連載
#126 ○○の世論
〝諦め〟から投票したのは誰? 「沈黙」に世論調査ができること
賛成でも反対でもない…声なき声
1月23日に投開票された沖縄県名護市長選で、自民、公明が推薦する現職が再選を果たしました。1996年に米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画が浮上してから、名護市長選ではこの問題に対する候補者の姿勢がいつも注目されてきました。ただ、現職の市長は基地移設について態度を明確にしてきませんでした。どのような理由で市民は現市長を選んだのでしょうか。朝日新聞が投開票日1週間前に実施した市民対象の世論調査から、気持ちを読み取っていきます。(朝日新聞記者・石本登志男)
世論調査では、投票で最も重視することを4択で聞きました。「地域振興策」が50%と半数を占めて最多で、「普天間飛行場の移設問題」30%、「支援する政党や団体」9%、「経歴や実績」6%と続きました。前々回(2014年)、前回(18年)と比べても「地域振興策」の増え方が顕著で、前々回23%、前回39%と増加傾向が続く一方で、「移設問題」は、前々回56%、前回41%と減り続けました。
この間、移設問題についての争点が市を二分する争点となる中、工事は着実に進み、国の姿勢は変わりませんでした。「地域振興策」を重視する人の多くは現職に投票すると答え、「移設問題」を重視する人の多くは反対派の候補に投票すると答えていましたが、市民にとって重視する点が徐々に変わったことが選挙結果に裏付けられていると見てよいのかもしれません。
では、普天間飛行場を名護市辺野古に移設することについての賛否に変化はあったのでしょうか。今回の調査では「反対」が54%、「賛成」24%でした。前々回は反対64%、賛成19%で、前回は反対63%、賛成20%でした。
反対が過半数を占めているのは変わらないものの、この4年間で反対は少なくなり、賛成がやや増えています。今回の調査では、賛成の人の多くは現職に投票すると答え、反対の人の多くは反対派の候補に投票すると答えていましたが、賛成とも反対とも答えなかった「その他・答えない」(22%)の人の多くが現職に投票すると答えていたことは特徴的でした。
名護市民は97年の住民投票で基地移設の反対多数の意見を示していましたが、移設計画は進んでいきました。19年、辺野古の海に土砂が投入された後の県民投票でも、埋め立て反対が7割を上回りましたが、政府は作業をやめようとしませんでした。
名護市長選の結果を受けて、1月25日付の朝日新聞朝刊・天声人語では「そのやり方は家庭内暴力の手口さえ思い起こしてしまう。(中略)反対しても無駄だと思わされてきた末の結果だろうか。過去最低だった投票率からも、諦めの気持ちがにじんでいる」と触れています。沈黙する市民からも意見を聞くのが世論調査の役割と考えています。これからも市民の意見を聞き、報道していきます。
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