連載
#20 凸凹夫婦のハッタツ日記
365日「同じ服」だった私に、ADHDの夫が教えてくれたファッション
お互いの凸凹を補いながら生活している自閉スペクトラム症(ASD)の西出弥加(さやか)さん(33)と注意欠如・多動症(ADHD)の光(ひかる)さん(26)夫妻。妻・弥加さんは結婚するまで365日「同じ服」だったといいます。光さんとの出会いで、どのような変化があったのかつづります。(文:西出弥加)
私は身だしなみを整えることが苦手です。自分が相手からどう見えているのか、また自分をどう見せたいのか一生懸命考えても、全く、思いつくことができません。
身なりを清潔に保ってはいるものの、着ている服は毎日同じです。夏は半袖で、冬はその半袖の上にパーカーやコートを着ているだけで基本的に365日変化がありません。
寒いから着る、暑いから薄着、という考えしか持てないのです。
しかし結婚してから身だしなみを整えることが少し楽しいかもと思えるようになってきました。
私は新卒の頃、会社に勤めたことがあるのですがTPOに合った服を着ることができずに辞めてしまった経験があります。
それくらい、できなかったのです。
ハイヒールやスカート、フォーマルな服が苦手で、どうしてもスニーカーとパーカーしか着ることができませんでした。ヒールを履くと、まるで何十時間も働いたかのような疲労感が募ってしまうのです。
当時は甘えてはいけないと思い、頑張って高価なハイヒールの靴も買いましたが、写真撮影以外で履くことはありませんでした。今、そのヒールはオブジェのように靴箱に並んでいます……。
社会に出て10年が経った今、甘えというより、性格や感覚過敏の影響、LGBTの性質などが関係しているのかもと思うようになりました。
とにかく身だしなみに興味が持てず、ファッション雑誌を見るだけで気分が悪くなり困っていました。
そんな私が身だしなみに気をつけるようになったキッカケは、夫であるヒカルくんが身だしなみに対してとても気をつけていたからです。
ヒカルくんは自分がどう見えるのか毎日無意識に考え、自然に色々な服を着ていました。そうか、自分もこの感じで服を着たらいいのかもと、姿勢を真似できるようになりました。
ヒカルくんはADHD特性ゆえ、不注意で服を洗わなかったり飽きてしまって途中で着ることをやめていたりで、部屋中にいろんな物があふれていました。それで私が借りて試しに着てみたところ、いつもと違う自分に出会えました。少し楽しかったので、これで私もTPOが考えられるようになるかもと思いました。
私は買い物も腰が重く、服は5年に一度買えば多い方なのですが、結婚当初はヒカルくんの服がたくさんあったのでサブスクリプションで送られてきてるかのように、ブティックのようになりました。
その様々な服を試して着るうちに、自然と身なりを客観視するようになりました。今まで着ることがなさすぎて客観視する幅が足りなかったのかもしれません。やはり何事も、質をよくしたいならまずは量をこなさないといけないのかもしれません。
シャンプーやコンディショナーも旅行に行ったときに見つけたものを長年使っていて、いろいろと試したりする発想ができなかったのですが、ヒカルくんはたくさんの商品を試しては置いておくので、この恩恵でたくさん使うことができました。
製品によってこんなに髪質や肌質が変わるのかと感動し、少し楽しくなり、身だしなみに気を遣えるようになりました。
またヒカルくんを見ていて、この服は彼に合っているなと思うこともあったり、自然と相手や自分の外見に興味を持つようになったのです。
ヒカルくんがメイクをしているときも、まだ不慣れなようだったので私がファンデーションやアイシャドウの色を選び、塗ってあげていました。自分のメイクは全くできませんが、人に塗るのは得意でした。
そのうちに興味がなかったイエベ、ブルベもわかるようになりました。これはパーソナルカラーの基本となる色分類のひとつで、自分の肌色のベースが黄色み寄りなら「イエローベース=イエベ」、青み寄りなら「ブルーベース=ブルべ」に分けられるそうです。夫にメイクすることも楽しくなり、そして自分もこういうメイクが似合うなと考える時間が増えました。
そうすると自然に、今日はこの人に会うからこのアイシャドウを塗ろうとか、この靴で行こう、と少しだけ変化を持たせられるようになりました。
ただ、やはり服装やメイクを極端に変えていくことは苦手なので、本当に微々たる部分を変えたりしているだけです。
どんなにヒカルくんを見習っても、彼のようにいろんな自分を見せることはできないので、私は私なりの対策を取りました。
それは、高価なものを数点だけ持っておくことでした。そうすれば白いTシャツにジーパンでもきれいに見えやすいということに気づきました。まず長持ちしそうな高価な靴やネックレスだけを揃えました。身だしなみに関して苦手が多い自分がきちんと見せるためには、小物の力を借りることが必要でした。
そして縮毛矯正を年に2回かけることにしました。これで髪がうねることもなく、無理にスタイリングをしなくても綺麗に見えるようになりました。
最後に、ロードバイクに乗って長距離を走ったりすることで筋肉をつけて姿勢をよくし、整っているように見えるよう努力しました。
すごく苦手な身だしなみに関してですが、自分にできる小さな幅の中で、変化を持たせて相手に好印象を持ってもらえるように気をつけていこうと思います。
西出弥加(にしで・さやか)
1988年生まれ。「自閉スペクトラム症(ASD)」の当事者。2019年に「注意欠如・多動症(ADHD)」不注意優勢型の光と結婚。会社組織に所属するのは苦手で、フリーランスのグラフィックデザイナー・画家として文具などを作成している。描く絵は動物が多い。寝る時間が定まらないのが悩み。
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