コロナ禍で心の健康にもさまざまな影響が出ているこの2年。子どもの摂食障害の患者数も急増してしまいました。緊急事態宣言でやりがいや気晴らしが失われ、〝コロナ太り〟といった言葉も目につきやすい環境。「自分でコントロールできる」と考えられる体重・食事に意識が向かってしまう子が多かったといいます。
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全国26の医療機関では、2020年度は神経性やせ症の初診外来患者数が男子は28人、女子は230人でした。コロナ流行前の2019年度と比較すると男女ともに1.6倍に増加していました。新入院者数は女子で1.4倍に増加しています。
摂食障害のひとつ「神経性やせ症」は「拒食症」とも呼ばれ、食事を極端に制限したり、食後に吐き出したり過剰な運動をしたりして、正常な体重よりも明らかに低くなる病気です。最悪の場合、命を落とすケースもあります。
子どもの神経性やせ症の患者数が増えています 出典:国立成育医療研究センター提供
記者は5年ほど前から摂食障害の当事者に話を聞いてきました。コロナ禍の環境の変化で、「食」や「からだ」との向き合い方に困難を抱えている人は、子どもだけでなく大人にも増えていると感じています。
子どもたちが摂食障害に陥るきっかけとして急増したのは「やりがい」「気晴らし」が失われてしまったことだといいます。
部活動などの発表会や競技会がなくなった、友人たちと遊べない、ステイホームで居場所がない……。
日本摂食障害協会理事長の鈴木眞理さんは「子どもにとっての1,2年はとても長く、影響が大きい。大人だって落ち込む状況なのに、子どもならなおさらでしょう」と指摘します。
SNSやメディアなどで「コロナ太り対策」の情報も流れています 出典: ※画像はイメージです GettyImages
国立成育医療研究センターが実施した「コロナ×こどもアンケート第5 回調査」(2021年2月~3月に実施)では、6~18歳の回答者約500人のうち76%に何らかのストレス反応がみられたそうです。
鈴木さんは「『コロナ太りや運動不足に気をつけて』といったささいな一言や、SNS・インターネットの誤ったダイエット情報などが、過度な『やせ』や摂食障害へ向かわせてしまう」と指摘しています。
記者が取材したケースでも、休校で気持ちがふさぎ、だんだんと食事や生活に「マイルール」が増えていき、炭水化物や肉類を食べられなくなってしまった女の子がいました。
160センチの女の子は、一時34キロまで体重が減ってしまいましたが、「入院治療」を勧められたときにハッと気づいて「食べる」ことを再開します。
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女の子のお母さんは「重症度に差はあれど、摂食障害は誰でもなりえる病気」といいます。
「それなのに摂食障害になってしまっても、病院選びすら手探り。本人だけじゃなく親も孤独になりがちです」「こころの回復はなかなか目に見えませんが、社会の認知度が上がり、あたたかく見守ってもらえるようになるといいなぁと思います」
暮らしが大きく変わるストレスのなか、自分の意識で何とかできるような、そしてなんとかしなきゃいけないように感じる身近な「食べ物」や「からだ」。それに目が向いてしまうのは当然のことと思います。
摂食障害を親身になって治療する医療機関がさらに増えたり、ピアサポートが充実したりしてほしいと願います。
小枝さんは「食べていない子どもに聞いても『食べていない』とは言いません」と指摘します
出典: ※画像はイメージです GettyImages
そもそも、体重管理や健康維持を含めて、「自分のからだを自分で完全にコントロールできる」なんて、おこがましいんじゃないか……。
ここ数年、記者はそう感じるようになってきました。「からだはコントロールできる」という考えが、「病気は予防できるもの」といった自己責任論にもつながるように感じます。
もちろん、暴飲暴食をしまくって運動を全くせずに生きていきましょう!とおすすめしたいわけではありません。
管理ではなく「整える」ような、「からだが心地のよいものを(できるだけ)選ぶ」のが、今の自分には一番フィットしています。そうすると心持ちも元気でいられるような気がするからです。
体型にコンプレックスのあった記者は、「やせたい」気持ちはいまだにあるものの、体重といった「数字」に一喜一憂することはなくなりました 出典: ※写真はイメージです Getty Images
忙しくてヨガに行きそびれ、からだが重く感じる……だから夜に少し走っておこうかな、とか。きのう飲み過ぎた気がするから、きょうはごはんを少なめにしておこうかな、とか。でも気の置けない人たちと大笑いして楽しかったなぁ、とか。大好きな果物を食べたら気分が上がるし、肌の調子もよく感じるなぁとか。
〝適切なダイエット〟に取り組んで一見、体重管理に成功したような気がしても、少しずつムリが積み重なっていたら、どこかでボロが出るような気がします。それに、社会の「やせプレッシャー」や「他者の外見への評価」をずっと気にして生きていくのもしんどいです。
記者が摂食障害を取材し始めたのは5年ほど前。小さな頃からぽっちゃりした身体はコンプレックスで、体型をからかわれたり、悪気はなくても「なんか太った?」と尋ねたりされることに、少なからず傷ついてきました。
そんなささいな出来事がきっかけで、「摂食障害」という心の病気になってしまうことがある――。
出典: ※写真はイメージです Getty Images
取材を進めると、性別や年齢に関係なく多くの人が「やせなきゃ」と思い詰めていると知りました。ダイエットを始める年頃がどんどん低年齢化していることも。
「体型に悩んでいたのはわたしだけじゃなかった」という気持ちと、「なんでこんな思いをしなきゃいけないんだろう?」「どうしてやせてなきゃいけないんだろう?」という気持ちが芽生えました。
取材を始めてすぐ、拒食や過食に苦しむ人へインタビューを重ねた文化人類学者の磯野真穂さんの本『なぜふつうに食べられないのか』に出会いました。
磯野さんにお話を聞くと、「そりゃあ『やせたい』と思いますよね。社会に『やせた方がいい』という風潮が強すぎるから」と話してくれました。
その瞬間、「そうか、社会の『やせた方がいい』というメッセージに合わせなきゃと思っていたんだ」と視界が一気に晴れたのを思い出します。
多種多様なからだ。全員が〝シンデレラ体重〟なんて目指せるはずがない。そもそも「やせた方がいい」って誰が決めたんだ?
そんなことに気づいて、「人のからだに『やせろ』と言ってくる方がおかしいな」「人の外見に口出しするって恥ずかしいことだな」と感じるようになりました。
徐々に社会が変わってきていることも感じます。
外見で人を評価したり、「見た目」が不必要な場面でも外見で判断したりといった「ルッキズム(外見による差別や偏見)」が批判されるようになり、人の外見に言及するべきではないという考え方も広まってきています。
磯野さんが編集者の林利香さんと立ち上げた「からだのシューレ」に参加することになり、プラスサイズモデルの吉野なおさんと「からだ」をテーマにイベントを開催したときには、合言葉を「bodyをbuddyに」としました。
自分とは切っても切り離せないからだ。まるっとすべてを愛せなくても、相棒にできたら生きやすくなると感じたからです。
2022年は、自分の「からだ」を全力で否定するような人が少しでも減ったらいいなと思います。
◆体験談をお寄せ下さい
コロナ禍を経て、「太るのが嫌で食べるのが怖くなった」「食事量が減った」など、子どもの「食べる」にまつわる変化はありましたか。
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