連載
#132 #父親のモヤモヤ
妻に夫がアドバイス…ではなくて 〝昭和的〟な夫婦関係を見直すとき
※本記事は、「朝日新聞ポッドキャスト」の収録内容を編集したものです。
竹端寛(たけばた・ひろし)さん:1975年生まれ。兵庫県立大学環境人間学部准教授。専門は福祉社会学、社会福祉学。5歳の長女を子育て中。今年7月に『家族は他人、じゃあどうする? 子育ては親の育ち直し』(現代書館)を刊行した。合気道2段。
高橋:ここまで、仕事一筋だった研究者が、子育てのために「戦線離脱」して見えたものは何か、ということをお聞きしてきました。
高橋:昭和の夫婦関係で言うと、男性側のコミュニケーションって、どこか父権主義的というか、黙らせたりとか、無言の圧力だったり、コミュニケーション不全に陥るような作法をとりがちだということも含めて、見直した方が良いのかなと思います。
竹端:ぼくが、よく妻に叱られるのは、すごいアドバイスする私がいるんですね。まさに父権主義の典型なんですけど、妻は、はっきり言いますよ、「今はアドバイスはいらん。ただ聴いてほしい」って。
神田:さきほど、竹端さんの娘さんが、雑貨店で売り物を壊してしまった話をされていました。娘さんを叱った竹端さんは、責任の範囲を決めていると指摘されていました。「娘の責任だ。私の責任ではない」と、とっさに判断しているので、娘を叱ってしまったとおっしゃっていたわけです。
これって、賃金労働の場でも同じことだろうなと思うんです。
新聞記者を例にとると、おおむね担当がついています。同じ警察担当でも、捜査1課はこの人、捜査2課はこの人と決まっています。責任の所在を明確にするためなんですね。こういうのって、新聞社だけじゃなくて、おそらくどこでもあるんだろうなと容易に想像がつきます。
でも、義務でないことって、実は非常に創造的にできるんだということですよね。
竹端:管理職の視点で言えば、責任の範囲を決めることによって、上司は部下を叱ることができるわけですよね。でも、それがほんまもんの管理なのかって話なんですよね。
神田:義務でないことは創造的にできるということですが、一方で、義務でない部分、これどうしたらいいですかね。
私も料理が好きで、朝ごはんは毎日作っています。買い物をしながら、旬の食材をどう調理したらおいしくなるのかとか、単に野菜を刻む動作自体も楽しい。でも、洗濯物を干すって行為が、あんまり好きじゃなくて……。
竹端:子どもと共にするっていうのが、解決策かなと思っています。うちの子どもは、めっちゃ楽しんで洗濯物を一緒に干してくれてるんですよね。
妻が娘に「パンパンしたらきれいに干せるよ」と教えるわけです。「ありがとう。助かったよ」と伝えると、子どもも楽しんで一緒にやってくれます。誘導というか、とても大事だと思います。
神田:これって、賃金労働の場にも言えますよね。子どもと一緒にやろうというときは、強制するのではなく、一緒にやろうよっていう感じが一番物事がうまくいきますよね。これと同じだと思うんです。
竹端:結局、親や上司のあり方を変えないとあかんということですよね。
黙って従えとか、ちゃんとしなさいと叱るのではなく、その人が自発的に喜んでできるようになるために、どんな風に工夫したりサポートすることができるのかっていうのが、親や上司に求められていることだと思うんです。
神田:竹端さんのお話で私に刺さったのが、仕事を24時間体制ぐらいの勢いでやっていたときは、自分の存在の根拠が、他者の評価だとおっしゃっていたことです。論文をどれだけ書いているとか、講演にどれだけ呼んでもらったとか、ですね。
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