連載
#4 #医と生老病死
「死は苦手」な医師とおかざき真里さんが、比叡山で尋ねたかったこと
〝「医」はもともと、「死」を遠ざければ勝ちという勝利条件〟

医師だって死は苦手――。病理医・ヤンデル先生は、命と向き合う医療の現場で、実は死に向き合う機会があまりないと告白します。そんなヤンデル先生が、「死」と密接である仏教をテーマにしたマンガ『阿・吽』の作者・おかざき真里さんと共に、比叡山延暦寺の僧侶、小鴨覚俊さんと語り合う〝場〟を開きました。「死が分からない」という問いの先に見えたものとは?
SNS医療のカタチとは:
「医者の一言に傷ついた」「インターネットをみても何が本当かわからない」など、医療とインターネットの普及で生まれた、知識や心のギャップを解消しようと集まった有志の医師たちでつくる一般社団法人医療リテラシー研究所(代表・大塚篤司)の活動。オンラインイベントや、YouTube配信などで情報を発信。
SNS医療のカタチTV2021とは:
「医療をもっと身近に感じてほしい」「医療従事者と患者との垣根をなくしたい」……。そんな思いから、SNSなどで情報を発信してきた医師(皮膚科医・大塚篤司/小児科医・堀向健太/病理医・市原真/外科医・山本健人)たちがボランティアで企画・運営するオンライン番組が「SNS医療のカタチTV」です。
2021年8月21,22日に開催される「SNS医療のカタチTV」に、withnewsもメディアパートナーとして協力しています。オンライン番組にあわせて、連載「#医と生老病死」をスタートしました。「SNS医療のカタチTV2021」は、こちら(https://snsiryou.com/)からご覧ください。
おかざき真里さん:漫画家。2021年5月に最澄と空海を描いたマンガ『阿・吽』(ビッグコミックスピリッツ)が完結。9月にコミックス最終巻が刊行予定。(https://twitter.com/cafemari)
たらればさん:今回の企画のファシリテーターを担当。だいたいニコニコしている編集者。(https://twitter.com/tarareba722)
『阿・吽』完結がきっかけ、和尚と座談会
たらればさん
医療と仏教をつなぐもの、抱えている問題は同じだと感じました。究極のコミュニケーションエラーって「死」なんですね。
ヤンデルさん
医者は「病」の専門家ではありますが、「死」の専門家ではないんですよ。
最澄・空海を描いた『阿・吽』という作品を通じて、和尚にお話をうかがえる。「医者と和尚が話をするって熱くない?」と思いました。
たらればさん
ヤンデルさん
扱っている領域は近いのに、話す機会はあまりないんですよね。接続していない、というか。
医者や宗教の「筋肉」想像や体験で埋める
おかざきさん
小さい頃から接していることでつく「筋肉」ってあると思うんですよ。お医者さんの筋肉もあると思う。20年続くと板についてくる筋肉ですね。

