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コラム

ほかの地域のお雑煮「餅入りスープ感覚」で…よりよい1年を願って

白央さんがお雑煮レシピも紹介

ツイッターで毎年「お雑煮を見せてください」と画像を寄せてもらっているフードライターの白央篤司さんは、さまざまなお雑煮があって「見飽きない」と言います
ツイッターで毎年「お雑煮を見せてください」と画像を寄せてもらっているフードライターの白央篤司さんは、さまざまなお雑煮があって「見飽きない」と言います 出典: 画像はいずれも白央さん提供

目次

年が明けて2023年。お正月といえば、お雑煮を食べる人も多いのではないでしょうか。

日本の暮らしと食を見つめるフードライターの白央篤司さんに、「お雑煮」をテーマにコラムを寄せてもらいました。

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白央篤司(はくおう・あつし):フードライター。「暮しと食」、日本の郷土料理やローカルフードをテーマに執筆。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)『ジャパめし。』(集英社)『自炊力』(光文社新書)などがある。ツイッターは@hakuo416

見飽きない フォロワーさんのお雑煮

明けましておめでとうございます。
みなさん、年明けにお雑煮を召し上がられましたか。みなさんのうちのお雑煮は、どういうものでしょうか。

お雑煮って本当に地域によって、ご家庭によって、様々ですよね。

私は毎年、元日はツイッターからフォロワーさんにお願いして、お雑煮を見せてもらっています。8年ほど続けていますが、見飽きることがありません。

ひとつとして、同じようなビジュアルがない。

祝箸というのも、お正月らしくていいものですね
祝箸というのも、お正月らしくていいものですね

いやもちろん、構成要素は地域ごとざっくり共通しています。

たとえば関東に多い「おすまし雑煮」を例にとると、具材は鶏肉、青菜、角餅、かまぼこ(or なると)が代表的な具材。青菜は小松菜が多く、次いでほうれん草がよく使われています。

実際にご家庭で作られた写真を見せていただくと、これが面白い。

最後に刻んだ青菜を散らしてほぼ青菜しか見えないお宅もあれば、最後に餅がデンとのる家もある。なるとが4~5枚入ってめでたさ極まるビジュアルもあれば、「鶏肉は苦手」と入れない人も結構いるんです。

特に個性が出るのはお餅。しっかり焼きをつける人、別にゆでて加える人、あるいは焼いた上で煮溶かすのが好きという人も(私も溶かしてドロッとした雑煮、きらいじゃないです)。

おすましも白味噌も…「一年を円満に」

ああ、お雑煮の細かい話を始めるとキリがありません。

ちょっと話を変えましょうか。写真は関西地方のおなじみ、白味噌雑煮です。

しかし料理記事やテレビなどで「いろいろなお雑煮がある」とよく紹介されているから、最初のおすまし雑煮と白味噌雑煮が同じ「お雑煮」と分かるようなものの、まったくもって違う料理ですよね。

他国の方に数種のお雑煮を見せて、「これらはすべてお雑煮です」と言ったら、理解してもらうのに時間がかかるだろうなあ……。

さて白味噌雑煮、私も料理の仕事を始めてからいただく機会を得ましたが、昆布だしの塩気と白味噌の甘さが不思議な相性の良さで、おいしいものだな……と驚かされました。

具は丸餅、里芋、大根、人参がよく使われ、「一年を円満に」と願いを込めて、丸く切りそろえることが多いよう。上の写真だと私が切った里芋は角々していますが、どうかそこは流してください。

うちのつれあいは大阪人なので、元日は白味噌雑煮も用意します。ただ野菜の切り方はじめ、特に細かい指定はないんですよ。アバウトで、ありがたい。

お餅も「家では煮てたと思うけど、焼いたほうが好き」なんて自由な感じでね。うちの白味噌雑煮の作り方を書いておきます。

① 出汁は昆布といりこ(煮干し)、普段よりかなり濃いめにひく

② 大根、人参、里芋は皮をむいて食べやすい大きさに切る

③ 出汁で②を煮て、白味噌をたっぷり入れて溶かす

④ 別ゆで、あるいは焼いておいた餅を加える

白味噌自体の塩気にもよりますが、味噌汁を作る感覚の倍量から3倍量ぐらい、汁がトロッとするぐらい白味噌を入れます。

ある京都の方は「ポタージュぐらいのとろみがつく感覚で」なんて言われましたね。

いりこを使うのは、香川県の白味噌雑煮をいただいたとき、出汁がいりこと昆布でそれが実においしく、以来真似ています。

こちらが香川のあん餅雑煮。あんこ入りのお餅が入りますが、出汁の塩気と意外な調和をみせて、おいしいのです
こちらが香川のあん餅雑煮。あんこ入りのお餅が入りますが、出汁の塩気と意外な調和をみせて、おいしいのです

