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キリスト看板、産み落とされる瞬間を見た 聖書配布協力会の制作現場

佳境を迎えた作業場に、初めて取材カメラが入った。

乾燥用のラックに収められる、できたての「キリスト看板」
乾燥用のラックに収められる、できたての「キリスト看板」 出典: 北林慎也撮影

目次

田舎道を流していると、至るところで出くわす「キリスト看板」。この謎めいた看板が産み落とされる現場を見てみたい。年に一回の看板制作が佳境を迎える12月上旬、聖書配布協力会の活動拠点を訪ねた。(北林慎也)

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【動画】キリスト看板ができるまで(撮影・編集=北林慎也)

文字通り神出鬼没

黒地のトタン板に聖書の言葉が染め抜かれたキリスト看板。
郊外のさびれた農機具小屋などに、消費者金融の看板や政治家ポスターと並んで貼られているのが定番だ。
日本全国どこを走っても忘れた頃に目にするぐらい、文字通り神出鬼没の出現確率を誇る。

90センチ四方、4Lサイズの「神と和解せよ キリスト」。文字の一部が黒く塗りつぶされ「ネコと和解せよ」と書き換えられた看板もあるという
90センチ四方、4Lサイズの「神と和解せよ キリスト」。文字の一部が黒く塗りつぶされ「ネコと和解せよ」と書き換えられた看板もあるという 出典: 北林慎也撮影

この貼り主は、宮城県丸森町に本部があるプロテスタント系クリスチャンの集まり「聖書配布協力会」。
自らの教義や教祖を持つ宗教法人ではなく、会の趣旨に賛同する支援者らが活動を支える。
日々、聖書を要約した冊子の配布やプラカードによる街宣といった「伝道活動」に飛び回っている。

【丸森町の本部に潜入取材】2019/11/20
「死後さばきにあう」は廃版だった キリスト看板、制作の裏側に迫る
看板バリエーションの中で最も大きい5Lサイズ。2枚を重ね合わせて貼る。「畳サイズ」と呼ぶこともあるという
看板バリエーションの中で最も大きい5Lサイズ。2枚を重ね合わせて貼る。「畳サイズ」と呼ぶこともあるという 出典: 北林慎也撮影

西日本の活動拠点に

このうち、キリスト看板を貼って回るのが「看板部隊」だ。
めぼしい場所を探しては家主に掛け合い、許可を得られるとそこに適した1枚を貼る。
家主側のリクエストに応えて選ぶこともあるという。

聖書配布協力会の「看板部隊」朝岡龍さん手製の看板貼りチェックリスト。設置のたびに場所や文言を記録していき、将来のメンテナンスの参考にする。キリ看ファン垂涎の貴重なデータベースだ
聖書配布協力会の「看板部隊」朝岡龍さん手製の看板貼りチェックリスト。設置のたびに場所や文言を記録していき、将来のメンテナンスの参考にする。キリ看ファン垂涎の貴重なデータベースだ 出典: 聖書配布協力会提供

その実務を取り仕切るのが、23歳で洗礼を受けた朝岡龍さん(33)。
一昨年、青森県内での看板貼りの現場に押し掛けて同行取材させてもらった、アウトドア好きの頼もしいキリスト者だ。
今回さらに「看板を作る現場を見てみたい」と頼み込んで、作業風景の取材が叶った。

【看板貼り活動に同行取材】2019/11/19
キリスト看板、貼られる瞬間を見た 聖書配布協力会の伝道活動に密着
聖書配布協力会の「看板部隊」朝岡龍さん。手にするのは、都市部で重宝するステッカー型。雨どいなど細長い場所に貼ることが多い
聖書配布協力会の「看板部隊」朝岡龍さん。手にするのは、都市部で重宝するステッカー型。雨どいなど細長い場所に貼ることが多い 出典: 北林慎也撮影

キリスト看板は毎年、秋から冬にかけて新たに作られる。
昨年までは、時期が来ると全国の遠征先から宮城の本部に戻って制作に着手していたが、今年は香川県さぬき市で制作を始めた。

