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連載

#19 マスニッチの時代

潮目を変えた〝渋谷の行列騒動〟「だから若者は…」が招く社会の分断

〝正しい情報〟ほど気をつけたい態度

若者向けワクチン接種の会場前には朝から長蛇の列ができていた=2021年8月28日、東京都渋谷区神南1丁目、山口啓太撮影
若者向けワクチン接種の会場前には朝から長蛇の列ができていた=2021年8月28日、東京都渋谷区神南1丁目、山口啓太撮影 出典: 朝日新聞

目次

【9月17日オンライン開催】広告と報道のプロが語り合う Webで価値ある情報を発信する"編集力"のこと
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新型コロナウイルスにおいて、若者への風当たりは必要以上に強いものがありました。そんなステレオタイプを変えたのが、ワクチンを求める若者の姿が映しだされた〝渋谷の行列騒動〟です。「だから若者は……」が、かえって社会の分断を招く時代。音楽フェスや学校生活など、若者に身近な課題から「正しいことの伝え方」について考えます。

 

奥山晶二郎(おくやま・しょうじろう)
朝日新聞のスマホ向けメディアwithnews編集長。7月に共著で出版した『現場で使える Web編集の教科書』(朝日新聞出版)を記念し、9月17日19時から、ゲストは牧野圭太氏を迎えてオンラインイベント「広告と報道のプロが語り合う Webで価値ある情報を発信する"編集力"のこと」を開催予定(https://peatix.com/event/2709727/)。
 

潮目を変えた〝渋谷の行列騒動〟

若者に対して、そんなイメージを持っている人は少なくなかったと思います。

実際、公的な調査でも、若者がワクチンに後ろ向きという結果は出ていました。

<国立精神・神経医療研究センターが2月にインターネットで約2万6千人を対象に新型コロナワクチンに対する意識調査をしたところ、35.9%が「接種したい」、52.8%が「様子をみてから接種したい」と答えたが、11.3%は「接種したくない」と答えた。若い年代ほど割合が高かった。また、女性のほうが高い傾向があった。65~79歳の男性の4.8%に対し、15~39歳の女性では15.6%だった。>
(新型コロナ)接種迷う若者、情報どう伝える 医師が動画出演「届くツールで」:朝日新聞デジタル

若者への見方を変えるきっかけになったのが〝渋谷の行列騒動〟です。

2021年8月27日、東京都が渋谷区に若者向けのワクチン接種会場を開設しました。対象は16~39歳の都内在住もしくは在勤・在学者。事前予約なしで受けられる一方、1日200人程度の用意しかなかったため、接種を求める若者で長蛇の列ができてしまいました。

列に並ぶ若者たちのインタビューがテレビで流れ、当初はネットによる手続きが用意されなかったという行政側の不手際もあり、若者に同情的な声が広がりました。

「潮目が変わった」とも言える〝渋谷の行列騒動〟。それを伝える報道への反応の中には、若者に対してステレオタイプな伝え方しかしてこなかったメディアに対する批判も目立ちました。

若者向けワクチン接種の会場前には朝から長蛇の列ができていた=2021年8月28日、東京都渋谷区神南1丁目、山口啓太撮影
若者向けワクチン接種の会場前には朝から長蛇の列ができていた=2021年8月28日、東京都渋谷区神南1丁目、山口啓太撮影 出典: 朝日新聞

大村知事が付け加えて言ったこと

若者およびその周辺の人たちが一斉に批判されたケースとして、2021年8月28日、29日に中部空港島で開催された野外音楽フェス「NAMIMONOGATARI2021」があります。

会場で撮影された動画などから、観客同士が密な状態であり、酒類も提供していたことが明らかになり、大村秀章知事が抗議する事態になりました。

そんな中、ハフポストが8月31日に次のような記事を配信しました。

<記者は、「音楽フェスは原則やめてくれというような強いメッセージを県として独自に出さないのか?」と質問。大村知事は、「それは違うのではないか」と述べ、イベントの開催制限などは求めない考えを示した。感染防止策を守りながら事業活動を続ける音楽業界関係者を潰しかねない、という理由からだという。「それをやると、結局真面目に一生懸命、感染防止対策をやって、音楽業界関係の皆さんの仕事も一生懸命支えたい、両立させてやっていきたいという人を、潰しちゃうことになりますよね。叩いちゃうことになりますよね。それは、私は違うのではないかという風に思いますね」>
「音楽フェスは原則禁止にしないのか?」記者から問われた愛知・大村知事の答えが話題に【“密”フェス問題】

新聞やテレビでは強い口調で抗議を伝える大村知事の姿が伝えられましたが、記者との質疑の中で、文化芸術自体を否定するわけではないという趣旨の発言もしていたのです。

法的拘束力がない中で、これまでの生活を変える〝要請〟に実行力を持たせるためには、様々な工夫が求められます。

ハフポストがフォーカスした大村知事の発言は、会見全体から見ると一部の要素だったかもしれませんが、フェスに関わる人には一番響いたメッセージだったのではないでしょうか。

