ロシア軍によるウクライナ侵攻に世界の目が向けられる中、“新しい支援の形”としてSNSで話題になったのが民泊予約サイトAirbnb(エアビーアンドビー)です。いわば“裏技”的に広まった手法ですが、運営会社は前向きに受け止めている様子。では、ウクライナ人にはどう受け止められているのでしょうか。“当事者”に話を聞きました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
ウクライナ侵攻が深刻化する中、SNSで話題になった民泊予約サイトAirbnb。その内容は、同サービスを使って「ロシア軍による侵攻を受けるウクライナの人々を支援できる」というものでした。
具体的な方法は、いわば“空予約”。実際には宿泊しないウクライナの部屋を予約することで、部屋のホストに寄付ができるというもの。海外のアカウントだけでなく、日本国内からも「ウクライナの部屋を予約してみた」という投稿が相次ぎました。
Airbnbの最高経営責任者(CEO)ブライアン・チェスキーさんはTwitterで“クールなアイデア”として盛んに今回の新しい支援の形を紹介。Airbnbの広報担当者も、前向きに受け止めていることを明かしました。
一方で、「相手がウクライナ人かどうかわからない」「フェイクの物件による詐欺の可能性もある」など、リスクを指摘する声も多く上がりました。Airbnbが個人の間の取引である以上、利用者の判断に頼る面はありそうです。
SNSで盛り上がる活動と議論。では、当事者であるウクライナのAirbnbホストはどんな人で、どんな気持ちでいるのでしょうか。
Airbnbでは、宿泊の予約をする前に、ホストにメッセージを送ることができます。まずは話を聞いてみようと、キエフで部屋を公開するホストに、連絡を取ってみることにしました。業者ではなく、なるべく個人が自分の部屋を貸し出していそうなアカウントを、写真や、これまでの利用者とのやりとりをチェックしながら探していきます。
まずは一人、それらしきホストを見つけて、英語とウクライナ語でメッセージを送りました。日本で記者をしていること、無事を祈っていること、可能であれば取材として話を聞かせてほしいこと……。
すぐには返信がないだろうと思っていた数時間後、ウクライナ語でメッセージが届きました。
ウクライナのAirbnbホストであるイグナートさんが記者に説明したプロフィールは次のようなものです。35歳の男性で、建築の仕事をしていて、33歳の妻がいる、ウクライナ人で、今もキエフに住んでいる……。
「キエフの外では激しい戦闘があるようですが、キエフは現在、小康状態にあると感じます(※3月11日のメッセージ時点)。ロシア軍による包囲が狭まっているという報道もありますが、取り乱してはいません。私は神を信じています。神がウクライナを救ってくれると」
Airbnbを通じた寄付についてどう思うか、聞いてみました。「私たちは大半が働くことのできない状態です」「私たちの生活は友人からの送金や、海外からの寄付に非常に助けられています」とイグナートさんは言います。
印象的だったのは、メッセージの中に頻ぱんに「神」という言葉が使われていたことです。イグナートさん個人の信仰、緊急事態下での心理なども影響しているかもしれませんが、それだけでも文化の違いを感じる経験でした。
複数の宿泊者とのコメントの履歴から、数年前からウクライナでAirbnbのホストをしていることを確認。しばらくやりとりをして、イグナートさんの部屋を一泊分、予約することにしました。イグナートさんからは「ありがとう! 神のご加護がありますように」と返信がありました。
もう一人、同じようにキエフで部屋を公開していたミハイルさんに話を聞くことができました。ミハイルさんは妻と娘のいる男性で、Airbnbの部屋の説明で予約による寄付を呼びかけていました。ミハイルさんとのやりとりは英語のメッセージで行いました。
「私のアパートのすべての予約に感謝しています。ウクライナとウクライナ人への支援は、私たちが今、本当に必要としているものだからです」
約2週間前、ミハイルさんは家族と一緒にキエフを離れ、より安全なウクライナの別の都市に移ったと言います。
少なくともまだその都市では爆発がないこと、しかし1日に2回は空襲警報が聞こえること、そうした危険から逃れるために、妻と娘は1週間前にリトアニアに脱出したことを話してくれました。
ミハイルさんは国際的な大手企業に勤務し、当座の給与は約束されたと明かします。しばらくは現在の都市で在宅勤務も許されたそうです。
しかし、国際的な企業だからこそ、戦争が続けば生産性の下がった自分を雇い続けるメリットがなくなり、現地通貨の価値の低下などもあわせて、すぐに経済的に苦しくなるだろう、と見込んでいました。そのため、Airbnbを通じた寄付の呼びかけをするに至ったと言います。
ミハイルさんは自身のルーツをウクライナに住む「半ウクライナ人+半ロシア人」だと説明しました。キエフの家には帰れず、家族にも次にいつ会えるかわかりません。自らが武器を持ってロシアと戦う可能性もあります。一方、ロシアに親戚や親しい友人もいて、その立場は「非常に難しい」と言います。
ウクライナにも多様なルーツの人はいて、このような状況下で、身を裂かれるような思いをしていることは、実際にこうして話されないと、実感しづらいことでした。
ミハイルさんは「日本の人々にもウクライナの現状を知ってほしい」と、メッセージを頻ぱんに送ってくれました。その中にあったさまざまな情報を踏まえ、「一日も早く家族と一緒に元の暮らしに戻れますように」と伝え、ミハイルさんの部屋も一泊分の予約をしました。