活動拠点に並ぶ、聖書配布協力会のワンボックス車
活動拠点に並ぶ、聖書配布協力会のワンボックス車 出典: 北林慎也撮影

本部が手狭になったため、会の協力者が経営していた建設会社の倉庫を借りて作業場に仕立てた。
今後は、これまで比較的手薄だった西日本での活動の拠点としても整備していくという。

ステッカー型をマグネットに貼り付けた「マグネット型」。脱着が簡単なため、伝道初心者にもオススメだという
ステッカー型をマグネットに貼り付けた「マグネット型」。脱着が簡単なため、伝道初心者にもオススメだという 出典: 北林慎也撮影

公式アパレルも制作

コロナ禍で、学校前での冊子配布を控えるなど活動への影響は続いているが、看板貼りは徐々にペースを取り戻してきた。
よく出るMサイズを中心に、大きさや文言をバランス良くそろえるべく翌年に向けてストックを補充するのが、例年この時期に看板を作る目的だ。

【コロナ禍と伝道活動】2020/05/07
「キリスト看板」聖書配布協力会の今 コロナの中、看板設置に変化
手頃な大きさで最も多く貼られる、縦長のMサイズ看板
手頃な大きさで最も多く貼られる、縦長のMサイズ看板 出典: 北林慎也撮影

12月上旬、佳境を迎えた作業場に案内してもらうと、10人ほどのメンバーが看板作りを続けていた。

聖書配布協力会のメンバー10人ほどが看板制作に従事する
聖書配布協力会のメンバー10人ほどが看板制作に従事する 出典: 北林慎也撮影

同会は海外でも活動しているだけに、顔ぶれは国際色豊かだ。
12年前にタイから来日したサミュエル・ブラントンさん(30)はアイデアマンで、キリスト看板のデザインを模したウェアやバッグを手作りしている。

「神の御言葉」刺繍入りスウェットを手にするサミュエル・ブラントンさん。朝岡龍さんと同じく看板貼りを担当している
「神の御言葉」刺繍入りスウェットを手にするサミュエル・ブラントンさん。朝岡龍さんと同じく看板貼りを担当している 出典: 北林慎也撮影

完成度の高さに驚いた記者が商品化とオンライン販売を提案したが、あくまで非営利の伝道のためのものだそうだ。

サミュエル・ブラントンさん手作りの、オリジナルのダウンベスト。「看板以外にも神の御言葉を伝える方法を模索したい」と考案した
サミュエル・ブラントンさん手作りの、オリジナルのダウンベスト。「看板以外にも神の御言葉を伝える方法を模索したい」と考案した 出典: 北林慎也撮影

想像とは逆の手順

看板の作り方は、多くの人が想像するであろう手順とは異なる。

各サイズに裁断され、黄色い塗料が塗られたトタン板
各サイズに裁断され、黄色い塗料が塗られたトタン板 出典: 北林慎也撮影

サイズごとに裁断された厚さ0.27ミリの白いトタン板に、まずは看板のアクセントとなる黄色い文字のあたりに、ざっくりと黄色の塗料を塗る。

黄色い文字の部分には、ざっくりと黄色いペンキが塗られている
黄色い文字の部分には、ざっくりと黄色いペンキが塗られている 出典: 北林慎也撮影

しばらく乾燥させたのちに、文字部分をマスキングした木製の型枠やシルクスクリーンで、黒く塗りつぶす。

黄色を塗り終えたトタン板に、ステンシル印刷の木枠をかぶせた状態
黄色を塗り終えたトタン板に、ステンシル印刷の木枠をかぶせた状態 出典: 北林慎也撮影

つまり、黒地のベースに白や黄色で文字を書いているのではなく、逆に、白や黄色の文字部分以外を黒く塗ることで、あの独特の風合いの看板ができていた。

均一にテンションを掛けながら、黒インクが塗り込まれる
均一にテンションを掛けながら、黒インクが塗り込まれる 出典: 北林慎也撮影

この製法はいつ頃から伝わるのか詳細は定かでなく、朝岡さんがこの活動に就くずっと前から定着していたという。

ステンシル印刷で産み落とされるキリスト看板
ステンシル印刷で産み落とされるキリスト看板 出典: 北林慎也撮影

この製法だと、風雨にさらされて黒地が色あせても文字自体のかすれは無いため、ずっと言葉が読み取れて掲示の効果が持続しやすい。
「特に(古くから活動している)東北地方では、半世紀近く前に貼られた看板がきれいに残っていて驚くことがあります」(朝岡さん)

