の数、毎日増やすのウチだけ!の衝撃
お雑煮に隠されていた「家族の物語」
正月に食べる「お雑煮」。中に入れる餅の数は、三が日は毎日増やさなければいけないので、「元日(一日目)は調子に乗って入れすぎない」というのはあるあるですが、さて皆さんは、元日に何個のお餅を入れましたか?
と、ここまで書いて、どれぐらいの方が違和感を持ったでしょうか。
元日の雑煮に餅を2つ入れたら、次の日は3つ、そのまた次の日は4つと、餅はけして減らしてはいけない……。筆者はこの「ならわし」が、全国共通の(節分では年の数の豆を食う、と同等の)ものだと、つい最近まで思い込んでいました。
編集部内でそれぞれの「雑煮あるある」を話していたとき、全員に「え、聞いたことない」と言われて、愕然としました。足元がガラガラと崩れるような感覚。
40年近く遂行してきた我が家の「ならわし」は、一体何だったのか……。
餅は餅屋ーー。
すぐに大手餅メーカーに取材しました。
回答してくれたのは、餅業界に33年。営業担当やお客様オフィス担当として、餅関係の問い合わせを一手に受けているという担当者(55歳)です。
ところが「私も初めて聞きました!」。とても丁寧に、返されました。
驚きのあまり声が出ない筆者に、「こういう問い合わせ、年末年始は大変増えるんですよ」と気の毒がります。聞くと、12月、1月は日に30~40件の問い合わせがあるそうです。
「鏡餅は本当はいつまで飾ったらいいの?」「テレビで見たのと、うちのが違うけど、どちらが正しいの?」など。質問は年配者からも多いと言います。
周りの情報に流され、いとも簡単に信条が揺らいでしまった人たちに、担当者がかけているという言葉を教えてくれました。「地区によって習慣が違うので、こればっかりは『これが正しい』というのがないんですよ」
とはいえ、うちの家族が信じてきた「ならわし」が気になる……。
私がたどれる最古の起源である祖母(91歳)に聞いてみると、「秋田出身の父から聞いたと思うよ。恵比寿で育った母も商売をしていたし、いろんな縁起を担いでいたんじゃないかな、知らんけど」と言います。
誰が作ったか分からない「ならわし」は、もはや「呪い」なんじゃないか……とさえ考え始めてしまった時、同僚から「お雑煮の縁起担ぎ・まとめ」というページを教えてもらいました。
これだ!!!
執筆した粕谷浩子さんに問い合わせると、すぐ答えてくれました。全国を巡り、お雑煮を調査してきた方です。
一体、どこの地域で、誰が信じてきたんでしょうか。
「これは九州でも、関西でも、全国あちこちで聞いたことがあります。元日にたくさん餅を入れると『明日と明後日があるんだよ』と注意された話とか」。
粕谷さんの答えに「そうなんです! そうなんです!」とホッとして、なぜか半泣き。よかった、うちだけじゃなかったよ、ばあちゃん!
ただ、「学術論文なども調べましたが、特に起源は明記はされていないですね……」。
でも「それこそが、お雑煮なのだ」と粕谷さんは断言します。
そもそも、正月料理は、公の「祭り」ではなく、閉ざされた家の中で、親から子へ、緩やかに続いてきたもの。
特段、会話にも出ないので、周りの事情を知らない誰もが「うちの雑煮が『普通』だ」と思ってしまうのだそうです。
「だから、めちゃくちゃ面白い。『お宅の雑煮を教えて』と言うと、たいてい『うちのは普通だから~』と言うんで、思わずニヤニヤしちゃいます」
おせちはもとより、雑煮にも様々な「縁起」が込められていると言います。
熊本市内でのみ雑煮用と流通する、希少な30センチ超のもやし「水前寺もやし」は、その長さから、長寿を祈るものとされています。
雑煮用に育てられる細い大根や人参は、「輪切り」にして入れて「円満」。切り方だけでも意味があります。
雑煮の出汁を「するめ」で取る家でも、イカの足の多さにかけて「御足(お金)が多い」という願いを込めたり、「けんかスルメぇ」と家族円満を願ったり。
同じ材料でも、願いのかけ方が違ったりすることに、家の「らしさ」が見えると言います。
地域地域で、家庭家庭で、伝えられてきた、そんな雑煮の「物語」。「正解は何だとか、伝統を残す、などと堅苦しく考えず、自分の土地や家族を知るために、雑煮を通しておしゃべりしてもらえたら良いんじゃないでしょうか」
「餅の数」から一瞬、ゆらいだ家族への信頼。でも取材を進めるうちに、ただなぞるだけだった「ならわし」の裏にある、人々の顔を感じることができました。
当たり前だと思っていた「あるある」も、紐解けば、その家、その人だけの物語が込められているかもしれません。
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