MENU CLOSE

連載

#131 #父親のモヤモヤ

「ケアは面倒で逃げてた」 父親で研究者、子育てで思う〝戦線離脱〟

仕事一筋だった研究者が、子育てのために「戦線離脱」して見えたものは? 「〝面倒〟なケアから逃げてきた」と話す兵庫県立大学准教授の竹端寛さんに聞きました(画像はイメージです)
仕事一筋だった研究者が、子育てのために「戦線離脱」して見えたものは? 「〝面倒〟なケアから逃げてきた」と話す兵庫県立大学准教授の竹端寛さんに聞きました(画像はイメージです) 出典: Getty Images

目次

#父親のモヤモヤ
※クリックすると特集ページ(朝日新聞デジタル)に移ります。

仕事一筋だった研究者が、子育てのために「戦線離脱」して見えたものは? 「〝面倒〟なケアから逃げてきた」と話す兵庫県立大学准教授の竹端寛さんに聞きました。(聞き手・高橋健次郎)

【PR】「あの時、学校でR-1飲んでたね」

※本記事は、「朝日新聞ポッドキャスト」の収録内容を編集したものです。

竹端寛(たけばた・ひろし)さん:1975年生まれ。兵庫県立大学環境人間学部准教授。専門は福祉社会学、社会福祉学。5歳の長女を子育て中。今年7月に『家族は他人、じゃあどうする?  子育ては親の育ち直し』(現代書館)を刊行した。合気道2段。

「24時間戦えますか」

――「24時間戦えますか」というCMがかつてありましたが、まさにそんな研究者だったそうですね。

竹端:まさに昭和の働き方やったわけです。研究者には、“publish or perish” という言葉があって、「出版するか、消え去るか」となるわけです。いかに論文を書くのか、いかにアウトプットするのか、というのが」」業績評価とが結びつくみたいな、新自由主義的な働き方が、研究者の世界にも迫っていました。

アウトプットせなあかんのちゃうかと、必死になって、ラットレースに組み込まれてしまったんです。

(子どもが生まれる前)山梨の大学にいた時は、最盛期だと週に3回くらい出張していました。他者から評価されることによって、やっと自分がいるみたいな時期があって、例えば研修に呼ばれる、講演に呼ばれるということで、必要とされていると思い込むことができたわけです。
竹端寛さん=本人提供
竹端寛さん=本人提供

「ケアから逃げてた」

――仕事中心だった竹端さんが、お子さんがお生まれになって、家庭中心にシフトされるわけですが、その様子をご著書では「戦線離脱」と表現されています。

竹端:「24時間戦えますか」をやっていたら、子育てなんてできっこないわけですよ。夜泣きしたり、うんちやおしっこをしたり、ずっと赤ちゃんから目が離せません。出張はできるはずがないし、ましてや飲み会なんか行けるはずがないし。

かつては、家におっても原稿を書きまくってたわけです。いろんなことができなくなってしまうっていう段階で、「ああ、これはもう戦線離脱なんやなあ」と、なんか落伍者だと自分でレッテルを貼ってしまったわけです。

――そもそもですが、他者評価を気にしていた竹端さんが、子育てに関わるようになったのはなぜでしょう?

竹端:ぼく、ケアからすごい逃げてたんですね。

もともと障害者福祉が専門なので、ケアの現場で働いてみませんか、と言われたことがあったのですが、なんか理屈をこねてたんだけど、単純にケアが面倒くさくて逃げてたんです。

でも、ちゃんと一度ケアを経験してみなあかん、と思ったっていうのが根底でありますよね。あと、ちゃんと男女平等でやらなあかんよなという思いもありました。ただやってみたら、こんなに大変だと思いもしなかった。全く予想外でした。
『家族は他人、じゃあどうする?  子育ては親の育ち直し』(現代書館)
『家族は他人、じゃあどうする?  子育ては親の育ち直し』(現代書館)

コントロールしたい

――「ケアから逃げてきた」という言葉にあるように、ケア自体は、ハードなものだと思います。ケアと関わっていく中で、ガツンとやられました、みたいなところはあるでしょうか。

竹端:(子どもを抱っこするための)スリングに入れてユラユラさせながら、パソコンが打てるはずだとか、子どもが生まれる前は思ってたわけですよ。

子どもといると、そんなこと出来ないです。親が新聞読んでたら、破ろうと実力行使してくれはるわけですよね。その時に、「コントロールできるはずだ」という発想がいかに「パターナリズム」(父権主義)の発想かと気づくわけです。

