ロシア軍によるウクライナ侵攻に世界の目が向けられる中、“新しい支援の形”としてSNSで話題になったのが民泊予約サイトAirbnb(エアビーアンドビー)です。いわば“裏技”的に広まった手法。Airbnbとしてはどう受け止めているのでしょうか。運営会社を取材しました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
3月上旬、ロシアによるウクライナ侵攻が深刻化する中、意外なネットサービスの名前が、スマホ上で目に飛び込んできました。民泊予約サイトAirbnbです。
民泊をしたい人と、民泊のために部屋を貸したい人をマッチングさせる世界最大手のサービスであるAirbnb。一見すると、戦禍のウクライナとは関係ないどころか、一番、縁遠い存在です。
このAirbnbが、TwitterやInstagramなどのSNSで、世界的に大きな話題を集めていたのです。その内容は、同サービスを使って「ロシア軍による侵攻を受けるウクライナの人々を支援できる」というものでした。
具体的な方法は、いわば“空予約”です。実際には宿泊しないウクライナの部屋を予約することで、部屋のホストに寄付ができるというもの。海外のアカウントだけでなく、日本国内からも「ウクライナの部屋を予約してみた」という投稿が相次ぎました。
SNS上では、国や組織ではなく、個人を直接、支援できることを「画期的」などと評価する投稿が複数ありました。また、個人と個人をつなげる「C to C」の取引プラットフォームの仕組みを利用した活動であることから、Airbnb以外のサービスでも支援ができる可能性に言及するアカウントもありました。
3月4日、Airbnbは公式サイトで「ウクライナでの宿泊予約を通して、ウクライナの人々をサポートする草の根的な動きが起きていることを確認した」と発表。それによると、3月2、3日で、ウクライナの民泊物件に世界から6万泊以上の予約がなされ、日本円にして総額2億円以上がホスト側に届く計算になるということでした。
一方で、こうした利用法のリスクについて注意する投稿もありました。具体的には、例えば物件のオーナーがウクライナ人なのかわからないこと、フェイクの物件による詐欺かもしれないこと、などが指摘されました。
気になるのは、そもそもAirbnbで“空予約”をしていいのか、ということです。
Airbnbとしては、こうした状況をどのように受け止めているのでしょうか。日本法人のAirbnb Japanを取材しました。
実は、Airbnbが国際的な紛争で注目されたのは今回が初めてではありません。同社は関連する非営利団体Airbnb.orgと以前からシリアやベネズエラ、アフガニスタンなどの難民支援に取り組んできました。
そして、今回のウクライナ侵攻においても、2月28日、最大10万人のウクライナ避難者に対し、短期滞在できる住居を無料で提供すると発表しています。
同社によれば、これまで難民に住居を提供するために登録したのは3万人以上。そのうち1万7000人以上はウクライナ侵攻後(2月末以降)に登録したということです。
このような状況下で、Airbnbの最高経営責任者(CEO)ブライアン・チェスキーさんはTwitterで“クールなアイデア”として盛んに今回の新しい支援の形を紹介しました。しかし、“空予約”は本来、サービスとして想定外の使い方のはずです。さっそく同社に見解を聞いてみました。
Airbnbの広報担当は前述した公式サイトの文言を引用し「この危機の中で、私たちのコミュニティが示す寛大な態度に身が引き締まる思いです」と、前向きに受け止めていることを強調。
続けて「現時点では、Airbnbはウクライナでの予約に関するゲスト・ホスト双方への手数料を一時的に免除しています」と説明しました。同社によると、ウクライナからの避難者への住居提供において利益は得ていないということです。
一方で「(難民に住居を提供する支援をしている)Airbnb.orgの活動に参加することに関心のある人は特設ページにアクセスし、ホストになるか寄付することによってウクライナから避難する難民に住居を提供するAirbnb.orgの取り組みへのサポートを勧めます(※)」と、別の支援の方法も案内しました。
※ただし、Airbnb.orgは3月15日現在、日本国内での住居提供や寄付の受付を開始していない。
手数料の免除により、事実上、ウクライナの民泊物件の予約はしやすくなります。基本的には公式の方法での支援を推奨しているものの、“クールなアイデア”、すなわち“空予約”は、ウクライナにおいて現時点で否定するものではないようです。