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道路に倒れたバス停 実は台風のせいじゃなかった!
台風の裏にバス事業者と〝善意の悪魔〟の攻防
台風前後に目撃された、道路に横倒しになったバスの停留所。それが「風によって倒れた」わけではなかったという〝真相〟を物語る画像が、ツイッターで話題になりました。投稿者とバス事業者に話を聞きました。
画像に写っているのは、路傍に横倒しになっているバスの停留所です。
この投稿には、「まだ強風は吹いていないのに何故倒れる?と思っていた」「あぶね、善意の悪魔になるところだった」「是非、広まってほしい」などと共感が集まり、6万件以上のいいねがつきました。
これ、もっと知られるといいかも
— Manabu INOUE (@kasobus) September 19, 2022
台風が近づいてるので前もって倒されたバス停
「大風でバス停が倒れてる」という苦情から、「バス停が倒れてたので直しときました」という善意の悪魔からの電話対応がハンパないとバス事業者さんから伺ったので pic.twitter.com/oGgZs8xqg3
投稿した井上学さんは龍谷大学の教授で、公共交通を研究されています。
今回投稿したのは、以前、バス事業者から台風接近に備えて前もってバス停を倒していることや、それにまつわる苦労話を聞いたことがきっかけでした。「まだ多くの人に知られていないことに気付きました」
まちなかで、台風14号で見つけたバス停を投稿すると、多くの反響がありました。
井上さんは、「実はずっとやられている取り組みなのですが、台風の影響を比較的受けない地域にも、このような取り組みが伝わるのはSNSならでは」と、多くの人に伝わったことを喜びます。
実際に、バス事業者は、台風接近でどんな対応をしていたのでしょうか。
今回の画像が撮影された京都市内のバス事業者のひとつ、京都市交通局に話を聞きました。
担当者によると、バスの停留所にはいくつか種類があります。
街なかに多いのは道路に埋まっているもの。広告が付いた屋根付きの停留所。そして、今回投稿された、下がコンクリートの基礎で上が時刻表になった〝標識柱〟です。
この標識柱を、大型の台風が接近する際に倒すことがあります。
どの台風の規模から倒すかという基準はなく、対応はそれぞれの事業者が判断しているそうです。
ただ一口に「倒す」と言っても、簡単なことではありません。
標識柱の停留所は、高さ約2・5メートル、コンクリートの土台は約140キロあり、全部合わせるとおよそ200キロにもなると言います。
「1人では到底倒せないので、2人以上で倒しに行きます」
台風14号は、「過去に例がないほど」と早くから警戒されていたこともあり、いつもよりも前もって、最接近の予報の前日の18日夕方に倒し始めました。
京都市交通局が管轄する停留所のうち、該当するのは約150箇所。エリアごとに各営業所が分担しますが、三連休の中日だったため人手は最低限でした。
数時間後に迫る大型台風への緊張感の中、職員は車で周り、必死で停留所を倒して行きました。
時間との勝負のなか、倒した停留所には貼り紙を取り付けることも忘れません。
「台風の接近に伴い、当標識柱は転倒防止のため、倒しております」
京都市交通局では、飛ばされないようパウチしたお知らせをロープでくくりつけます。
ちなみに、全ての停留所が地中に埋まっていれば、倒す手間がなくなるのでは? とも思いますが、一定の道路の幅が必要など構造上の問題で、埋められない場所もあるそうです。
台風に備えて標識柱は倒していても、バスの運行は可能な限り続けています。運行ルートの安全確認のため、職員が車で巡視していると、〝異変〟に気がつきます。
さっき倒したはずの停留所が、立っている……。
台風はまだ接近前。再び標識柱を倒しますが、1時間後に再び巡視に来ると、また立っている……。
「普段、当たり前のように立っているバス停が倒れていると、『直さなきゃ』と思ってくれる方もいらっしゃるようです」
台風が過ぎた20日朝、また人力で150箇所すべての看板を立て直したそうです。
今回の投稿で多くの反響が集まったことに、「正直、驚きました」と京都市交通局の担当者。
記録は残っていませんが、風が強くなれば停留所を倒すというのは、バス事業者ではずっと続いてきた〝備え〟だったと言います。「先輩の記憶する限り、少なくとも50年は続いていました」
「暴風にあおられれば停留所は凶器と化す」との危惧からだそうです。幸い、今回の台風でバス停留所が倒れたり、人を傷つけたりする被害は確認されませんでした。
被害が最小限に抑えられた影には、いつも、誰かの地道な〝備え〟があります。
投稿した井上さんは、「善意の悪魔」という表現を「『私も知らず知らずのうちにこのようなことをやっているのではないか』という自戒の念を込めて書きました」と話します。
SNSの反響の中には、「台風報道の映像で倒されたバス停が写っているのを見た」というものもありました。
井上さんは、「今後は、台風が接近した時には、物干し竿を外す、自転車を倒すなどのように、『バス停を倒す』が一般的な事象として知られると幸いです。報道でも強風で倒れたバス停か、あらかじめ倒されたバス停かを注意して報道されることを期待します」と願いを込めました。
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