連載
#10 記憶をつなぐ旅
青い海を埋め尽くした軍艦 伊江島の「六日戦争」死闘の爪痕を巡る旅
子どもに伝えたい「平和の武器は学習」

青々と茂った木々が目に鮮やかで、白い砂と透き通った海のコントラストが美しい沖縄・伊江島。ダイビングスポットとしても人気で、ハイビスカスやユリが美しく、自然豊かな島です。しかし、77年前には「沖縄戦が凝縮した」とも表現される「六日戦争」が繰り広げられました。ロシアのウクライナ侵攻のニュースが連日流れるなか、島を巡りながら「戦争」を考えました。
フェリーで30分の美しい離島
島に近づいていくと、伊江島のシンボルでもある、とんがり帽子のようなかたちの「城山(ぐすくやま)」が見えます。

伊江港に着くと、土産物屋の入るオレンジ色の建物が出迎えます。レンタカーを借りて、島をぐるっと回ってみました。
6日間の苛烈な戦闘

当時島に残っていた住民も巻き込まれ、およそ半数にあたる1500人も亡くなりました。
砲弾を浴びてぼろぼろの戦跡

質屋跡から車で数分の「芳魂之塔」には、戦死した日本兵2000人と住民1500人が合祀されています。
今回、島に同行してくれた漫画家の新里堅進さん(75)は、昨年8月に漫画『死闘伊江島戦』(琉球新報社)を出版。体験者の手記や米軍の記録などをもとに克明に描き出しました。

新里さんは「両軍入り乱れて戦い、最後には村の女性も竹やりを手にアメリカ兵へ向かっていきました。こんなに住民が軍と一体となって戦ったところは伊江島のほかに思い当たりません」と話します。
ガマで起きた集団自決
島の東側にある「ハイビスカス園」から車で数分。今も残る「アハシャガマ」では、4月22日、日本兵が機雷とともに飛び込み、避難していた住民たちを巻き込んで約150人が亡くなりました。

本島の読谷村のチビチリガマでは83人が集団自決で死亡し、一方のシムクガマではハワイからの帰国者が避難した人々を説得して1000人の命が救われました。
「アメリカ軍に捕まったらもっとひどい目に遭う」といった〝教え〟が、いかに浸透していたかを考えさせられます。

住民たちが島に戻ると…
日本は南方への中継地にしようと1944年、住民を動員して〝東洋一の飛行場〟をつくります。しかし、米軍に奪われることを恐れ、ほとんど使わないまま翌年3月に爆破してしまいます。

強制移送された住民たちが2年ぶりに島へ戻ったときには、米軍の基地のほかには、家も畑もなかったといいます。
基地フェンスと紅芋の畑が隣り合う
1948年には、米軍の上陸用舟艇(LCT)の未使用砲弾などが荷崩れを起こして港で爆発。伊江島の住民たち107人が亡くなり、戦後最大の事故となりました。港のすぐそばに慰霊碑が残っています。
島の地図を見返すと、西側の大きな部分を「立ち入り禁止」の米軍演習場基地が占めているのが分かります。


オスプレイの音が鳴り響く

1961年には「伊江島土地を守る会」が結成され、基地のそばに「団結道場」が建設されました。

この日も団結道場のそばでは、米軍の航空機オスプレイが離着陸を繰り返していました。車の中にいても、うなるような音が聞こえてきました。
「平和の武器は学習」と伝えたい
非暴力で土地返還闘争の先頭に立ってきた故・阿波根昌鴻(あはごん・しょうこう)さんが私財を投じて開きました。

阿波根さんは20年前に101歳で亡くなりましたが、右腕として働いてきた謝花悦子さんがヌチドゥタカラの家の館長に就任。今も訪れる人に平和を訴えています。
「ロシアが侵攻して、また核が使われるかもしれないという危機も高まっている。戦争は人災だから人が止められるのに。とにかく今、焦っている」と話します。

「戦争と平和 どちらを選ぶか」
「これが第三次世界大戦の引き金になるかもしれない。そうしたら基地のある伊江島はまたやられてしまうかもしれないですよ。未来の保証は誰もできない」と声を落とします。

戦争と平和 どちらを選ぶか
城山は 現在を生きるわれわれに問い掛けているのかもしれない
◆伊江島の旅の楽しみ
伊江島蒸留所:2011年からつくられている伊江島のラム酒「イエラムサンタマリア」。島のサトウキビを絞ったシロップから造り、すっきりした味わいが特徴です。事前に申し込めば蒸留所が見学できます
ハイビスカス園:夏のイメージがあったハイビスカスは、沖縄では冬の花だそう。伊江島オリジナルの品種も見学でき、5月半ばごろまでは見頃が続くといいます
伊江島グルメ:役場近くの「すずらん食堂」では、沖縄そばとじゅーしぃのセットや野菜炒め定食といった沖縄ならではのグルメが楽しめます。ほかにも伊江牛を使ったハンバーガーやハンバーグが味わえる飲食店「エースバーガー」もおすすめです
沖縄本島北部・本部町の本部港まで車で約1時間半。
那覇市からは、那覇空港発の「沖縄エアポートシャトル(リゾートライナー)」や「やんばる急行」「系統番号117番高速バス(美ら海直行)」も利用可能で、所要時間は2~3時間ほど。
本部港からはフェリーで30分ほどで、島ではレンタカーやレンタサイクルも利用可能。