大村知事の抗議を大きく伝えることに間違いはありません。ハフポストがフォローした質疑での言葉を必ず載せる必要もなかったでしょう。

しかし、たとえ、それが受け手にとって正しくて有益な情報であっても、届け方によっては反発を招いてしまう難しさがあります。そういう意味では、大村知事の質疑の言葉は、実は〝本丸〟だったとも感じます。

新型コロナウイルス対策が不十分な野外音楽フェスティバルの開催について、第三者委員会の設置を表明した大村秀章・愛知県知事=2021年8月31日午前11時44分、愛知県庁、小林圭撮影
新型コロナウイルス対策が不十分な野外音楽フェスティバルの開催について、第三者委員会の設置を表明した大村秀章・愛知県知事=2021年8月31日午前11時44分、愛知県庁、小林圭撮影 出典: 朝日新聞

〝正しい情報〟ほど気をつけたい

10代に圧倒的な支持を得ている短尺動画サービスの「TikTok」ですが、人気のあるコンテンツは、ダンスだったり、生活の中でちょっとクスッとするシーンの再現だったり、基本的にポジティブなものばかりです。

「TikTok」上で拡散される動画の特徴からは、若者との接点を作るためには、批判ではなく肯定、排除ではなく共感が大事なポイントであることがわかります。

8月の終わりから9月にかけて各メディアは、夏休み明けの学校生活に悩む子どもに向けた企画を展開しました。そんな中、「TikTok」でしんのすけさん(shinnosuke.tiktok2)がアップした1本の動画がバズりました。

@shinnosuke.tiktok2

こちらサブアカ。本アカもよろしく。視聴者さんからのメッセージ読んで作ってみたわ。#兄弟あるある#あるある#ネタ

♬ あなたに(原曲歌手:モンゴル800)[ガイド無しカラオケ] - 歌っちゃ王

学校に行きなくない弟を前に細かい理由はまったく聞かず、ハイテンションで連れ出そうとする兄を演じています。学校に行けないことを批判するわけでもなく、同情するわけでもなく、学校に行けなくさせている〝犯人〟を追求するわけでもなく、とにかく今現在の状況を何とかしようとするメッセージが22万を超える「いいね」と、1300を超えるコメントを集めました。

動画の兄は、一見、自分の思いのままに突っ走っているだけのように見えますが、実際はその逆で、弟が今してほしいことに徹しています。

コロナを巡っては、若者含め「困っている人のため」という思いゆえに政府やメディアから様々なメッセージが発信されました。しかし、その実、自分たちが言いたい批判をぶつけているだけになっていなかったでしょうか。

そんな一方的な発信が、「困っている人」からの反発も招いてしまっているのだとしたら、もったいないの一言では済まない深刻な事態と言えます。

届ける相手がどのように受けとるかをまず考えてから発信する必要がある。発信する側が〝正しい情報〟だと思ったときほど、その心構えが大事になっているようです。

9月17日19時からオンラインイベント

 

連載「WEB編集者の教科書」が『現場で使える Web編集の教科書』というタイトルで書籍になりました。刊行を記念して、トークイベントを開催します。【イベント申し込みはこちら】

ゲストは、著書『広告がなくなる日』で広告業界に一石を投じている牧野圭太さんです。牧野さんは、クレヨンしんちゃんが「かあちゃんの夏休みはいつなんだろう」とつぶやくたった1枚のポスターで話題を作り、ライバルのマクドナルドへメッセージを送るバーガーキングの広告でも注目されました。

膨大な広告費をかけることだけが広告ではないと訴える牧野さん。ジェンダーや環境など社会的メッセージが広告でも評価される時代に、Webメディアにとっても、その姿勢は無視できません。

そんな牧野さんと、『Web編集の教科書』の編集に携わった奥山晶二郎withnews編集長が、広告と報道、それぞれの立場から、これからの時代に必要な編集力について語り合います。

ライター、編集者、宣伝担当、広報、個人で発信する人まで、Webの発信に関わる人は必見のイベントです。
 

人々の関心や趣味嗜好(しこう)が細分化した時代に合わせて、ネット上には、SNSやブログ、動画サービスなど様々なサービスが生まれています。そんな中で大きくなっているのが、限られた人だけに向けた「ニッチ」な世界の存在です。ネットがなかった頃に比べれば手軽に様々な情報を得ることができるようなった一方、誰もが知っている「マス」の役割が小さくなったことで、考え方の違う人同士の分断を招きかねない問題も生まれています。膨大な情報があふれるネットの世界から、「マスニッチの時代」を考えます。

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