白味噌雑煮というと、思い出すエピソードがもうひとつ。

友人が京都の清水寺近く、東山の出身なのですが、「父親と長男のお雑煮だけ頭芋(かしらいも)なる具を入れる」と教えてくれました。

里芋の親芋で、とても大きなもの。写真がなくて申し訳ないのですが、お椀を占領するぐらいの大きな芋です。人の上に立つ、頭(かしら)になれるようにとの願いが込められているそう。

「ふたりが頭芋を食べ切るまで、お雑煮に手をつけたらあかんの。うちはね。ジーッと待つのもつらいけど、あの大きなお芋さんを黙々と食べなあかんのもつらいやろなて、毎年思ってたわ」と笑って教えてくれました。

頭芋雑煮に関して面白く思い、京都の人と話す機会があれば尋ねていましたが「あの頭芋を食べ切るのがしんどくなってきたら、後継ぎにゆずりどき、と悟るわけや」なんて言われた人が。「なるほど!」と頷けば「知らんけど」と笑っていましたがね。

お雑煮って、家の決まりごとや風習が絡んでいることも多く、私はその点にも強く興味をひかれます。みなさんの家では、お雑煮に関しての決まりごとって何かありますでしょうか?

牡蠣や魚のぶりも…「福をかき入れる」

さて、この原稿を依頼されたたとき、編集部から「お雑煮の写真をなるたけ多く入れてほしい」とお願いされました。

そうだな、牡蠣入り雑煮をアップしましょうか。広島の方に教わったものを自分なりにアレンジして、簡単な作り方でよく楽しんでいます。

①牡蠣は塩をふって流水でよく洗っておく

②濃いめの昆布だしをひく

③昆布だしを中火にかけて、沸いたら牡蠣を入れて3分ほど煮て、取り出す

④酒、薄口醤油で調味し、餅、かまぼこ、青菜などを入れて煮て、牡蠣を再び加える

牡蠣と昆布の出汁、うまいんですよー。そして牡蠣を餅にからめて食べる、これまたいいんだ……。牡蠣雑煮には「福をかき(=牡蠣)入れる」なんて縁起かつぎもあるよう。

本来は丸餅で、魚のぶりや根菜も一緒に煮る具だくさんな雑煮です。

ぶりといえば、福岡のお雑煮にも欠かせません。

以前、北九州市にゆかりの方から「うちのお雑煮」を教えていただきました。作り方はこんな感じ。

①ぶりを軽く焼いておく

②あご出汁で①を煮て、かまぼこ、かつお菜(高菜の一種)、丸餅も加えて煮る

③薄口醤油、塩で味つけする

「あご出汁」とは、とびうおの出汁のこと。一度焼いてからじっくりと乾燥させたとびうおを、ひと晩ほど水に浸けて使います。

クセのないすっきりした味わいで福岡や長崎でおなじみ。あちらではだしパックも売られています。

あご出汁とぶりのうま味が溶け合ったおつゆ、忘れられません。初体験でしたが、どこか親しみを感じるおいしさ。「ぶりを出汁としても使う」ということ自体が私には新鮮で、ワクワクしました。

他地域のお雑煮「餅入りスープ」感覚で

さあ、食いしん坊のあなたに提案です。

よその地域のお雑煮をいただく機会って、ほぼありませんよね。

「お雑煮はなじんだ味がいちばん!」でしょうが、気が向いたときにでも「餅入りスープ」の感覚で作ってみませんか。お雑煮って、未体験のおいしさに出合える確率の高い料理ですよ。こういうのもひとつの異文化コミュニケーション。

どこかのお雑煮にならわなくても、お雑煮ってもっと自由でもいいと私は常々思ってるんです。

元日や二日目はお決まりのお雑煮をいただいて、三日目などは、そのときあるものを自由に入れて、オリジナルのお雑煮を楽しむのもおすすめ。

上の写真はその一例、さつま揚げとミニホタテ、小松菜、なるとで作りました。

かつおと昆布のだしで煮て、味つけは醤油、酒少々。気分が変わっていいし、食材の使い切りにも役立ちますよ。お味噌汁のように、わりと何を入れてもおすましとして成立します。

ある日の朝食に、こんなお雑煮を作りました。
具材は鶏ささみに椎茸、人参、小松菜、かまぼこ、もやし。

もやしって、宮崎や鹿児島の一部では定番のお雑煮の具です。いい出汁が加わるんですよ、またもや新鮮な発見でした。

さて、きょうは富山県の赤巻きかまぼこと、冬においしいちぢみほうれん草、鶏肉をお雑煮の具にしてみました。

お正月は「うちのお雑煮」もいただきつつ、ちょっと自由に遊んだり、よその地域のお雑煮も味わったりしてみてはいかがでしょう。

最後になりましたが、みなさまの一年がより良い年でありますように。

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