おかざきさん
生まれた時から宗教にふれていたら、宗教の筋肉がついてきます。これはなかなか途中からはつけられないなぁと思っています。だから私は、「20年選手に入れない」という意味の素人です。
その筋肉がないアマチュアスポーツの人間なので、想像や小さな体験で埋めていくしかない。筋肉のある人たちから見える「死」って、また違うのかなぁと興味がありました。
医療は「死」を遠ざければ〝勝ち〟
ヤンデルさん
四万十川のほとりで、訪問診療で看取りをなさっている小笠原望先生の本『診療所の窓辺から―いのちを抱きしめる、四万十川のほとりにて― 』を読んだんですね。小笠原先生はもともと数十年にわたり、救急医をやっていた方だったそうですが、今はがらりと違う環境で、いわゆる看取りの現場にいらっしゃいます。
医者の9割は、看取りの現場に近くないと思うんですよ。内科・外科・救急で働いている間は、思いのほか、「死」からは遠い。
胃カメラ操作がうまいとか、お産や頭の出血を止めることとかは得意でも、最後の最後で「じわじわ死に向かって行く人」を診る人は少ないんです。
ヤンデルさん
地域医療に入って、訪問診療を始めて「命のしまい方」にふれていくと、別の筋肉がついてくる感じがあります。
だから我々は、自戒しないといけませんね。生と死を扱っているけれど、死は苦手だと。死の現場にいるっていうけれど、実は生きている現場にいるんだと。
おかざきさん
ヤンデルさん
「医」は「死」を追いやるための技術として、ヒポクラテス時代から積み上げてきたものです。もともと、「死」を遠ざければ勝ちという勝利条件なんですね。
たとえば心臓外科は、瀕死で入院してきた患者さんが自分の足で歩いて帰っていく科ともいわれます。もちろん、手術が失敗したら亡くなってしまう。ゼロかイチかの世界で、大変な仕事ですが、基本的に「死」は避けなければいけないゴールです。
ヤンデルさん
これに限らず、西洋医学は「死を敗北とみなす」ところがあるんです。本当は、そうでもないんだけれど……というのを最近考え始めているところなんですが。
医者が「死」の専門家ではない、とまで言いきってしまうと語弊かあるかもしれませんけれど、心のどこかで死のことを考えているような状態ながら、どこか目をそらしてしまっている、というのが、僕も含めた多くの医師の実状ではないでしょうか。
「言葉では届かない世界がある」
ヤンデルさん
おかざきさんが「〝生老病死〟を一番描いたマンガ」について答えた場面にはしびれました。その……『阿・吽』じゃないんですよ……!
あのマンガで、「リアル」を描くことで、生老病死が浮き上がってくる、という。ぜひここは本番の「SNS医療のカタチTV」で確かめてほしいですね。
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イベント日時やグッズについて。(2号が)丁寧に書きました。ぜひチェックしてください。#SNS医療のカタチTV#SNS医療のカタチTV2021
おかざきさん
小鴨和尚の言葉で印象に残っているのが、「言葉では届かない世界がある」ということでした。
本当は山に行く、出向くってすごく大切なんだろうなと感じましたね。自分で山に登って、山の空気を吸って、そこで和尚の話を聞いて、里に持ち帰るというのが大事ですよね。
だから「言葉じゃ追いつかないから、あまり深いところまでは話せない」というところがあったような気がします。
ヤンデルさん
その修行が今日まで伝わっているということは、やはり人びとに受け入れられるものがあったということでしょう。
今と昔では、不安のかたちも違うのに、何百年も受け継がれてきた言葉について僕が「そうだな」と思えるというのが面白かったです。
「看取り」に近いケアマネの存在
たらればさん
正直、そう言われちゃうとこちらは打つ手がなくて困っちゃう(笑)。
おかざきさん
ヤンデルさん
医者が宗教に「あとよろしく」と投げている部分になるなーとは思ってました。
スピリチュアルペインの部分は、臨床宗教師が向き合ってくださっていますし。
「臨床宗教師」とは、被災地や地域社会、あるいは医療機関や福祉施設などの公共空間で、心のケアを提供する宗教者と指します。
(上智大学グリーフケア研究所グリーフケア人材養成講座のホームページより
https://www.sophia.ac.jp/jpn/otherprograms/griefcare/kouza/shikaku3.html)
たらればさん
ヤンデルさん
そうですね。あとは、ケアマネージャーとか。
看取りにもっとも近い、患者さんが死に向かうところ、あるいは患者さんが亡くなった後のことを患者さんが生きているうちに一緒に整えていくのって、ケアマネの力が大きいと思います。
訪問診療で「死」と向き合っている医者もいいですが、ケアマネの人はさらに鋭いイメージがあります。いずれ、お坊さんと一緒に(笑)お話しを伺ってみたいなあと思います。

#SNS医療のカタチTV2021×withnewsコラボ
「医療をもっと身近に感じてほしい」「医療従事者と患者との垣根をなくしたい」……。そんな思いから、SNSなどで情報を発信してきた医師(皮膚科医・大塚篤司/小児科医・堀向健太/病理医・市原真/外科医・山本健人)たちがボランティアで企画・運営するオンライン番組が「SNS医療のカタチTV」です。
2021年8月21,22日に開催される「SNS医療のカタチTV」に、withnewsもメディアパートナーとして協力しています。オンライン番組にあわせて、連載「#医と生老病死」をスタートしました。
「SNS医療のカタチTV2021」は、こちら(https://snsiryou.com/)からご覧ください。