一枚一枚、丹念な手作業で仕上げられるキリスト看板
一枚一枚、丹念な手作業で仕上げられるキリスト看板 出典: 北林慎也撮影

一方でこの配色は、その一見おどろおどろしい警句と相まって、世間では「怖い」「不気味」といった反応も少なくない。
朝岡さんもそうした声は承知したうえで、「聖書の言葉をできるだけ目立たせて、多くの人の目に触れてもらうのが一番の目的」と、この先も変える考えはない。

できたばかりのキリスト看板は、黒地に光沢がある
できたばかりのキリスト看板は、黒地に光沢がある 出典: 北林慎也撮影

塗料のシンナー臭が立ち込める工場然とした制作の現場は和気あいあいとしていて、お気に入りのBGMを流しながら、声を掛け合う共同作業では冗談も飛び交う。

印刷で塗り込む塗料には、耐久性に優れた業務用の特殊なインクを用いる
印刷で塗り込む塗料には、耐久性に優れた業務用の特殊なインクを用いる 出典: 北林慎也撮影

ステンシル印刷の型枠に貼り付いたトタン板が作業台に落とされるたびに「ボワアアン」という鈍いバウンド音が高い天井に反響する。
意外に早い作業ペースによって、トタンの跳ね返る音が小気味良いリズムを刻む。

倉庫内に設けられた手作りのラックに、できたての看板が運び込まれる
倉庫内に設けられた手作りのラックに、できたての看板が運び込まれる 出典: 北林慎也撮影

黒い塗料が欠けたトタン板の縁を筆でレタッチすると看板のできあがり。
倉庫に組み上がった木製のラックに立て掛けて、入念に乾燥させる。

ステンシル印刷後に手作業で施される、筆によるレタッチ
ステンシル印刷後に手作業で施される、筆によるレタッチ 出典: 北林慎也撮影

ネット発信の今後は?

この冬に制作したのは大小さまざま60種類、合わせて2920枚。
ラックに並べて春先までじっくり乾燥させたのち、看板部隊のワンボックス車に積み込まれ、掲出先を求め歩くことになる。

サイズや文言ごとに仕分けられ、ラックに収納されるキリスト看板
サイズや文言ごとに仕分けられ、ラックに収納されるキリスト看板 出典: 北林慎也撮影

年末年始にメンバー総出で街頭に繰り出す恒例のプラカード宣伝活動を終えたら、この香川の新たな拠点を足がかりに、まずは岡山県内から新年の看板貼りをスタートさせるという。

「看板部隊」朝岡龍さんの相棒となる日産キャラバンの荷室。看板や電動ドリルなどの工具が積み込まれている
「看板部隊」朝岡龍さんの相棒となる日産キャラバンの荷室。看板や電動ドリルなどの工具が積み込まれている 出典: 北林慎也撮影

代名詞とも言える名フレーズ「神と和解せよ」が「ネコと和解せよ」に改変されたコラ画像が出回ったり、出くわした看板を写真に収めてはSNSに投稿する「キリ看マニア」がいたりと、ネット界隈にも熱心なファンがいるキリスト看板。
「YouTubeやTwitterで公式の情報発信を始めたら話題になるし、伝道の強力な手段になるのでは?」と朝岡さんに水を向けたが、「(会には)シャイな人が多いですから……」とのこと。

最新の型枠の文字デザインには、筆文字調フォント「昭和楷書」が使われている
最新の型枠の文字デザインには、筆文字調フォント「昭和楷書」が使われている 出典: 北林慎也撮影

かたや看板貼り活動については、「特に西日本ではまだまだ数が少ないところもあるので、これからも積極的に続けていきたい」と意気込む。
キリスト看板ファンは来年以降も、路上で新作を見つける楽しみが続きそうだ。

【動画】キリスト看板ができるまで(撮影・編集=北林慎也)

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