ロシア軍によるウクライナ侵攻に世界の目が向けられる中、“新しい支援の形”としてSNSで話題になったのが民泊予約サイトAirbnb(エアビーアンドビー)です。いわば“裏技”的に広まった手法ですが、運営会社は前向きに受け止め、当事者も歓迎している模様。実際に支援すると、普通の寄付では得られにくい気づきがありました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
ウクライナ侵攻が深刻化する中、SNSで話題になった民泊予約サイトAirbnb。その内容は、同サービスを使って「ロシア軍による侵攻を受けるウクライナの人々を支援できる」というものでした。
具体的な方法は、いわば“空予約”。実際には宿泊しないウクライナの部屋を予約することで、部屋のホストに寄付ができるというもの。海外のアカウントだけでなく、日本国内からも「ウクライナの部屋を予約してみた」という投稿が相次ぎました。
取材をすると、Airbnbの広報担当者も、前向きに受け止めていることを明かしました。また、ウクライナのAirbnbホストにもメッセージで話を聞いてみると、こうした寄付を歓迎しているということでした。
一方で、「相手がウクライナ人かどうかわからない」「フェイクの物件による詐欺の可能性もある」など、リスクを指摘する声も多く上がりました。Airbnbが個人の間の取引である以上、利用者の判断に頼る面はありそうです。
記者は3月11日、こうしたリスクに留意してやりとりした後、ウクライナのキエフにある2部屋を予約し、使用料を寄付することにしました。部屋の主は、メッセージのやりとりをしたイグナートさんとミハイルさんです。2人とも自身の厳しい経済状況を記者に説明し、Airbnbによる寄付に感謝をしていました。
実際に寄付をしてあらためて感じたのは「相手が個人である」ということでした。
記者が支援したイグナートさんやミハイルさんのプロフィール、現在の状況がどこまで本当なのかは、緊急事態下で裏付けができない今は、証明できません。自分にそう説明してくれた画面の向こうの個人を支援したいかどうか、という判断をすることになります。
今回、記者が手がかりにしたのは、ロシアによる侵攻前に、イグナートさんが宿泊者とウクライナの魅力について、Airbnb上でやりとりしていたコメントの履歴や、ミハイルさんがメッセージで語った、ウクライナへの思いでした。
どのような立場であれ、今の状況に困っていて、ウクライナのことが好きな人なのだろう、と。感覚としては、クラウドファンディングのプロジェクト支援に近いものでした。
同時に、Airbnbをしている人、その中の多くても数名にしか支援ができないということへのもどかしさも感じました。それでも納得できたのは、「これはウクライナ支援ではなく、あくまでイグナートさん、ミハイルさんへの支援なのだ」と受け止めた面があったからかもしれません。
この、普通の寄付では感じなかったであろうモヤモヤこそが、振り返ると一番、大きな気づきでした。
これまで例えば「難民支援」として寄付するとき、一人ひとりの顔を思い浮かべることはありませんでした。それが個人同士が直接つながる「C to C」取引プラットフォームを介することで、「難民」とは個人の集まりであることがはっきりしたのです。
個人とやりとりすることで、「ウクライナの問題」ではなく、家族がいて生活の心配をするなど、自分と共通するところもある、生々しい「イグナートさんやミハイルさんの問題」になりました。
2021年12月に発表された『寄付白書2021』によると、コロナ禍を境に政府やNPOへの信頼が下がった一方、「身近な人との助け合い」「見知らぬ他者との助け合い」が強まっているそうです。
寄付という社会参加において、個人の存在が大きくなっているのだとしたら、Airbnbを介した支援が話題になるのもうなずけます。
個人同士のやりとりでは、自分自身で情報の真偽などを見極める必要が出てきます。詐欺などの犯罪が、個人のディテールに説得力を持たせて行われることは、常に警戒する必要があります。
そのような懸念点があるとはいえ、今回のような取り組みから得られる経験は少なくありませんでした。
危機に直面している人がいて、その人たちのために自分ができることを考える。そのきっかけは多ければ多いほどいい。Twitterを検索すれば、現地から情報を発信しているアカウントを見つけることができます。そのいくつかにDMを送るだけでも別の世界が見えてくるかもしれません。
「見守る」ことも一つの行動です。記者自身、伝えるという仕事をしていることをある意味では言い訳に、結果的にそう選択することが多くありました。
でも、もし、自分も何かしたいと思うのなら。できることは今の時代、これまでより多くあるし、新しく方法自体を生み出すこともできる。そんなことを実感しました。