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#83 #となりの外国人

看板壊されたロシア食品店、訴えた「私たちは人間です」

店員、実はウクライナ人「懸け橋に」

倒された「赤の広場」の看板。金具付近が折れている
倒された「赤の広場」の看板。金具付近が折れている 出典: ロシア食品専門店 “VictoriaShop” (@victoriashop_ru)のツイッター

目次

ロシアによるウクライナ侵攻から、日本に住んでいるロシア人やロシア関連施設への嫌がらせが起きています。東京・銀座にあるロシアの食品を扱っている店では、店の看板が何者かによって破壊されました。この店の代表はウクライナ人女性でした。取材に「私たちは人間です」と強調した、思いを聞きました。

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「どんな国の出身者でも」

東京・銀座にあるロシア食品専門店「赤の広場銀座店」で事件があったのは、2月28日夕方でした。スタッフが店内で接客中、店先で、大きな物音を聞きました。

外に出ると、店の前に置いてあった木製の立て看板が倒れ、金具が木ごとバキっと割れていました。

看板にぶつかり、走り去ったと見られる自転車が見えました。「戻ってきて謝ってくれたら、それで良かったのですが、そのまま立ち去ってしまいました」

割れた店の看板
割れた店の看板

記者が店を訪ねた3月3日、看板は仮に交換されていました。

店は2日夜、ツイッターで店の看板の破壊について、こうツイートしました。

「店名のせいでしょうか」
「実は当店代表はウクライナ人、スタッフもウクライナ人、ウズベク人、日本人です」
「私たちがどんな国の出身者でも、お店と政治につながりはありません」
「私たちは日本とウクライナ、ロシア、その他の国々との懸け橋になりたいという気持ちで働いています」

この投稿が拡散されると、「日本人として謝りたい」というコメントもつきました。一方で、店のスタッフは「壊した人が、日本人かどうかも分かりません」と決めつけはしませんでした。

近く、警察へ被害届を出すことを検討しています。

日本人客も献花「平和祈る」

開店してまもなく1年。これまで、このような被害はありませんでした。

店では、マトリョーシカが迎えてくれます。ロシアに限らず、ウクライナ、ウズベキスタン、ベラルーシなどさまざまな国の食材を扱っています。

レジの後ろに掲げられた絵画は、店名にもなったロシアの首都モスクワにある「赤の広場」。

「旧ソ連の中心地であり、『美しい』という意味の名を冠した広場であることから、店名にしました」。そう答えてくれた女性スタッフは、ウクライナと日本人の親を持つ日本育ちの方でした。

店の入り口には花を置いた小さな台がありました。「平和を祈ります」という貼り紙。
ウクライナ情勢が緊迫した先月22日にスタッフが花とともに設置したところ、「応援しています」と献花してくれる日本人客もいました。

店のスタッフと、日本人客が「早く平和になるように」と願いを込めて献花した
店のスタッフと、日本人客が「早く平和になるように」と願いを込めて献花した

うちの子が大好きです

店の代表はウクライナ出身で、来日20年、日本で2人の子どもを育てながら、働いてきたそうです。厳選した食品を輸入する仕事を14年間続け、念願の店舗を開きました。

ウクライナ人女性に店の一番人気を聞くと、「プレミアムチーズですね。チョコレートでコーティングしたり、コンデンスミルク入りだったりと、チーズケーキみたいな味わいなんです」。

「ヴァレニキもおいしいですよ。ジャガイモとキノコ入り、カッテージチーズ入りも、甘くて、うちの子が大好きです。もともと家庭料理なので、ロシアとウクライナで、少しレシピは違うんですが」

うれしそうに、自信を持って紹介してくれた多くは、原産国名が「ロシア」でした。輸入が難しくなっていますが、「なんとかお店を開いていたい」と話します。

子どもたちが大好きだという水餃子「ヴァレニキ」
子どもたちが大好きだという水餃子「ヴァレニキ」

「これはただの食べ物です」毅然と

「ロシア」とつけば避けられてしまう、そんな風潮に心を痛めます。

筆者が「ウクライナ出身で、いま祖国に侵攻しているロシアの食べ物を扱うことに抵抗はないですか?」と質問すると、女性は毅然と答えました。

「これはただの食べ物です」

政治的な争いに、文化や国籍がターゲットになることに違和感を訴えます。

「私たちは、人間です。みんな同じ、普通の人間です」

店に掲げられた「赤の広場」の絵
店に掲げられた「赤の広場」の絵

半径5メートルは平和なのか

おすすめのロシア食材を買い込んだ帰路、筆者は女性の言葉を反すうしていました。

「ロシア」を標榜したと思われる嫌がらせ。店には取材陣が集まっていました。でも、スタッフたちは誰も「私たちはウクライナ人です」と反論しませんでした。

「私たちは、人間です」

それ以上に、強い反論はないだろうと感じました。

こういうニュースが流れると、個人が薄くなり、国籍や出身地に目が向いてしまいがちです。

でも、少なくとも私たちの半径5メートルで向き合っている人を見れば、日本でともに暮らし、同じように働き、子育てをし、悩み生きている人です。

もちろん、出身地や国籍にかかわらず、看板を壊す行為や、誹謗中傷、嫌がらせは絶対にあってはいけません。もし「正義」や代弁者を気取っても、それはただの犯罪です。そう、何度も言っていかなければいけません。

「同じ人間です」

戦争によって国と国が分断されてしまっているのなら、なおさら、いま暮らしているこの日本では、出身地で線引きされ、さげすまれる経験をしてほしくありません。同じ日本で暮らす隣人同士、困難な時代を乗り越える知恵を、ともに絞れたら。

まずは半径5メートルを思いやることから、平和を考えていけたらと思います。

マトリョーシカの人形が迎える「赤の広場」の店内
マトリョーシカの人形が迎える「赤の広場」の店内

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