連載
#8 記憶をつなぐ旅
ダイビングスポットの島が経験した「六日戦争」 伊江島から見た軍艦
住民1500人も死亡 漫画家が描いた死闘

青々と茂った木々が目に鮮やかで、透き通った海が美しい沖縄・伊江島。沖縄本島からフェリーで30分とアクセスもよく、ダイビングスポットとしても人気です。しかし77年前には、沖縄戦が凝縮されたとも表現される「六日戦争」が繰り広げられました。この死闘をマンガで描いた新里堅進さんは、ウクライナの現状とも重ねながら、「同じことをまた繰り返さないよう、伊江島で起きたことを知ってほしい」と話します。
フェリーで30分の美しい離島
遠くからでも、とんがり帽子のようなかたちの「城山(ぐすくやま)」が見えます。伊江港に到着すると、土産物屋の入るオレンジ色の建物が出迎えます。

米軍上陸、77年前の苛烈な戦闘
こんなにのどかで自然を楽しめる島ですが、77年前にはアメリカ軍が上陸し、家ひとつ残らないような苛烈な戦闘が繰り広げられました。
島の「芳魂之塔」には沖縄戦で犠牲となった島民と軍人およそ約3500人がまつられています。疎開せず島に残った住民は約3000人といわれていますが、その半数にあたる1500人が命を落としたといいます。

伊江島の6日間の激戦「描かなければ」

2003(平成15年)年に初めて伊江島を訪れ、7、8回にわたり通い、取材を重ねました。漫画の完成までに3年の歳月がかかりました。
砲弾を浴びてぼろぼろの戦跡
この周辺が、島で一番の激戦地でした。当時の建物で残っているのはほぼこれだけです。

新里さんは「両軍入り乱れて戦い、最後には村の女性も竹やりを手にアメリカ兵へ向かっていった場所です。こんなに住民が軍と一体となって戦ったところは伊江島のほかに思い当たりません」と話します。
ガマで起きた集団自決
島の北東部に今も残る「アハシャガマ」では、4月22日、日本兵が機雷とともに飛び込み、避難していた住民たちを含む150人が亡くなりました。

同様の集団自決は、ほかの離島や沖縄本島のガマでも起きています。
新里さんは「今の視点なら『なんてことを』と思うでしょう。でも洗脳されてパニックになったら『とにかく死のう』と火をつけてしまう。本当にやるせない気持ちになります」と話します。
戦後も基地に苦しめられて
1948年8月6日には、米軍の上陸用舟艇(LCT)に積まれていた未使用砲弾などが荷崩れを起こして港で爆発。伊江島の住民たち107人が亡くなり、戦後最大の事故となりました。
米軍の基地にも苦しめられました。改めて伊江島の地図を見返すと、西側には米軍演習場基地があって「立ち入り禁止」になっています。

さらに、2年ぶりに島に戻ってきた村民たちは、米軍の飛行場が建設され、家ひとつ畑ひとつ残っていない様子を目にしました。

畑を耕し自給自足の生活を送ってきた伊江島の人びとは、「乞食行進」として沖縄本島を歩き、島の窮状を訴えました。この動きが、沖縄の土地を守っていこうとする活動「島ぐるみ闘争」の導火線になりました。

「復帰 権利が守られると思ったのに」
観光スポットでもある伊江ビーチから車で数分のところには、阿波根さんが開いた平和資料館「ヌチドゥタカラの家」(9~18時開館)があります。「ヌチドゥタカラ」は「命こそ宝」という意味です。

戦争当時14歳で、阿波根さんとともに土地闘争に携わってきた平安山(へんざん)良有さんは、「戦争のために使う土地は、一坪たりとも貸さない」と契約を結ばなかった反戦地主でした。
絞り出すように「復帰して日本国憲法のもとに帰ったら、自分たちの権利は守られると思ったんですけどね」と語ってくれました。

「過去を忘れる者は それを繰り返す」
島では苦難が現在進行形で続いていることを実感させられます。

過去を忘れる者は もう一度それを繰り返す」

新里さんは「これが第三次世界大戦の引き金になったら、基地のある伊江島はまたやられてしまうかもしれない。そうしてはいけないからこそ、ここでどんなひどいことが起きたのか知ってほしい」と願います。
「自分の劇画が、伊江島を知る『入り口』として役立ってくれればうれしいです」
◆伊江島の旅の楽しみ
伊江島蒸留所:2011年からつくられている伊江島のラム酒「イエラムサンタマリア」。島のサトウキビを絞ったシロップから造り、すっきりした味わいが特徴です。事前に申し込めば蒸留所が見学できます
ハイビスカス園:夏のイメージがあったハイビスカスは、沖縄では冬の花だそう。伊江島オリジナルの品種も見学でき、5月半ばごろまでは見頃が続くといいます
伊江島グルメ:役場近くの「すずらん食堂」では、沖縄そばとじゅーしぃのセットや野菜炒め定食といった沖縄ならではのグルメが楽しめます。ほかにも伊江牛を使ったハンバーガーやハンバーグが味わえる飲食店「エースバーガー」もおすすめです
沖縄本島北部・本部町の本部港まで車で約1時間半。
那覇市からは、那覇空港発の「沖縄エアポートシャトル(リゾートライナー)」や「やんばる急行」「系統番号117番高速バス(美ら海直行)」も利用可能で、所要時間は2~3時間ほど。
本部港からはフェリーで30分ほどで、島ではレンタカーやレンタサイクルも利用可能。
◆この記事は、withnewsとYahoo!ニュースの共同連携企画です。