コントロールしたい、支配したい、優しいけれどもうまいこと言うて自分に従わせたいというのが父権主義ですよね。

一緒の時間をただ共にする、あるがままの時間を承認するっていう発想が、ぼくには決定的に欠けていました。

「私は悪くない」というメッセージ

――ご著書の中で、娘さんが雑貨屋さんの売り物を壊しちゃったという話がでてきます。竹端さんは、娘さんを叱るわけです。ごく自然なことだと思うのですが、この行動について、ケアの視点で、竹端さんは分析されていますね。

竹端:お店の中で物を壊してしまって、その時に私は「何やってるの謝りなさい」っていう形で子供を叱ったわけですよね。 ここにあるのは、「あなたは悪い」というメッセージなんですよ。で、非言語的なメッセージが裏に隠されていて、それは「私は悪くない」なんですよね。

これは実は勤め人の発想で、自分の権限はここまでである。私の責任はここまで行使したけれど、ここからはあなたの責任です、というようなものです。相手をなじり、責任の線引きをしたのです

一方、妻はそれをしなかったんですよね。

「目を離してたお母ちゃんが悪い」って本人に言ったんですね。ぼくはもうそれ聞いたときに、脳天をズドンとやられるくらいにショックを受けました。責任の所在って一体なんやろうって、なりました。
相手をなじり、責任の線引きをしたのです(画像はイメージです)
相手をなじり、責任の線引きをしたのです(画像はイメージです) 出典: Getty Images

ケアの最終責任

――私にも6歳の娘がいます。ケアに対する責任の持ち方について、妻と比べて欠いていると思うことがあります。

竹端:父親が「イクメン」などと言われたときに、「どこまでやってんねん」っていう批判の背景にあるものでもあるんですよね。

例えば、子どもにどれくらい薬を飲ませるとか、暑くなったら服装はどうしようとか、そういうケアの機微の最終責任は母の側になっているケースってやっぱり多いわけですよね。私自身も、「ケアの最終責任が取れていなかった」と感じました

――さっきのお話ですが、竹端さんは、子育てに関わることで「戦線離脱」になると思っていたわけですよね。今はいかがですか。

竹端:変な話ですけど、手放さんと見えないものがあるんだろうな、というのはすごく思うところが大きいんですよね。

「24時間戦えますか」を手放し、子どもが「認定こども園」に行った後から帰宅する夕方までの時間、かつ平日ということに原則限定してしまうことで、効率の最大化ってやっぱり考えるわけですよね。

徹底的に効率的に働くことはもちろんです。惰性的に付き合ってた飲み会もあったわけです。コロナが原因ですが、オンラインの仕事をやっぱり増やしたことで、会議が終わったら子どもを風呂に入れて、みたいなことが当たり前にできるようになりました。

虚勢を張るための仕事さえ減らしてしまえば、何が大事かという優先順位をつけた上で、一番大事なことをちゃんとするってことは、子育てしててもできるなというのが、この5年で感じたことです。
子どもにどれくらい薬を飲ませるとか、暑くなったら服装はどうしようとか、そういうケアの機微の最終責任は母の側になっているケースってやっぱり多いわけですよね(画像はイメージです)
子どもにどれくらい薬を飲ませるとか、暑くなったら服装はどうしようとか、そういうケアの機微の最終責任は母の側になっているケースってやっぱり多いわけですよね(画像はイメージです) 出典: Getty Images

失われた30年

竹端:子どもを風呂に入れるとか、ご飯を作るとか、送り迎えするとか、やっぱり面白いと思ってやってる方が、何か色々見えてくる世界があるなという風に思います。仕事で煮詰まっている時、ご飯を作っていると、「これやったんや」みたいな創造性が豊かに戻ってくるっていうのはありますね。

あとは、共にあるという、ケアの概念にあるような考え方を男性が取り戻せることができたら、もっといい働き方ができると思うし、よりよく生きていけるんちゃうかなと私は思うんですよね。

昭和の働き方というのは、役に立つんだ、歯を食いしばって頑張れ、みたいな発想でやってきたわけですけれども、(バブル崩壊後の)「失われた30年」というのは、「24時間戦えますか」に代わる価値観を取り戻せなかった、そんな30年ちゃうかなと思うんです。
【後編はこちら】妻に夫がアドバイス…ではなくて 〝昭和的〟な夫婦関係を見直すとき …

前編のポッドキャストはこちら

あなたのモヤモヤ、お寄せください

記事の感想や体験談を募ります。いずれも連絡先を明記のうえ、メール(dkh@asahi.com)で、朝日新聞「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。
 

共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、モヤモヤすることがあります。それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながると思い、この企画は始まりました。あなたのモヤモヤ、聞かせてください。
みんなの「#父親のモヤモヤ」を見る

連載 #父親のモヤモヤ

その他の連載コンテンツ その他の連載コンテンツ

全連載一覧から探す。 全連載一覧から探す。

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます