連載
#17 凸凹夫婦のハッタツ日記
ADHDの夫を救った「バーコード決済」 自炊も無理なその日暮らし
お互いの凸凹を補いながら生活している注意欠如・多動症(ADHD)の西出光(ひかる)さん(26)と自閉スペクトラム症(ASD)の弥加(さやか)さん(33)夫妻。結婚後、光さんが苦手だったお金の管理にも変化がありました。夫・光さんの視点でつづります。(聞き手・西出弥加)
僕はお金の管理が苦手です。
そして管理ができないため、貯蓄もできませんでした。
数年前は明日の食事を買うお金もない時期がありました。例えば鍋を買い、自炊をすれば節約できる面が増えるものの、まず鍋を買うお金がなかったのです。
日払いでお金をいただき、次の日にはそのお金で単価が高いお弁当と小さいペットボトルの飲料を買っていました。
このスパイラルから抜け出せた理由は、まず携帯代と購入品の代金が合算できるバーコード決済アプリを使ったことです。これは携帯一つで食事や雑費などの支払いができ、携帯代と一緒に1ヶ月後に支払い金額が銀行引き落としされるというものです。
「1ヶ月後に支払いができる」というシステムのおかげで、とりあえず1ヶ月は現金が手元になくとも生活できるようになりました。
バーコード決済は「後から引き落とされる」という点でクレジットカードと似ているのですが、違う点があります。
バーコード決済は、使った直後に支払い金額が携帯画面に大きく表示され、使用履歴や合計金額も携帯画面でスグに確認できるのです。
僕は数年前クレジットカードを持っていなかったのですが、これは僕が持つと危ないかもと感じていたためです。不注意のせいでレシートを取っておくことができないため、いくら使ったのかスグに確認できませんし、支払い明細も取り寄せることができないだろうと思ったからです。僕は何かを取り寄せたり、何かを手元に残して記録するという手続きがかなり苦手なのです。
携帯はレシートと違って散らばることもありません。そして明細書と違い、取り寄せてポストを確認して封筒を開封する手間もありません。
それに携帯は毎日見ることができるので、大きな金額表示は自然と目に入ります。
これで僕は「使いすぎてないかな?」とざっくりでも確認ができて助かったのです。
バーコード決済ができる店舗のみで買い物をし、現金は使わず生活をしました。そして1ヶ月後に自動で使用額が銀行引き落としになりました。
そして同時に行った対策としては、自分に合った仕事を見つけ、シフトをまずたくさん入れたことです。
ここで僕が伝えたいことは、ただ急いで闇雲に仕事を増やせばいいということではありません。自分に合った環境だと思える職場を慎重に選び、シフトを入れることが大切です。
たくさんのシフトを入れさせてもらえたおかげで、以前のようにぼーっとする時間がかなり減り、単価の高い缶のお酒を大量に飲む時間もなくなりました。
そしてペットボトル飲料ではなく浄水器つきの水筒を持つことで節約もできました。
僕は水をかなり飲むので、1日に500mlのペットボトルを5本以上は買ってしまうと思います。
そうなると1ヶ月で約15000円になるのですが、浄水器つきの水筒のフィルターは1ヶ月で約500円です。水道水を入れたり家にある浄水器の水を入れているので節約になりました。
僕が貯蓄ができず金銭管理も苦手になってしまった理由としてもう一つ、ADHDの不注意による「物を失くしてしまうことが多い」という原因があります。
掃除ができないので、物が物の下に埋もれ、あるはずの物がないと感じてしまっていたのです。
この対策としては「透明ケース」に物を入れることで少し改善してきました。見えない収納ではなく、全て見える収納にして、できる限り物が目につくようにしたのです。
ないと思って同じものをいくつも買い、結果的に貯蓄がなくなり、金銭管理どころではなかったのですが、物を見えるところに置く、そして一つの物を大事にする意識を持つことでかなり改善しました。
バーコード決済にすることでスパイラルから抜け、少しずつシフトを増やし、じわじわと貯蓄額が上がっていったところで、初期費用を抑えて駅の近くに引っ越しました。これも節約につながりました。
シフトの合間の時間が2〜3時間あり、この空き時間を持て余してカフェに行っていたのですが、その必要もなくなり、家に少し帰りシャワーを浴びて出発するということができるようになりました。
毎日カフェでお茶を飲んでいたら、一杯500円だとしても月に15000円になるのですが、このお金も節約できるようになりました。
僕は細かな計算を毎日することが苦手でできませんが、こうした微々たる節約の積み重ねを奥さんのサヤカさんと話して、ざっくり支出を減らし、ざっくりと使用金額を眺めることができるようになったことで、結果的に何年かかけて金銭の管理ができるようになりました。
細かく完璧にしようとするのではなく、ざっくりとして見ることが成功につながりました。
西出 光(にしで・ひかる)
1995年生まれ。発達障害の一つ「注意欠如・多動症(ADHD)」の不注意優勢型と診断される。2019年に「自閉スペクトラム症(ASD)」のグラフィックデザイナー・弥加(さやか)と結婚。当初は家事が極端にできず、仕事も立て続けに辞めていたが、妻の協力の末、現在はホームヘルパーとして勤務。当事者の視点から、結婚生活においての苦悩や工夫、成功について伝えていきたい。
Twitter:https://twitter.com/Thera_kun
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