お金と仕事
ポロシャツの知られざる歴史 襟あるとなぜか公式感?絶妙なバランス
「ワニ」マークの秘密を追った
おしゃれが好きか嫌いかに関わらず、多くの人が着たことのあるポロシャツ。Tシャツだと失礼な気がするけれど、ジャケットは暑い、といった時に重宝しています。中学校までは「大人の服」だと感じていましたが、いつの間にかポロシャツが似合う(はずの)年齢になったアラサー記者が、ポロシャツの歴史に迫りました。(朝日新聞コンテンツ編成本部・影山遼)
取材のきっかけは、全く関係のないテーマの取材で出会った芸人コンビ「ずん」の飯尾和樹さん(52)でした。
丁寧に対応してもらった二度の取材を終えて、雑談をしていると、暑い時期に人と会う際に着る服の話になりました。
飯尾さんは「私はポロシャツをよく着ます。さっと着ることができ、かつフォーマル感が出ますよね。襟があるというだけで、なんであんなに公の場で通用するようになるんでしょうか」と話し、ポロシャツってそもそも何だろうとも不思議がっていました。
たしかに、オンライン会議などで見られる昨今の謎マナーに照らし合わせたとしても、相当格式ばった場でない限り、ポロシャツを着ていればどこにでも対応できるよう感じます。
街でポロシャツを着ていた人にも話を聞いてみました。
JR新橋駅前を歩いていたポロシャツ歴30年以上だという男性(52)は「クールビズが導入されてから、特に着るようになりました。これまで、ワイシャツでベタベタになりながらなぜ夏に頑張っていたんだと疑問に思うほど快適です」とその良さを力説します。
社会に出て2年目だという男性(24)は「最近はビジネスの場面により適したポロシャツも売っているのを見かけます。学生時代から夏は基本、ポロシャツです」と話します。
改めて街を見回してみると、男女を問わずにポロシャツの仕事人は一定数いるようです。ただ、ワイシャツ(関西ではカッターシャツと呼ばれることも)勢の方がまだまだ主流でしょうか。
ちょうど街での取材の日に着ていた自分のポロシャツが「ラコステ」だった縁で、ラコステ ジャパンにポロシャツの歴史を聞いてみました。
同社マーケティング部の担当者によると、ラコステ社の誕生は1933年のこと。創業者は、フランスのテニス選手で、4大大会で7回優勝した経験のあるルネ・ラコステさん(1904~1996年)でした。
創業の少し前、1927年のこと。当時のテニス界では、のりの利いた伸縮性のない、ワイシャツに似た長袖のシャツが主流でしたが。暑く、動きにくいシャツに不満を感じたラコステさんは、ポロ競技の選手が着ていた汗をよく吸うシャツを改良し、「ジャージー・プチピケ」と呼ばれる襟の付いたニット素材の半袖のシャツを考え出しました。
左胸には自らデザインした緑のワニのロゴを刺繡(ししゅう)。これが今でも定番として親しまれているポロシャツ「L.12.12」が誕生した瞬間でした。色は白で、当時としては短い丈。初めて見た人々は驚いたといいますが、シャツを着た選手の活躍などで、着心地が受け入れられていき、1933年にニットメーカーと共同で会社を設立するまでになりました。
「L.12.12」は、時代によって多少のアップデートはしつつも、今に至るまで基本のデザインは変わっていないそうです。大きく変わらないデザインが長く愛される秘訣ということでしょうか。
こうしてフランスで生まれたラコステのポロシャツは、イタリアやアメリカを経て、日本に1964年に上陸。2019年時点では、世界98カ国で、100種類ほどの型が販売されているといいます。
実は、「ポロ」の名を冠したシャツは、ラコステ以前の1900年から発売されていました。
きっかけは「ブルックスブラザーズ」の創業者の孫が、ポロの試合を観戦した際、選手の襟が風でなびかないようにボタンで留められていたのに気づいたこと。この出来事を元に誕生した定番のシャツが、今でもポロカラーシャツ(いわゆるボタンダウンシャツ)と呼ばれています。
歴史パートが長くなりましたが、本題の襟はなぜついているのでしょうか。
ラコステ ジャパンの担当者は「ポロシャツは、それまでテニスで着ていた(襟付きの長袖)シャツを改良したものですので、構想段階から『襟ありき』だったのだと思います」と話します。
生前の新聞や雑誌のインタビューなどからまとめると、ラコステさんは現役時代、風邪をひきやすく、原因と汗を吸いにくいシャツにあると考えていました。そこで、知人が着ていたポロ競技用の吸水力に優れたシャツに注目。丸首で襟のないシャツでしたが、テニスで着ていたシャツに合わせるべく襟をつけました。もととなったテニスのシャツに襟があったからこそ、襟は必須だったということですね。
ちなみに、なぜラコステのポロシャツにはワニなのか。これは、ラコステさんの「あだ名」に起因するといいます。1927年、「ワニ革のスーツケース」を賭けた試合があり、そこで見せた獲物を逃さないコート上での粘り強さから「ワニ」というあだ名が定着し、左胸の見慣れた刺繡につながっていったといいます。
ポロシャツの最近の傾向も聞いてみると、先ほどの担当者は「自宅でのリモート会議など、楽な格好でいたいけれど、マナーの枠に収まるアイテムとして買い求めていただくことも増えています。ビジネスシーンにおいてもカジュアル化が進んでおり、シャツの代わりとしてジャケットの下に着用いただくこともあります」と教えてくれました。
快適さを求めつつ、マナーとして襟をつける形で生まれたポロシャツ。それは、個人のスタイルを尊重しつつ、みんなにとっての心地よさを両立する絶妙なバランスだったともいえます。服装のカジュアル化や仕事のオンライン化が進む中、ポロシャツの活用シーンは今後も増えていくのでしょう。
次回以降の取材では、そもそもシャツとは何か、なぜ生まれたのか、というテーマを追いたいと思います。衣服の歴史という壮大な話に迫る必要がありそうです。
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